妖精の娘
幻。じゃないですよね。
「おとうさん」大きく削れた穴の中央、可愛らしくほほ笑む彼の顔は埃まみれで。
「なによ。一人でどこかいっちゃって」抱きしめるとその身体は小さくて。
「心配したんだから。……怖かったんだから」気づけば涙があふれてきて。
ぽん。
肩を叩く感触に振り返るとロー・アースさんがいました。
「すまん。もうちょっとファルコを借りたい」「きゃ?!」
鼻水まみれの姿を彼に見せてしまった模様です。
頬を掻きながら申し訳なさそうに私たちを見下ろす美男子にちょっと赤面。
瓦礫を踏み分けて近寄ってくる女性には見覚えが。
「お母さん」「誰がお母さんだ。俺はまだしょ……それはさておき」
解っていますよ。不在時に街が酷い目に遭ったのを気に病んでいらっしゃるでしょう。高司祭様は。
「外壁にはリンス。王宮はミックとロンが向かった。悪いがもう少しお前の親父を借りたい」「どうぞ」
涙目でふるふる。
首をふる彼を両手でつかんで差し出す私。
「ふぁるこ。むすめはまかせるのだ」「だめ」
金色の瞳。縦の瞳孔を持つ赤ちゃんみたいな子に言われてお父さんは嫌そうにしています。
「そうだそうだ。吾輩の息子の嫁には手出しはさせぬ」ずんぐりむっくりのドワーフさんはそういうと髭の奥でウインクしました。
ドワーフさんってもっと不愛想な種族と思っていましたが。
でも、私を守る存在って言えば優秀な執事がいたりするのですが。万全ですよね。
ちょっと用事でいませんでしたけど。あとで折檻です。
言葉はしゃべれなくても思いは伝わる。
私の知る少年が軍師と呼ばれる父の同族の協力を得て、剣を手に騎士たちを指揮して奮戦している模様です。
「さて、私もちょっとだけ皆様のお力に」
私だって勇者の娘なんですよ。だーれもそう思ってくれないかもですけどね。




