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第四話


 

 ここは一体何処.........?

 私たちは綺麗な花畑にたたずんでいた。


 「とりあえず、今日はここで夜営しようか。ケーンくん、キュリー、テントをお願いしていいかな?」

 「りょーかい、ルーセルくん。任せとけ!キュリーちゃん、そっちお願いー」

 「やはり手慣れておられるな。マッグケーン殿、合図をするゆえ、合わせて引っ張ってもらえるか?」

 「よろしくね。ディア、僕はあっちから結界張るから、そっちから頼める?」

 「わかりました。円形で良いですよね?」

 

 3回目の夜営だからか、最初より手際良くできてるような気がする。1回目は役割分担しても上手くいかなくて困ったもんなあ。

 ここは近くに小川が流れているし、通ってきた森に囲まれているから、前世的に言うならちょっとしたキャンプに来たみたいだ。マッグケーン先輩が、王子様の癖に狩りが上手かったのもあって、今日の夕飯がBBQ 気分だって言うのもそう思う一因かも。獲物は茶色いウサギなんだけど、赤い肉なのに淡白ですっごく美味しいんだよねえ。前世でも水族館にいって美味しそうって思う人間だったけど、こっちでは動物もそう思うようになったなあ。

 最初に花畑に川って時点で、え?私死んだ?とか思っちゃったのは秘密だ。こっちには三途の川なんて考え方無いしね。

 それぞれがやることを終わらせて、木に吊るされた獲物の血抜きが済むまでの間に、私たちは現状整理をすることにした。焚き火の炎が全員を照らしていて、寒さを和らげてくれている。だけど、ルーセル先輩の紫の瞳も、キュリーの黄緑の瞳も、マッグケーン先輩の翠の瞳も、焚き火の揺らめきでない何かで揺れている。それは私たちの誰も、状況が把握できていないからだ。いくらいつも通りを装っても、やることがなくなるとやっぱり不安はにじみ出る。


 「まず前提から確認しようか。僕たちは一昨日の朝、討伐演習に出た。演習達成条件は、魔獣20匹を討伐し、魔獣の核を持ち帰ること。場所はブカレス平原で、学園からは徒歩で丸1日はかかる位置にある」

 「ふむ。わたくしもそのように認識しているな」


 そう、無事私もマッグケーン先輩というペアが出来たので、早速演習に出たのだ。

 私たちが小遣い稼ぎ(アルバイト)と呼ぶ討伐隊はそれぞれの地区の有志で組まれた自衛集団。彼らは対魔獣戦を意識した訓練をこなして、自分が住む街町村の結界の外を巡回する。基本プラス討伐数で給料がきまる為、核を集められた分だけ稼げる。

 けれど、学園の討伐演習は、国境外.........つまり、国ですらない場所の魔獣を討伐しに出掛ける。討伐隊の収入を横取りしないためでもあるし、少しでも国外から入ってくる魔獣を減らす為でもある。国境を覆う結界があるっていっても、結界は大きくなるほどざるになる。竜とか位大きいのなら弾けるかもしれないけど、国境の結界は人くらいの大きさなら十分余裕をもって抜けられちゃうのだ。

 だから私たちはいくつかある演習内容のうち最も近いブカレス平原のものを受けた。初めてってこともあるから軽めなやつにしたんだよね。比較的数も少ないし。最初に演習担当の先生に勧められたのは、討伐数が100匹とかだった。実戦で連携も試してない私たちがいきなり100匹って、どんな無理ゲー。初めてって理由でルーセル先輩とキュリーが断ってたけど、次、断れるのかな。


 「一昨日、僕らは一日かけて移動したよね。国境を越えて、そこで一回目の夜営をした、ここまでで何か異変を感じたひとはいる?」

 「俺は何にも感じなかったな。この国に入ったときにブカレス平原通ってきたけど、1回通っただけの場所の何が変わったかなんてわかんねえし」

 「私も、キュリーも何も思わなかったですね」


 現実逃避してる場合じゃなかった。流れた思考を中断して、キュリーと顔をあわせると彼女も首を振ったので、まとめて答える。確か、あのときは夜営の準備でわたわたしてたけど、それは異変じゃないもんなあ。

 全員が否定を返すと、ルーセル先輩は先を話し出す。


 「国境を越えればすぐブカレス平原だから、あのとき異変がわかってれば.........」

 「まずは現状を正しく認識することに集中するのがよかろうよ、ルーセル。後悔も反省も、ここを乗りきってからでも遅くあるまい。取り返しのつかぬ失敗があったわけでもないのだし、キーディアのように関係のない思考ができるくらい余裕をもった方がいいやもしれぬぞ?」

 「うぇ!?」


 何故バレた!?


 「可愛いの、キーディア。慌てると君はまばたきが増えるのだよ。この状況で話をふられて焦るとなると、十中八九関係のないところに考えが飛んでおったのだろう?ふふ、分かりやすいことよ」


 うう、恐るべし騎士科の女王様。

 言ってからころころ笑う彼女に、ちょっと重たかった空気が軽くなったような気がする。状況は全く変わってないんだけど、さすがだ。けど、出来れば私をダシにしないでほしかったというか、別の事を考えてたなんてばらさないでほしかったというか。

 とりあえず、謝罪すると、ルーセル先輩もマッグケーン先輩もゆるゆる笑って許してくれた。


 「ふふ、じゃあ続きだね。昨日はブカレス平原を移動しつつ、魔獣を探して歩き回ってここにあるように、核を条件数以上集めて、演習自体はおわった。けれどそのまま帰るには、夜まで時間が少なかったから、そこで2回目の夜営をした...」

 「私とキュリーが見張りを担当した前半は、魔素的な異変は.........あ、結界の中だったので、外側の流れはよく読み取れませんでしたけど、こんな異常(・ ・ ・ ・ ・)が出現するほどの流れは感じられませんでした......」

 「わたくしは魔術を見る目はあらぬが、わたくしたちが見張りを担当した時間には周囲に何も見えなんだな。後半ではどうであった? 」

 「んー.........平原だったな。時々こっちをうかがってるような気配ならあったけど、結界外からだったし」

 「それは僕もわかってた。結界が何匹か弾いてるのは感じてたけど、ディアの言う通り、こんな巨大なもの(・ ・ ・ ・ ・)に取り込まれるなら前兆に魔素の流れに異常が出るはず.........」


 私は魔獣討伐したあとで周囲の魔素が少しだけ乱れてたのを感じたから、ルーセル先輩と相談して結界は3重に張ってた。だから外側の流れは感じ取りにくくなってたけど、それでもこの規模で異常が出るなら、魔術師が二人して感じ取れない何て何かがおかしい。

 過信するわけじゃないけど、初めての演習討伐で多少真新しさはあったとしても、私は支障をきたすほど緊張していない。ルーセル先輩もキュリーも二人は何度かここに来ているから、もし私が仮に使えなくても何とかフォローしようと気遣って、いつもより周辺警戒してくれてた。だから、変。

 魔獣って言うのは、ひとを襲うだけじゃなく、周囲の魔素をも乱す。だから魔獣の居るところは魔獣が出来やすい、魔に当てられやすい状態になるのだ。空気と同じで時間がたてば、均されてそこまで警戒する必要はないんだけど、あのときは魔獣を合計するなら27匹、討伐したあとだったからなあ。あ、疲れてたって言うのはありそうだけど、あの二人は化け、規格外だからなあ。

 今現在の状況を、どうしてとかどうやってとか抜きで説明するとしたら、平原でキャンプして朝起きたら森にいて、太陽の位置を確認しながら国境に向かってあるいてたら、花畑に出てあれ?死んだ?ってところかなあ。意味がわからないとか言わないように。私だってわからない。


 「ま、とりあえず飯食おうぜ。腹が減っちゃまとまるもんもまとまらねえし」


 マッグケーン先輩が立ち上がって言った。

 女王様がうなずいて、王子様を慰めつつピンク色の気配を発したので、私もマッグケーン先輩を手伝うために立ち上がる。マッグケーン先輩は早くも見ざる聞かざる言わざるを習得したので、完全無視で血抜きしている獲物のところに向かう。

 そこには、完全に血抜きの終わった白いウサギが吊るされていた。

 マッグケーン先輩がナイフをもって近づいていく。


 白い?血抜きされただけであんなに白くなるもの?

 あんな色のウサギ肉、私は見たことがない。

 マッグケーン先輩は何も思わないのかな。普通に近づいてるけど、私の見間違いかな。

 あれ?私の、魔術師の目に白く見える?

 そこで気づいた。

 この森の中はあまりに魔素が少ない。

 ああ、そういうことか.........!!!

 

 「ケーン先輩、戻って!」


 警告と同時に、私の放った炎がウサギごと木を焼き付くした。

 いつの間に抜いたのか、マッグケーン先輩が長剣とナイフを構えながら隣に並ぶ。一瞬説明を求める視線を送られたけど、私は炎の魔術を放ち続ける。気づいてしまったらここにいることすらヤバい。少なくともこんなものの中からは出なければならない。

 

 「ケーン先輩、キュリーとテントを片してください。終わったらすぐ出発できるように」


 うなずいて戻っていくマッグケーン先輩と入れ替わりで、ルーセル先輩が私と同じように、森に向かって炎を放ちながらやってくる。


 「先輩は、魔獣化する瞬間を見たことありますか?」


 説明を求められる前に、質問を投げる。一瞬意味がわからないみたいだったけど、さすが魔術科の王子様、それだけで理解してくれたみたいだった。

 

 私たちは、私たちのいたところで魔獣化した、植物の森に飲み込まれてたんだ。


 慌ただしく脱出準備をするなかで、気を付けろよ、と送り出してくれたセルマ先生を思い出した。「帰ってきたら、俺、やんなきゃいけないことがあるんですよ」って言ったマッグケーン先輩に、それは死亡フラグなんじゃないかとも思ってたんだよね。

 心配してくれたのにすみません、セルマ先生。

 マッグケーン先輩のせいかどうかは置いといてちょっと今、絶体絶命の危機です、私たち。




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