旅に出る
「ふぃりあす。今すぐ家を出るんだ」
ぼろぼろのおうちは大分様子が変わってきて、ちょっとは見れるようになってきました。
ドワーフ王さんたちやお父さんの知り合いのドワーフの夫婦さんたちのお友達が来てくれたからですが。
いえ、むしろ綺麗になりすぎて昔の傷を再現してほしいとかいう我儘を私が言うくらい綺麗になってしまったのが問題です。
お父さんと背比べした線とかは柱は残っていましたがそのまま柱として使うことはできませんでしたし。
あの時はラフィエルにお父さん、ものすっごく叱られていたっけ。
「分度器、天空図、あと」「お嬢様。思い出の品はラフィエルにお任せくださいませ」
お嬢様はこちらです。そうラフィエルは告げると剣と槍。柄を変えて磨き抜かれた槍の穂先の短剣を渡してくれました。
現実って。現実ってこんなものですよね。
街を開けていたことに対する査問を行うべきだ。
被害が大きすぎて誰かの悲しみや怒りを受け止める人がいる。
それがお父さんであり、チーアさんだっただけです。
『死刑にしろ』という意見も少なからずあるそうです。
実際のところお父さんは宮仕えではありませんし、同族の皆様を招集してサワタリ対策を行い、チーアさんとてこのような事態にならないように先に旅に出たのですが裏目に出た結果は動かず。
「出られない。出たくないよ。お父さんはどうなるの?!」「旦那様を縛ることなどできはしません。ですが」
解ってる。私は彼の娘ですから。
「そのまま、あえて刑を受けたりすることもあると?」「だから僕がいるんだろ。オマエを送り出したらあの愚弟の世話もしなければいけない」
いつも通りふんぞり返って偉そうな伯父ですが、ちょっとだけ感謝したくなりました。
いつも通りな人が一人いるだけで、どんなに苦しくても癒されることがあるのだと。
「おじさん」「あ?」「ありがとう」
『ふぃりあすがおかしくなった』慌てる伯父にちょっとだけうれし涙がでました。
私はふらつく足に活を入れて力強く踏み出します。
新調したサンダルは適度に涼しく、まだ焦げと異臭の残る町並み、嘆きと怨嗟の声をそばに楽しい歌をあえて歌おうとする詩人を押しのけて。
「では、次の歌は定番の『夢を追う』」「その歌を謡うなッ?!」
殴り合いが始まる中、私のすそを伯父が引きました。
「気にするなってほうが無理だし、逃げれば君もそしりを受ける。
それでも君は逃げねばならない。死ぬより辛くてもね」
お父さん。
無事でいてね。
私は伯父とともに愛した都を出ました。
父と過ごした懐かしい故郷。ローラを出たのです。




