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第七話


 「あっ出来ました!」


 握り込んでいたはず核は、痕跡も残さずなくなっている。

 これが、セルマ先生が言っていた教えてやれ、の内容。


 「ちょっとコツがいるけど、これが核を魔力に変換する方法だよ。国外で仕事をする魔術師の常識だね」

 「本とかにも載ってないですよね」 

 「こういうのは、実践で学ぶ事だからね。師匠がいる魔術科生は大体知ってると思うよ。これは自分以外にも吸収させることができるから、もし僕が魔力使い果たして倒れたらそれで回復してね」


 うーん、今までこういうお役立ち知識とか、豆知識みたいなのにはさっぱり触れてないもんな。

 これを教えてもらいはじめて開口一番、「キーディアって実力はあるのに常識と存在感が無いんだよね」って言われた時のショックは、絶対忘れない。常識はずれなのは分かってるし、いいんだよ。無駄に前世の知識があるせいで、奇異に思われるだろうことは理解できる。けど、そこで存在感って足すのはどうなの?え、実は嫌がらせの親玉ってルーセル先輩じゃないよね。確かに、シェーリ国内に入るときもう一人は?って確認されたけどさ。しょうがないじゃん、周りの人間が存在感半端なさすぎるんだよ。

 

 「さすがだな、キーディア。ルフェダオスの寵児の名は伊達ではないというところか」

 「そんな大層なものじゃありませんよ」


 私は典型的日本人学生だとおもう。教わればある程度できるけど、それを応用するって言うのが苦手だ。勉強して訓練して、身に付けられる以上のことはできない。要領はいい方だと思うけどね。

 今はシェーリ国内の宿屋にいる。国と国同士が離れていても、危険があるって言っても旅人や傭兵は居るから、そういう人用の宿屋だ。冒険者ギルドとかあるのかなって思ったんだけど、そういう所属する組織って言うのを嫌う人がよく旅人になるらしい。旅人とか傭兵は国から国へ旅をしているので、腕の立つ人間がおおい。何か依頼があってそういう人を雇いたい場合は酒場とか食事処とか宿屋とか、そういうところの掲示板に張り紙をして募集するんだって。

 それにしても、キュリーもルーセル先輩も、着ているものは大したものじゃないのに高級感溢れる佇まいだ。逆に一番高貴なはずのマッグケーン先輩は似合いすぎてて、ちょっと笑った。こんな人たちと同じ部屋で寝るとか、今日私は眠れるんだろうか。部屋が空いてなくて3人部屋にはいったから、私とキュリーが一緒のベッドで寝ることになったんだよね。女王様と王子様が最初は一緒に寝る予定だったんだけど、耐えられる気がしなかったから私とマッグケーン先輩で必死に説得した。その分私の死亡フラグがたったけど、たぶんなんとかなる。起きたら圧死体になってることだけは頑張って回避しよう。


 「なんで、こんなに宿屋が混んでるんですかね」


 まさか、あの森のせいではないだろう。既に存在しないし。


 「まだケーンくんが情報収集してるから詳しくは分からないけど、何でもどこかの貴族が護衛を大勢つれて旅行してるって話だね。護衛の宿が一ヶ所じゃ足りなくてこんなに混雑してるってご主人は言ってたけど」

 「我が国の貴族ではあるまいよ。そうであればセルマ先生が警告してくるであろうしな。ケーンが戻ったら、戦果を聞いてすぐに休もう。明日の朝出発することは変わらぬ」


 金の巻き毛をさらりと揺らして、キュリーはベッドに腰掛けた。色気が半端ない。キュリーは美意識が高いので、実はあまり旅とか好きじゃないんだと思う。元々貴族の生まれだし、野営中に体を払拭するのだけじゃ嫌なんだろうな。さっきまで宿屋のお風呂できっちり身体洗ってたしね。それ以外でも、毎年くれる誕生日プレゼント.........正確なのは分からないから騎士に拾われた日.........は信じられない金額だったりするし、訓練以外の生活は基本的にお貴族様だ。

 まあお風呂に関してでいったら私も入りたいタイプだけど、孤児として生活が長いし、記憶があっても当然のこととして払拭だけですませられるのは幸運だった。日本での生活なんて、こっちでしようと思っても不可能だもの。

 でも、そんなキュリーでも一緒にいることが嫌にならないのは、文句を言わないからだと思う。上から目線で言う訳じゃないよ。前に.........同級生の、何とかって人が動物の解体の仕方を学んでたときに「こんなこと、孤児にでもやらせればいいのよっ!私のすべきことじゃないわ!」っていってたんだよね。確かに貴族令嬢ならそんなのやらなくてもいいかもしれないけど、授業の一環だ。キュリーはそんなこと、もし仮に思ってたとしても言わないし、表に出さない。やるべきことはちゃんとやる。いや、そんなこと思ってたらはだかで逆立ちして学園中を動き回れるっていうくらい、キュリーはそんなこと考えないと思うけどさ。

 やっぱりキュリーは自慢の友人だなあ。

 隣に座って、ぽてっと頭を預けたら、満面の笑みで頭を撫でてくれた。


 「キュリー、大好きですっ」


 可愛いなこんちくしょう。

 ガバッと押し倒して抱き付く。キュリーもその彼氏も一瞬びっくりしてたけど、キュリーにしては優しく抱き締め返してくれた。

 結局、私たちはマッグケーン先輩が戻ってくるまでいちゃついてた。

 いてて、何だか全身の筋肉が張ってるんだけど。私たち、今いちゃついてただけで訓練なんてしてないよね。


 「粘ったんだけど誰も何にも言わねえんだよ。やたら忠誠心が強えのか、規律が厳しいのかって感じ。ご主人サマの名前も何処の国から来たのかも言いやがらねえ。あれ以上粘ったらたたっ切られそうだったから、諦めてきた」

 「ケーンくんがそういうなら、やっぱり僕らがいってもどうしようもなかったね」

 「んなことねえよ。ルーセルくんがにっこり笑ったら、結構な確率でオトせんじゃね?」

 

 それは違うよ。マッグケーン先輩。

 人好きのするマッグケーン先輩の人懐こい美形は警戒されないけど、ルーセル先輩くらい完璧になっちゃうと大体の人は萎縮しちゃうんだよ。マッグケーン先輩が情報収集にいったのは、一番向いてるからってだけじゃなくて警戒されにくいその顔もあるんだよ。ま、私は?存在に気付かれないかもしれないからって理由で?一番最初に外されたんですけどね。


 「でも、全く何にも掴めなかった訳じゃねえ。あいつらがどこに向かうのかってのは大体掴めた」

 「大体?目的地があるわけではないのか?」

 「さあ?そこまではわかんねえけど、次はエーネオに行くらしいな。出発は明日」

 「エーネオ?国に関わるってこと?」

 「そんなら、演習出る前に通達が来てるだろ。急だったとしてもセルマ先生が来た時点でなんも言わねえのはおかしい」

 「しかし、あれほど目立つ一団もなかろうな。この辺一帯の宿屋が埋まるほどの護衛など、主人は王族か?もしくは、よほどの長旅を想定しているか」


 3人揃って考え込んでるけど、私は完全に茅の外だ。そもそもなぜ私たちがこれだけその一団の動向を気にしているのか。それは単に、彼らの進む道によって、私たちのその後のルートが変わるからだ。別に同じように行ってもいいと思うかもしれないけど、あれだけの護衛のつくひとの周囲に魔術師含むパーティがいるってだけで警戒される。場合によっては怪しいやつっ!ってその場で手打ちにされてもおかしくない。.........特に私が。

 自分で働けるようになって社会的地位を身に付けるまでは孤児の扱いなんてそんなものだ。何で私がって思わなくもないけど、強烈な記憶(さいご)が残ってるから、大抵の理不尽は受け流せるようになった。回避できる理不尽に憤ってても仕方がないしね。

 だから、彼らが明日、ブカレス平原を進むなら、私たちはルートを変えるしかない。幸い、時間がかからないルートは残ってるし、提出した演習日程は3日予定で、それも過ぎてるんだから日時をこれ以上ずらすわけには行かないのだ。

 けど、でも、王族ねえ?


 「マッグケーン先輩に関わることだったりしないんですか?」


 私の何気ない一言に、ピシリとマッグケーン先輩は固まった。


 「.........や、それは無えと思う。俺がルフェダオス学園に入ることは、親父も了承してることだし」

 「親父.........それってモスバーグ国王だよね?」

 「俺が家出とかしてんなら、あれくらいの捜索隊が組まれてもおかしくねえけどな」

 「ふふ、第一王子が家出なぞすれば当たり前よな。というか、何故ケーンは我が国に?」


 ええ!?マッグケーン先輩って第一王子だったの?何て言うか、見えない。

 そんな私の驚きなんて丸々無視して、マッグケーン先輩は頭をかきながら苦笑いした。

 本来なら他国の貴族に話せるようなことじゃねえけど、と前置きして、先輩は話しはじめる。


 「俺の国は、正妃腹の王子から第一第二って数えるけど、俺が王太子って訳じゃねえ。俺の母親は正妃で、人を見る目ってのがいいひとでさ。自分の息子より俺の兄貴.........異母兄なんだけど、そいつのが国王に向いてるって考えたんだと。そんで俺も国王とか向いてねえと思うし、出来りゃ臣下として兄貴を支えたいって、親父とお袋と、側妃様と兄貴と、5人で話し合ったわけだ。それで、兄貴が王太子ってことで根回しを始めたまではよかったんだよ。けど、お袋の実家ってモスバーグじゃかなり影響力持った家で、な。根回ししてる最中に俺を担ぎ上げる動きがでてきやがってなあ」


 マッグケーン先輩は盛大に舌打ちして、余計なことしやがって、と呟いた。


 「それで、なるべく遠い国まで逃げてきた、と?」

 「キュリーははっきり言うねえ。ま、実情はそうなんだけどな。あのままモスバーグにいたら、派閥同士の泥々な玉座争奪戦が繰り広げられただろうし。一応表面上は、留学って形にしてる。エーネオの王城に住んでるってことになってんだよ」

 「なんでエーネオにしたの?そういう理由ならもっと遠い国でもよかったと思うけど」

 「うちの親父と陛下が、王子時代にやんちゃしてた仲間だったんだと。まさか自分が王になるなんて思ってなかったから、いきなり王太子にさせられてお互い大変だったって、俺、同じ話を二人から聞かされたんだぜ?親父たちの武勇伝なんて、この年で聞いても面白くねえよ」

 「その気持ちはわたくしにも理解できる。父上は、やたらと武勇伝を語っては、わたくしたち子供に訓練を課すのでな.........」


 キュリーが遠い目をした。ルーセル先輩も、そっと目を伏せる。

 確かにこの二人の父親は、ちょっと.........ぜんぶのネジが抜けたり曲がってるんじゃないかと思うようなひとだし。


 「私、そういう権力がらみのいざこざってよく分からないんですけど、マッグケーン先輩が国を離れただけでなんとかなるんですか?」

 「どうにもならねえな。お袋の実家がつぶれりゃ俺も大手を振って戻れるけど、兄貴が後継いで子供が生まれたくらいじゃ、俺が戻った瞬間また同じこと繰り返すだろうからなあ。どっかの貴族の家に婿入りとかも考えたけど臣下に下って嫁さんと生活始めたら兄貴は病死、その息子は事故死とかんなったら目も当てられねえだろ」

 

 またあっけらかんと言うなあ。


 「じゃあ、もう、戻らないつもりなんですか?」

 「計画じゃ、どっかの姫さんに婿入り予定。でもまだ相手が見つかってねえんだよなあ。繋がりがある国の姫さんで俺と年が釣り合って婚約者のいない.........ってなるとまだ成人してない娘たちばっかなんだよ。だからその時間稼ぎの留学ってわけ」


 そういうこと、なのかな。っていうか成人してないって何歳なんだろう?国で違うけど、大体成人は15歳から18の間だ。ちなみにエーネオは16歳で成人。実は私、今年お酒飲める年になりました。先輩たちはみんな18歳、あ、ルーセル先輩はまだ17歳だった。ルフェダオス学園は大学みたいなもので、学費こそ平民でも頑張れば出せるくらいだけど、必ず通わなきゃいけない訳じゃない。だから、才能がある平民とかでも成人したての働き盛りにもかかわらず入学するのだ。貴族がステータスのために才能漁り(スカウト)とかしてるせいもあるけど。

 ああ、今は学園のこととかどうでもいいんだった。うん、マッグケーン先輩の話を聞いて思うけど権力がらみの問題って本当にややこしい。前世では文学部だったし、今は孤児だし、そういうお上の事情ってやつに絡んだ経験ってないから、理解はしても納得できない。いや、あんまり理解もできてないかも。そういう扱いが難しい問題に直面してるって、マッグケーン先輩が舌打ちしたくなる気持ちはちょっと分かるような気がする。私なら家出してるかも。


 「だが、ケーンの下にも王子殿下はおられるだろう?殿下方が成人した場合も同じようにするのか?」

 「その辺は問題ねえと思ってる。弟は2人いるけど、側妃様の子だしな。正妃腹は俺以外王女だから、継承権ねえし。そうじゃなくても姉貴と妹は嫁ぎ先決まってるし、弟たち二人も継承権の放棄こそしてねえがもう臣下に下ってる」

 「もうちょっと材料があれば帰れるように出来そうだけど、ケーンくんはそれでいいの?」


 ルーセル先輩がためらいがちに聞く。

 そうだよね、他国が関わるわけにいかない問題だもんなあ。マッグケーン先輩はちょっと嬉しそうに、首を振った。私たちはその様子に顔を見合わせる。私とキュリー、ルーセル先輩とマッグケーン先輩に分かれてベッドに座ってるんだけど、私側からみると、にやつくマッグケーン先輩がよく見える。ニヤニヤと笑う先輩の顔を見ていたけど、このシチュエーションで笑う意味が分からないんですけど。変なことはいってなかったと思うけど.........。はっ!ルーセル先輩の病気がうつったとか?


 「ありがたい申し出だけどこれでいいんだよ。大っぴらに帰れなくても、会えない訳じゃねえもん。計画では最悪の場合、留学から帰るときに死ぬ予定だし」

 「.........そのような言い方をするでない、ケーン。キーディアが誤解するであろう?キーディア、これは本当に死ぬわけではなく、死んだように見せかける、というだけのことだ。政治的に見れば、婿入り出来ぬのであれば恐らくそれが一番禍根が残るまいて」


 キュリーがフォローしてくれる。私だって本気で死ぬなんて思わなかったけど、ほんとに軽く、笑いながら言うから。一瞬、びっくりして止まってしまった。


 「ごめんなー。キーディアちゃん。けど、もし最悪の場合になったら、卒業してもペア組んで旅でもしようぜ」


 初めて声かけてきたときみたいに軽く誘うから、思わず楽しそうって思ってしまった。マッグケーン先輩とはまだ会って1ヶ月くらいだけど、本当に懐に入ってくるのがうまい人だと思う。うなずきかける自分を制して、私はルーセル先輩に話しかけた。


 「明日はあの人たちの動向を見てルートを決めるんですよね?ルーセル先輩」

 「うん、だから今日はご飯食べてゆっくり英気を養わないとね」

 「そろそろ食堂も空いたであろうし、食べに降りよう」

 「ちょっと、なんかすげえ身に覚えがある展開なんだけど!?俺おいてくなよ!?」


 私たちは笑いながら、食堂に行った。

 これであんな事件に巻き込まれるなんて、私は全然思わなかったけど。




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