英雄の集い
大柄な青年は泣き出しそうな顔で『剣匠』を見た。
『剣匠』はそんな彼の様子を無視して横から回り込んで肩をバシバシとたたき楽しそう。
「よう。ファルコ二号! 久しぶりだな」「お、お久しぶりです」
戦士として、指揮官としては素晴らしい精神力と溢れる闘志を見せる彼はなぜか人づきあいだけは苦手である。
もっとも、西部都市国家群の『勇者』である以上、王宮の人づきあいは一通りこなすのだが。
若く見えるが二人とも三十路を過ぎた。冒険者としてはすでに成功したと言っていい。そろそろ引退の時期である。
ちなみに、相対すれば『剣匠』とてこの男に殺されかねない。
それがわかっているからの牽制である。
「また苛めてる」「だってこいつゴツイのに可愛いし」
『剣匠』の妻が秋波を大柄な青年に送るがやっぱり迷惑そうだ。
酒気の強い酒を呑み干した女は巨大な胸にファルコを誘う。
ファルコは嫌そうに左右に首を振った。
「名高い『剣匠』夫婦をお迎えできて光栄です」ホスト役を務める姫君は楽しそうだがファルコとしては今すぐに旅立ちたい気分だ。
旧友すべてと語り合う機会は珍しいがこのメンバーがそろうときは基本的にろくでもない事態なのだから。
「『謎を追う者たち』。『星を追う者たち』。そして『夢を追う者たち』」
姫君は『剣匠』の妻の差し出す火酒の器を易々と呑み干す。
「生きる伝説たちがそろう。私は伝説の中にいるのですねえ」
呑気に何を言っている。そのうちの一つは危険人物揃いだと二人の『ファルコ』は思うところがあったが黙る。
この姫君が豪胆なのはよく知っている。
「とりあえず、復興についてはケーンと『VV』を送った」
「こちらも、シーナと『教授』たちを周辺の治安維持に」
「ご苦労なことだなまったく。助かる。
で。俺たちはまたまた指名手配犯か」
ロー・アースは嫌そうにつぶやくと『もちろん、サワタリの件が片付けば再び名誉職に』と調子のよい姫君にうんざり。
足元をちょろちょろしていたファルコを呼び寄せ、二人でげんなり。
げんなり組に先ほど地下牢から出てきたチーアも加わる。
「てめえら。なんでいる」「面白そうだから」「世界の危機と聞いて」
チーアの指摘におどけて答える『剣匠』と優等生発言のもう一人のファルコ。
「な、な、なんですか。この人たち。すごく強そうですけど」「強いんだよ」
おびえる元持祭に悪態を隠さないチーア。
泣き出しそうな元持祭をさっそく物色。今夜の閨に誘う『剣匠』とその妻に顔を赤らめるもう一人のファルコ。
「かなり楽しめそうだぜ。アレがいっぱいいると思うと楽しくてな。あ、酒と食べ物は切らすなよ。暴れるぞ」「心得ています」
「あと女も頼む。オマエでもいい」「お断りしますわ」
優雅にかわす姫君。彼女は不快そうに顔を歪める『剣匠』に「奥さんではだめなのですか」と笑う。
「せっかくこんなところまで来たのに女も出さないのか」「いい加減にしてください」
優等生発言のもう一人のファルコだが彼は『無敵』と呼ばれる西部都市国家群の『勇者』であり、決して弱いわけではない。むしろこのメンバーの中で最も強いかもしれない。
「余計事態が悪化した気がするのの」「だな」
おびえるファルコにため息をつくロー・アース。
「あとは姫に任せてさっさと旅に出るか」「ああ」
チーアもいろいろ思うことがあるが、あの姫様ならこの濃いメンバーを使いこなせるはずだと信じることにした。
「行ってくる」「のの」「あんまり任せたくないが、『剣匠』。『無敵』。任せて良いか」
「任してほしくない。この国のお姉ちゃんは任せろ」「『剣匠』さんともどもお任せください」
「だから、てめえはなんでそんなお坊ちゃんなんだよ。その力があれば」「何ですか」
「解ったよ。ちゃんとするから手をはなせ」「聞こえません」
相争う二人の勇者を見てられないと見切りをつけた三人は久々にあう旧友たちとの別れを惜しみつつ、自分たちの仲間とともに旅立った。
「逃げたって言いませんか」
「それは、『サワタリ』より質の悪い問題ね」
「リンス、みんなとあえてしあわせ」
合流した三人の仲間の各々のコメントに彼らは完全無視を決め込んだ。




