表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と店長の他愛もない話。  作者: 仮『どん』
私と店長の休日。
8/41

#8 私と店長のはじめての外食。

長い長い1日がようやく終わりました……。



ではお楽しみください▽´)ノ

私と店長の初めての外食。



場所はバイト先の喫茶店から歩くこと約10分の所にある。


大通りに沿うようにして続いている並木道。そこを店長と2人で歩いていると、目的地である居酒屋へ到着した。



〜ガラガラッ


店内に入ると、途端に漂ってくるアルコールの匂い。同時に焦げ臭い匂いも漂ってきてそれらは私の鼻をつく。


店内を見渡す。入り口から見て右手にはカウンター席。そこでは常連客と思われる方達がカウンター越しに料理中の店の人と話をしている。


カウンター席から通路を挟んだ左手には座敷席がある。ここは靴を脱いで畳の座敷に上がる様式だ。ここでは仕事の帰りだと思われる人達が談笑していた。


熱気に包まれた店内に響く話し声、笑い声。そのどれもがバイト先の喫茶店とは似ても似つかないものであった。



こんな場所に来るのは初めてなので少しの間戸惑い、固まっていると……。


店長が私の肩をポンと叩き、少し微笑みながら無言で店の奥を指差した。


店長の指の先には上手い具合に空いている座敷席が。私達2人はそこへ向かうと靴を脱いで畳座敷に上がる。


本来6〜8人用だと思われる座敷席のテーブルに2人向かい合って座る。


少しすると、店の人だと思われる若い男性が水を持ってきた。



「よう!久しぶりだな!何にする?」


その男性は親しげな笑顔で店長に話し掛ける。


「おう、ちょっと待っててくれ。後で頼むから。あ、でも生一杯まず貰っとくわ」

店長もその質問に笑顔で返す。


あの人が例の井上さんですか?


他の客の注文を受けに男性が去った後、店長に聞いてみた。


「うん、そうだよ。なかなか繁盛してる様で凄いじゃないか」


人様の感心してる場合じゃないでしょ!と思うのだが、口には出さない。


私は静かなのんびりとした喫茶店が好きなのだ。

こんな風に繁盛されても困る。


けれども、果たして今のままで大丈夫なのだろうか?ウチの店は。


いくら静かな店が好きだと言ってもその店が潰れてしまっては元も子もない。


喫茶店が繁盛した所でこんなに騒がしくなるとも思えないし、ちょっとはお客さんが増えてもいいんじゃないだろうか。


でも、それは私と店長が今のように過ごせる時間が短くなることを意味しているのでもあって。



複雑な心境。



(店が潰れないならお客さん来なくても良いんだけどなあ)


頭の中でそんなことを考えていると。


目の前にはビールでいっぱいになったグラス片手に、例の井上さんが立っていた。



「すまんね、遅くなって。何にするか決めた?」


井上さんはグラスを店長の前に勢いよく置くと笑顔で聞いてきた。


「悪い、もうちょい待って。すぐに決めるから」


と、店長。


井上さんは頷くとキッチンの方へと戻っていった。



「何かオススメとかありますか?」


ファミレス等とは違い、写真が付いていないお品書きを見ても正直どんな料理なのか分からないので店長に聞いてみることにした。


「うーん、1番のオススメは特大ニンニクの丸揚げなんだけどなあ。明日学校じゃあ口が気になるでしょ」


「確かに……」


ネーミングから既に油っこいし、それはやめておく。


「じゃあヘルシー手羽先と野菜チーズ春巻きとかはどう?後は鮭茶漬けとかも美味しいよ」


詳しいなあ。うん。店長はコーヒー以外には何の拘りも持っていないのかと思っていたのだけど。まさか居酒屋のメニューに詳しいとは。


それに、店長が私に薦めてくれたメニュー。


なるべく私みたいな女性でも食べ易いものを選んでくれたみたいだ。珍しく親切。


「じゃあそれにします!」


店長は分かったとだけ言うと、井上さんを呼んで注文する。



「特大ニンニクの丸揚げ1つと、この子に生ビール1本お願いね」


「どこが分かったんじゃコラぁ!!」


私はニコッと微笑む店長の顔に向けて近くにあったおしぼりを投げつける。



〜バシッ!


見事に命中!



何せ私は中学時代、ソフトボール少女だったのですから。

このくらい朝飯前ですよ。


「痛いなー。酷い奴だな彩音ちゃんは」


店長が喚く。


「貴方がまともな注文してくれないからでしょ!」


仕切り直して、もう1回。


店長の口が開く。



「じゃあこの子に生ビール1本追加で」


「だから酒は飲まないって言ってんでしょこの野郎!」



今度はお品書きをその憎たらしいほど爽やかな笑顔目掛けて投げつける。


「ごめんごめん。つい苛めたくなっちゃって。」


「未成年の女の子に酒飲ませていじめじゃ済まされませんよ!」



イジメだめ。絶対。そんな標語が戒める対象の範疇を越えている。


未成年の飲酒は犯罪ですよ。


未成年に酒飲ませるのも犯罪ですよ、店長。



「お客様、いい加減メニューはお決まりになられたでしょうか?」


それまで静かだった井上さんの口が開いた。


その声にはどこか殺気が含まれていて。


私達は直ぐに、ふざけ過ぎましたすいませんでしたと謝罪していて。


店長はとても早口で井上さんに注文をしていた。


他のお客さんも待たせていたのだろう。井上さんは注文をメモすると、無言のまま急いでキッチンに戻ってしまった。


…………。



「店長、井上さん怒ってしまったんじゃないですか?」


「そうみたいだねー」


彼にはまるで他人事の様である。


「店長のせいですからね」


「そうかもしれないねー」


「そうかもじゃなくて、そうなんですよ!」


「スイマセンデシター」


「棒読みじゃないですか……」


全く反省の色が見えない。



「いやさ、彩音ちゃんの反応が楽しかったからさ。つい、ね?」


アハハ、と子供の様に無邪気な顔で笑う店長。そんな顔されたら怒るに怒れない。


「もう!後でもう1回謝りましょ?井上さんに」


「うん。さっきは調子に乗り過ぎたからね。そうするよ」



いきなり"大人の顔"に戻る店長。なんなんだこの人は。


その後は昨日の夢の話や昔のマンガの話等、割りとどうでもいい話をしばらくしていると料理が運ばれてきた。


お刺身や野菜炒めなど2人で食べるものはテーブルの中央に置いて、後の料理はそれぞれ食べる人の近くに並べる。


店長の近くには牛すじの煮込みと焼き鳥、そして謎に存在感を放つ特大ニンニクの丸揚げ。


私の近くには店長のオススメ3品のヘルシー手羽先と野菜チーズ春巻き、鮭茶漬け。


まずは野菜チーズ春巻きから食べてみる。



〜パクっ、モグモグ……!!



口の中で、サクサクと効果音。

塩味のチーズと絡まることで、瑞々しい野菜の甘さが際立つ。

これは美味しい。


店長ナイスチョイス!


(お、お刺身も手羽先もいけるじゃありませんか!)


(ん!この鮭茶漬けは絶品ですね。身体に染み渡ります。)


気が付けば目の前にあった料理達は全て私と店長の胃袋に収まっていた。



美味しい料理を食べて、とても幸せな気分。


後は夜道を帰るだけ。


あ、その前に井上さんに謝っておかないと。


そんな悠長なことを思っていた私は忘れていたのです。


店長が、とてつもなくアルコールに弱いということを。



今まさに、私の目の前ではKO負け寸前のボクシング選手宛(さなが)ら満身創痍の店長が揺らめく体で最後の力を振り絞り、残ったビールを一気に飲み干していた。



〜ゴクッ…ゴクッ……。


ビールを全て飲み干すと、焦点が合っていない彼の瞳からはどんどん色が抜けて行き……。



〜バタン!


そのままテーブルに突っ伏し、動かなくなった。


灰になったのだ、彼は。


真っ白に燃え尽きてしまったのだ。



どうしよう。ここから喫茶店まで店長を担いで連れて帰るのは大変だ。


「やれやれ、またか」



後ろから声が聞こえた。


振り向くと、井上さん。


「また……?ですか?」


「ああ、コイツはここに来る度に酔い潰れるんだよ。と言っても毎回大した量は飲まねえんだがな」


「そうだったんですか」


「まあここまで酔い潰れんのは初めてじゃねえか?!ハハハハ!」


楽しそうに笑う井上さん。


タイミングを見計らって、再び話し掛ける。


「さっきは、あの、すいませんでした。井上さん忙しいのに迷惑掛けてしまって」


人になにか謝るときは、相手の機嫌が良いときに限る。


私が15年間生きてきて学んだことの1つだ。


「注文の時のあれか?あれはバイトちゃんには怒ってないよ。コイツが茶化すから長引いたんだろ?」


テーブルに突っ伏したままの店長の頭をボコボコと叩きながら井上さんは話す。


私、バイトちゃんなんだ。


別に構わないけど。



「でも、楽しそうだったな。コイツ。ああ羨ましい」


「羨ましい……?」



「……。いや、何でもない。こっちの話。ああそうだ。帰りどうする?自転車の後ろにでもくくりつけて帰るか?自転車なら貸すぞ」


「じゃあお言葉に甘えて、自転車貸してください」


「ホントにくくりつけんの?」


「大丈夫です。落ちたって死にはしませんから」


「バイトちゃん、見かけによらず凄いこと言うんだね……」



かくして、アルコールに敗れ燃え尽きた店長を自転車の後ろに乗せ、私は夜道を帰ることとなった。


「あ!」


店を出るとき、ふと思い出した。


お勘定……。どうしようか?


ドアの近くで立ち止まっていると、キッチンの方から井上さんの声。


「金なら今度でいいからなー!」


どうやら心を読まれたようだ。


「了解です。お休みなさい〜!」


料理中の井上さんにも声が届くようになるべく声を張り上げる。


「じゃあなー!」


手を振る井上さんに背を向け店を出る。



「寒っ!寒い!」



人が密集して熱気に包まれていたさっきまでと違い、外は無人で寒気に襲われる。


井上さんが言っていた店の前に停めてある緑色の自転車。これか。


まずは店長を自転車の後ろに乗せる。


全く動かない。


その後私が自転車の前に乗り、店長の両腕を私のお腹くらいに持ってきて紐でグルグルと縛る。



固定完了!


すると、私の後ろからは強いアルコールの匂いが。


冷たい風と共に運ばれてくる。


それでも高い体温の店長が密着しているので、さっきに比べると寒さはずいぶん和らいだ。



自転車を漕ぐ。


重いなあ。これは後で何かしてもらわないと割に合わないよ。


揺らぎつつも、どうにか持ちこたえて進んでいく。


強い風に煽られ、点字ブロックに躓き、それでもやっとのことでいつもの喫茶店に辿り着いた。


自転車を停めると、紐をほどいて店長を下ろす。


そこからは自力で彼を担いで裏口から店に入る。


部屋に入り店長を肩から下ろすと、私も同時に倒れ込んだ。



良く頑張った。私。


しばらく自分を讃えていると、横からは酔っぱらいの鼾が聞こえてきた。


真っ赤になった、幸せそうな寝顔。


手のかかる人だなあ。


まったく。


働いているときはしっかりしているのに、一旦仕事から離れると全てがだらしない。


でも、何故か放っておけない。


いや、放っておきたくない。



(貴女にとっての彼は何?)


朝の美久さんの言葉が蘇る。



私にとって、店長は店長。


その存在が、私の中で他とは違うものであることは、間違いない。


相変わらず横からは幸せそうな鼾が聞こえてくる。


私はくしゃくしゃになった彼の頭をコツンと叩いて、そーっと部屋を後にした。

はい。やっとのことで終わりました。私と店長の休日。


次回は学校の話になる予定です!



ここまで読んでくれた皆様ありがとうございました。


また次回も読んでくれれば有難いです´)ノ


ではまた_・。)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ