聖職者という名前の大悪党
そういえば。
あっさり逃げていいのですかと聞く持祭。
今更自らの犯した重大さに気が付いたらしい。
「問題ない。俺ら宗教団体だ」「はぁ?」
にこやかに笑うユースティティアことチーア。
怪訝そうな持祭は基本的に礼法や教養はあるが人生経験に欠ける。
「信徒たちが教義に従うか否かより、第一宗教であり続ける限りトップ以降はみんなうちの教義を聞く羽目になるから結局俺らが国々を支配する」「どなたからそのような悪知恵を?!」「お前の名前の元になった女性」「とんでもない悪党だったのですね?! かの聖女様はッ?!」
教養のかけらもないはずだと思っていた自らの上司はかなりの食わせ物かもしれない。持祭は上司への見方を少し変えることにした。
「今や俺が死んでも問題なく国は動く」「嫌です。なので今の台詞は聞きません」
さっさと進んで下さいまし。お尻が邪魔でございます。
持祭の台詞に過剰に反応するユースティティアはどうみても聖女ではない。
「ぶっちゃけ政体より支配する人」「悪党すぎます」
「『みんしゅしゅぎ』だって強引に決める人間がいないと話にならんと他の奴から聞いた」「そうなのですか。『最初の剣士』の理想が実現しない理由の一つですか」「歴史はオマエのほうが詳しいだろ」「伝承はユースティティア様のほうが上でございます」
薄暗くじめじめした隠し通路を歩む二人の聖職者。
と、いってもその言動は明らかに神が聞けば呆れそうだが。
「で。オマエが重要なのだ」「如何な使命もお受けしましょう」
肩をがっと掴んで真摯な瞳で乞うユースティティアことチーア。
敬愛する上司に懇願されて二つ返事でキラキラした瞳で返事をする彼女。
どうみても感動している。すこし上気した頬といい、華やかな香りが漂うようなしぐさと言い相当参っている。
「本当か? 神に誓うか」「もちろん!!!」
ユースティティアことチーアは悪党の笑みを浮かべて呟く。
「汝の誓いは承認された」「へ?」
神官は誓いを守らせる契約祈祷を使える。破れば死の苦痛を伴う。
「今日からお前は高司祭だ」「……」
意味が解らずぱくぱくと口元を動かしている彼女に。
「持祭から一気に高司祭。史上に残る大出世だな」「え、え。えっと」
「奇跡が使えないのはオマエの精神的抑制に由来する。そして高司祭なんて周囲がしっかりしてればなんとかなる」「み、み、認められません」
せいせいしたという笑みを浮かべる女性と首をぶんぶんふる年若い女性。
「乱心の末、王城を攻撃して暴れた先代……もとい魔物を討った英雄な」「ひ、ひ、卑怯ですよッ?!」
抗議する彼女に『俺もやられた』と言ってウインクするユースティティアことチーア。
彼女は手早く髪の毛をまとめ、どうして隠し通路にあったのか不明な男物の服を手早く身にまとう。
「姫様、約束守ってくれたか」「グルですかっ?!」「当たり前だろ」
さっさと『サワタリ』を倒させに行きたいのに処刑しろと煩い奴がいる。
両方を取るならこうなるとチーア。
「つまり。私は」「うん。いいとこに来てくれた。これで障害なく冒険に出れる。ほめてやる。よしよし」
額をなでなでして見せるチーア。
身体を震わせている持祭は錫杖をゆっくりと持ち上げた。
装飾過多だが充分メイスとして使える代物である。
「ちょ?! ちょっと待って?! 謝るからッ?! 後でお礼するからッ?!」
チーアの声が地下に響いた。
※ 現実世界でいえば某国。
S価学会を支持母体とするK明党。
集団的自衛権などなど教義と反する第一党と協力関係にある与党。
自らの教義や理想はあっても一旦ひいて第一党に組しつづけているだけで自然と教義を拡大できるし、第一党関係者を教義で染めていける。
結果的に表はさておき実態でトップになることができる。
また、宗教は国家の垣根を超えるのでその活動を続けている限りすべてを支配することが可能になる。
かつて共産主義者が危険視されたのも似たような理由。




