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p.1:be apart from...

東京都立藍ヶ丘高等学校。


東京都西区藍ヶ丘にある都立高校。

偏差値に関して言えば、上位校もしくは中堅校上位クラス。



部活動は野球部が強く、甲子園の常連校でもある。

それも影響してか、吹奏楽部も何度か全国規模のコンクールに出場している。


サッカー部や剣道部・演劇部などの評判も良く、生徒の3分の2が何かしらの部活に所属しているのも1つの特徴だ。



最寄り駅から多少距離があり、始めてこの高校を訪れるとなると迷っても可笑しくない位置にあるのが最大の難点だろうか。


それ以外はこれといった取り柄も欠点も無い、ごく普通の高校。




そんな学校に、私は通っている。



藍ヶ丘高校、2年A組、15番、北村結衣。




どこのクラスにでも居る目立たない存在。


それが、私。






そんな私にも自慢の親友が居た。


―近藤紗季。



紗季とは高校からの付き合いだが、何でも話せる存在だった。



紗季は今、体育祭実行委員の委員長と付き合っている。


明るく、誰と話すときでも態度を変えない。



自分に真っ直ぐに向き合い、自分の信じた通りに物事を見つめられる。


「正しい」と思った事には頷き、「違う」と思った事には首を振る。

周りが彼女の意見と真逆の事を述べたとしても。





彼女とあまり話さない人間は居ても、彼女を嫌う人間は見た事が無い。



彼女と接点を持った人間は口々に「紗季は良い子だよね」と言う。






私とは何もかも正反対。

理想的な高校生女子。

そんな人間。




そんな彼女を妬む人間も居るが、大抵の人間は彼女に

「嫉妬」よりも「憧れ」の念を抱く。




私も、その1人だった。


だけど、今はそう思う事すら許されない。














―私は、紗季を裏切ったのだから。














「おはよー!」

「おっはー。」




「最近彼氏くんとはどうなのよ?」

「別にそんな、…普通だよ、普通。」




「そういやあの2人別れたんだって!」

「え!? あんなに仲良かったのに、…何で?」






様々な会話がイヤフォン越しに聞こえてくる。


たわいも無い話。

でも彼らにとってはそれぞれが意味を持つ。




一つひとつが青春、

ほろ苦くもほんのりと甘いひと欠片。














今の私には、それが無い。







ただ高校の制服を着ているだけで、そんな爽やかさは何一つ無い。


そこらに転がった、当たり障りのない様に生きているつまらない大人とほぼ同等の存在。




ただ、生きるだけ。

意味も無く、目的も無く。


―夢も無く。


















こんな人間、誰が必要としてくれるのだろう。

こんな人間、誰が愛してくれるのだろう。


そんな絶望と背中合わせになりながら過ごす日々。




「こんな人間、居ない方が良いんだ」。


そんな声が自分の身体のどこからか、聞こえた様な気がした。








「あやかーんっ!」

「おー、おはよー!」


倉橋彩香、吹奏楽部の現部長だ。

彼女は周囲の評価も高く、『あやかん』という愛称で親しまれている。


彼女とは昼休みに昼食を食べたり遠足でも一緒の班にもなったりした仲だ。

―つい最近までは。



「結衣ちゃ、…」


私に話しかけようとしたものの、そうしなかったのは彼女の隣にいる紗季を配慮してだろう。







私は、紗季と喧嘩した。


私は、紗季を傷つけた。







イヤフォンのせいにして、聞こえなかったことにして。

自分の罪を忘れようとして。


私は先を急いだ。





















昼休みの終わりごろ。

段々と生徒が教室を後にする。

私も次の体育の為に、更衣室へ向かおうとした。


その時だった。


紗季が教室に体育館履きを取りに帰ってきた。




―謝らなきゃ。

謝れば、きっと分かってくれる筈。




「さ、…紗季!」

「紗季ちゃーん。」


―しまった。

彩香の声と自分の声が重なった。



「…ねえ、」


必死で自分に意識を向けさせる。





「何、彩香?」


―実際、そんな事したって意味が無いなんて分かっていたけれど。



「紗季ちゃんさ、この前この記号何か分かんなかったよね?」


「ああ、うん。」


「これね、ピアノの子に聞いたらペダルを踏む記号だったみたい。」


「へえ、そうなんだ。 ありがとう。」


「ううん。 私も知らなきゃまずかっただろうし。」


「すっきりしたー。 あ、次って体育だよね? 一緒に行こうよ。」


「うん、勿論!」



そう笑って2人は教室を後にした。

気付けば、教室にいるのは私だけ。






「…紗季。」


元から夢も目標も無かった私。

私から紗季を取ったら何も残らない。


―何も、残らない。



















『9月10日、紗季と喧嘩した』。


『9月11日、紗季に謝れなかった』。


『9月12日、なんだか、クラスの他の人も私を避けている気がする』。



こんな日ばっかり続いている。

そして、それは恐らくこれからも続く。






9月13日、―私は、独りぼっち。
















夢でも、良い。

誰かに傍に居てほしい。


そう思いながら、日記帳を閉じ、部屋の明かりを消した。

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