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お父さんは『勇者』さま  作者: 鴉野 兄貴
『黄金の鷹』と『真銀の隼』

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にせゆうしゃ

 『に~せゆうしゃっ♪ にせゆうしゃ♪』

からかう男の子たちに泣き出す私。昔の記憶ですよね。

普段すぐ男の子を追い回すお転婆が偽勇者とお父さんを罵られただけで怒るを通り越して泣いてしまったので余計調子に乗ったというのと、ここまで来たら引っ込みが効かないという双方の理由があったようです。

 もっとも、その時の私は悔しくて哀しくてそれどころではなかったのですが。

父であるファルコ・ミスリルには古くからの友人として西部都市国家群の勇者様がいらっしゃいます。

名前も同じファルコ。

ファルコ・アステリオン。

ひとは彼を『無敵』と呼びます。


 かつて世界を滅ぼすとされる『滅び』そのものを打倒した英雄の一人。

彼の仲間たちも誰もが知るような一騎当千の英雄たちばかり。


 一方、うちのお父さんは甘い物をもらって喜びのあまり地面をころころ転がって遊んだり、みのむしごっこを伯父と楽しんだり、悪戯が私にばれて物干し竿に吊るしたらはしゃいでいていっこうに反省のそぶりを見せず、苛々して遠くで眺めている私のほうが風邪をひきかけたり、そののち執事のラフィエルに本気で叱られ(ラフィエルいうところの『ご忠言』ですが)ごはん抜きにされて拗ねたり、悪戯好きの子供たちに苛められてぴーぴー泣いていたりと誰がどう見ても英雄の歌にうたわれる人物には見えず。

容姿に至っては『光り輝く鎧に身を纏い』の時点で大嘘だったりします。

うちの父は短剣と盾、弓とダーツしか使いません。

「お前のところの親父、『滅び』に負けたって言うじゃないか」それは。

父は詳細を語ってくれませんでしたが、少なくとも止めを刺すには至っていないそうです。

「ファルコ・ミスリルはファルコ・アステリオンの功績を盗んだ泥棒なんじゃないか。ほら、『子供』だし」「かも」ちがいます!


「にせゆうしゃのこども~」「にせゆうしゃのこども~」


 うずくまって泣いている幼き日の私をすくいあげてくれたのはとても背の高い穏やかな顔立ちの美青年でした。

「ファルコ・ミスリルは勇者ですよ。私は、その。そういう柄ではないので」

子どもたち相手に頭をさげて見せるその方は、ちょっと情けないというか。

「あの時も、何度も何度も助けてくださいました。

それに私も結局『滅び』を倒すには至りませんでしたから」

吟遊詩人は無責任なのです。そう続けるその方。

「おっちゃんだれ?」「おっちゃ……」子供の戯言に泣きそうなその方。

「ええと、その。信じていただけないとは思いますが、『星を追う者』の一人です」「うそつけ」「うそつけ」

「あれか。『幸福を運ぶもの』?」「にしちゃちょっとなぁ」

「ほかに男いたっけ? 『教授』?」「どうなんだろ」

「でも、すっげ~男前だぞ。こいつ」「情けないけどな」

上背が二メートルほどあるので威圧感のほうが先にありますが、細面の美男子と言っていい容貌です。手足もすらりと長くてとてもきれいですし。

うわさに聞く上位巨人族みたい。


「ディーヌ。助けてください」「貴様は子供の相手もできないのか」


 真っ黒なマントを身にまとい、大きな青い斧を背負った美貌のエルフさんが私の顔を覗き込みます。

「泣くな」「……」エルフさんって。エルフさんって時々無茶を言う生き物の気がしてきました。リンスさんもそうですけど。

「てい! このでかぶつ!」「痛いです。やめてください」

「にせゆうしゃの仲間はゆうしゃの名前においてぶったおしてやる」「ディーヌ。何とかしてください」「無理だ。私は子供が大好きなのだ」

耳をぱたぱたして嬉しそうな黒マントのエルフさん。彼女は私を抱きしめてはなしてくれません。

「耐えろ。ファルコは耐えるぞ」「善処します」

とはいえ、棒で頬を撃たれたら大人なら怒っていいと思いますよ。

「ね、ファルコさん」「……」

「あいつの娘というからてっきり」「驚きましたか? ディーヌスレイト様。それとも」「その名前はよしてくれ」

何とか笑みを作れるようになった私と、地獄の門を見たかのように意気消沈している悪戯坊主ども。

私たちはシチューの匂いのする愛しき我が家にむかって歩くのです。

父の武勇伝を語るファルコさん。ファルコ・アステリオンさんのお話を聞きながら。

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