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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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107/125

『娘くれ』『やだ』『じゃ獲物くれ』『ことわる』

 『おい。苦戦してるか。ファルコ』

兵士は深々と兜をかぶり、顔を隠している。

「全然」狭い牢獄を活かし、大柄なトカゲと蝙蝠とワニと人の混合のような魔物と戦う幼児は平然とそう答えたが若干押され気味。

一方、牢獄の意外な頑丈さに思わぬ苦戦を強いられる化け物はかなり苛立っている。

「ちょこまかと……受けよ!『闇の焔』を!!」

それは即死術とされる。触れただけで身体の一部もしくはすべてが削り取られるという術。

異世界に帰還を目指していた『サワタリ』が習得した術の一つである。

あらゆる防御を無効化し、触れた物質を削り取って異世界に強制転移させる。

しかしサワタリはこの術の研究で元の世界に戻ることはなかった。

いわくつきの術である。


「遠慮するなって」「遠慮する」


 ファルコは次々と飛来する『闇の焔』を牢獄の床を蹴り、あるいは礫をぶつけて無力化していく。

「ちょこまかと!」「なぁ。こいつを止めるにあたって別に殺しても問題ないよな」

兵士が退屈そうに告げて肩をすくめる。その肩には稲妻の紋がある。

このような地下では何の役にも立ちそうにないごついタワーシールド。そして長い剣。

「せっかく面白そうな奴に出会えたのに。くそ」「残念だねぇ」

ファルコは深々と短剣を目標に突き立て、蹴っ飛ばした。


「『剣匠』が来ているってことはケーンやディーヌスレイトも来ているよね」「ああ。だって久しぶりの『世界の危機』だぜ? もう楽しくて家を出る前はウキウキで眠れなくてな。女房と5回位……ってオマエまだ童貞だったっけ」


 ぼこぼこと毒の沼になっていくそれを残念そうに見ながら兵士を装っていた男はため息。

「なんか、面白そうだから来てやったのにもう終わりか」「君は娘の世話をほったらかしすぎるんだよ」

ふとファルコは自分の腹違いの兄を思い出し苦笑い。

「ケーンやディーヌスレイトが苦労しているって手紙もらったよ?」「参ったな」

英雄だって子育てが得意とは限らないものだがこの男とその妻には特に似合わない。

「というか、指名手配受けていなかったっけ」「濡れ衣だ。ちょっとムカつく小国の国王一家のチン〇を寒風に晒してやっただけじゃないか」「充分じゃない」

取りあえずこの知り合いはあまり良好な奴ではないが腕は確かだ。

根は悪くないのだが、行く先々で権力者たちとトラブルを起こす。

「せっかくの祭騒ぎと思ってはるばる大陸中央諸国から来てやったのに」「帰れ」

温厚でかわいらしい幼児の姿をしたファルコがここまでいう相手は珍しい。

「フィリアスだったっけ。かわいくなってる?」「死刑」

いまだ沸騰する毒は魔剣を侵すには至らないが人間くらいなら即死させることはできる。

そして男は剣の腕前でも有名だが女癖が悪いことでも有名だ。

大陸中央諸国一、二を争う剣豪夫婦はその素行により『勇者』とは言われていない。

権力者には行く先々で指名手配され、しかし民衆の支持は絶大。

それが彼。『剣匠』と呼ばれる男だ。


「ちょ?! ちょっとっ?! 助けに来たんだぞッ?!」「娘に手を出す奴は……あと絶対見物してたよね?! 昨日の昼間から気配してたしッ?!」


 仲が悪いらしい。

ファルコと男はひとしきりじゃれ合うと移動を開始した。


「しっかし懐かしいよな」「みゅう」


 ファルコは結局男の背中におんぶしてもらう形になった。可也嫌がったのだが。

「うむ。娘が生まれたころを思い出す」「娘にしてあげてください」

義理の兄と言いこの男と言い。

「今絶賛反抗期。この間帰ったら石を投げられた」「当たり前です」

「『私の父はケーン、母はディーヌスレイトだ』とか言われてディーヌスレイトが怒ってな」「それは同情するけど」

主に娘に。


「『滅び』の件以来?」「だね」

「『サワタリ』ってやつくれよ。最近面白くなくて」「分身で我慢して」


 何を言っているのかよくわからない会話を二人はつづけ、王城を脱出する。

はた目には迷い込んだ幼児を保護する兵士に見えたのだろう。兵士たちは彼をことごとく見逃した。


「さすが『剣匠』」「まぁね」

「嫌われている」「お前」


気配を絶つ術を披露して自慢げだった男の表情はファルコの毒舌によってがっくりと沈んだ。

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