#7 店長の独り言。
また遅くなってしまいました(泣)
すいませんΣ(ノд<)
午後6時30分。
とある喫茶店のバイトの女の子と、その上司にあたる店長との二人は絶賛爆睡中(添い寝)であった。
そしてその頃、彼らが知る由も無いことだが、その喫茶店には1人の男の影が忍び寄っていた……。
――また来るわ、って言っといて1ヶ月も来ないとは……!こっちはオマエが来るっつったから柄に合わねえ喫茶店にまで行ってやったのに。
その男は舌打ちを繰り返していた。
――確か此所だったよな。"営業中"か。しかしこんな静かな場所に店出して客は来んのか?
そう、"営業中"。喫茶店のドアの前まで来た男は、確実にその札を見て店内に入った。
のだが、、
〜カランカラン
………………。
…………………………。
………………………………………………。
店内に明かりが点いていない―――その上……。
――誰も、いない?
不審に思った男はこの店で働いている筈の友達の名前を読んでみた。
それでも、応答はない。
何処にも、誰もいない。
店内には、不気味な程の静寂だけ。
どこからか少し、コーヒー豆の香りがする。
「やっぱり俺には合わねえな」
男は呟くと、カウンター内に入る。奥へ向かうと、右側には部屋があった。
(アイツ、まさか自殺とかしてねえだろうな……?)
そう思うのも無理はない。それ程の不気味さが漂う店内だったのだ。
男はゴクリと唾を飲み込むと、そーっと、そーっと部屋のドアを開ける。
そこで、彼が目にしたものとは――――――
これから始まる話は、その男性の友達の、ちょっと変わっていて、でも意外と普通なところもあって、とにかく謎な、ある人のお話。
◆◇◆◇◆◇
とても熱い……。
まるで服が全身に張り付いているみたいだ。
寝ている間に汗をかくのは良くあることだけど、今回は明らかにいつもよりその量が多い。
僕は一体、何時間寝てたんだろうか。毛布に包まったまま、近くにある筈の携帯電話を探す。なかなか見当たらなかったが、どういうわけかさっきまで包まっていた毛布の中にそれはすっぽりと埋まっていた。
手に取ったそれは少し熱を帯びていた。やはり自分の体温のせいなのだろうか。
待受画面の時刻を見ると、午後7時50分……。
寝る前に見たときは午後1時位だったから、7時間近くは寝ていたことになる。
だけど、僕はこんな時間の使い方を勿体ないとは思わない。
スポーツ観戦が趣味な人が休日をスポーツ観戦して過ごすのと同じように、僕にとっての趣味が寝ることなだけなのだ。
それにしても、人間の三大欲求の1つが趣味だなんて。 なんと僕は人間的な人間なんだろうか。
と、ここで、"未読メール1件"という表示に気が付いた。
誰からだろう?
画面をタッチ(スクロールって言うの?)して"受信メール確認"の画面へと移動させると、そこには、
『差出人…井上くん
題名…羨ましい生活してやがるじゃねえかこの野郎。』
彼が何やら怒っているというのはそのやけに長ったらしい題名から見て取れるのだが、申し訳ないことにその意味が僕には解らない。
確かに、このご時世に大学を中退して大好きなコーヒーの修行。その上たった1年で店を出して自由な生活を送っている僕は、まさにやりたい放題。普通の人から見れば確かに羨ましいのかもしれない。
だけど、そんなことをわざわざメールで言ってくる意味が分からないし、高校を中退して未成年の分際で居酒屋修行を始めたアイツだって同じようなものだろう。
まあ、アイツは僕より自分の店出すまでの下積み時代が長いし、喫茶店よりも居酒屋の方が大変そうな気もするんだけど。
いや、実際大変なんだろうけどさ。
わざわざメールで言ってこなくてもいいじゃないか。
あ、そういえば店。ほったらかしたままだな。どうしようか。
ようやく、自分の店のことを思い出す。
………。うん、まあいいか。どうせ彩音ちゃんが居るだろうし。今日も客は来てないだろう。
相も変わらず店長としての心が腐り果てている彼は、携帯電話の"本文確認"の文字をタッチする。
そこには―――――
その頃、店内では一足先に起きていたバイトの女の子が謎の置き手紙を見つけていた。
「井上さんって、店長の友達だっけ?」
この手紙は後で店長に見せよう。と、ひとまず彼女は店の入り口の鍵を閉めに行く。
一方、友人からのメールを見た店長さんはというと……。
〜ザアアァー
シャワーを浴びていた。彼の頭の上にはハテナのマークがふわふわと浮かんでいるのが見える。それらを振り払おうと、どれだけの水滴を頭に打ち付けても、そのハテナマークは消えてくれない。
友人から届いた1通のメール。
そこには本文と共に、画像が1枚添えられていた。
その画像を見てしまった。
その画像は写真だった。
その写真には自分と自分のよく知るバイトの女の子が写っていた。
その写真の中で、2人は一緒の毛布に包まって気持ち良さそうに爆睡していた。
どこか僕が後ろからその女の子に抱きついているように見えるのは目の錯覚だろうか?
錯覚だろう。
錯覚に違いない。錯覚であってくれ。
切に願う。
そして現在、僕が気にすべき問題は2つあるように思う。
1つは、この全く身に覚えがない写真を井上君がどうやって撮ったのかということだ。
これは容易に予想が建てられる。
さっきのメールの本文。
『店をすっぽかして女の子と仲良く添い寝か。これなら店が忙しいとか行けないとか言い訳は言わせねえからな。あの子も連れて今日こそ来いよ!』
これを見る限り、奴は約束しておきながらなかなか居酒屋に顔を出していなかった僕にいい加減業を煮やし、わざわざ店まで来たんだろう。
そこで、もし彩音ちゃんが店の鍵を開けっ放しにしたままで僕の部屋に来ていたとしたら……?
奴が誰もいない店内を不思議に思って店の奥に様子を見に来たとしてもおかしくはないだろう。そして、僕にとってそれはそれは不幸なことに、あんな光景を見られてしまった。と。
なんかちょっと申し訳ないキモチ。
折角店まで来てくれたのに。
それに、他人からすれば羨ましい状況ではあるよね、添い寝。
でもさ、勝手に人様の店の奥に入ってくる彼の神経はどうかと思うがね。
って、無人営業してた店が悪いのか。まず、その店は僕の店だし。そもそも爆睡してたのも僕だし。
改めて反省。
いろいろゴメンね。井上くん。
そしてもう1つの問題。
これは難解だ。
極めて難解だ。
まず、僕は自分が寝た前後の記憶が曖昧なのだ。
昼。彩音ちゃんが買ってきてくれた牛丼を食べた。いつも通り食後の眠気が僕を襲った。
そして自分の部屋で、爆睡。
そこから後の記憶はというと、いつもより多く汗をかいて目覚めたさっきのことになってしまう。
彩音ちゃん。
君は何故、僕の隣で寝ていたんだい?
頭の上のハテナマークは空気を入れすぎた風船のように、膨れ上がっていた。
その時ーー
〜ガタガタッ
不意に外から物音が聞こえた。恐らく彩音ちゃんだろう。
彼女、日曜日は結構遅くまで店に残っていることが多い。
ほぼ毎週のように外食に連れていけだの、奢ってくれだのとせがまれる。
親元を離れて誰かに甘えたい気持ちも分からなくはないんだけど。
少しは僕のお財布事情にも気を回してくれると有難いのですが。
それよりも彩音ちゃん、君に聞きたいことがあるのだが……。
今はタイミングが悪いというか、なんというか。
心の準備が出来ていない。
僕の隣で寝ていた理由を問いただす心の準備が。
僕は自分のそんな気持ちを隠すかの様にシャワーの水圧を上げた。
〜ザアザアザア
さっきまでとは音の厚みが違う。これでは彼女も僕がシャワーを浴びていることに気づくだろう。
『店長はシャワーか』
外で彩音ちゃんの声がした気がした。
ふう。
大きな溜め息を1つ。何をやってるんだろう。僕は。
『あの子も連れて店に来いよ!』
不意に、メールの内容が頭の中で蘇る。
その瞬間、頭の上に伸し掛かっていた大きなハテナのマークはパチンと音を立てて消えた。
そうだ。
解らないことをいつまで考えてもしょうがない。
今を楽しもう。
彩音ちゃんと、外食。といっても居酒屋だけどさ。
それでも、楽しくなりそうじゃないか。
僕はシャワーを止めると下着姿のままでシャワールームを後にして、外食用の着替えを探すため自分の部屋へと戻った。
クローゼットを開ける。
長らく使っていなかった私服達。
5月とは言え、夜は冷える。だから少し厚めの上着を羽織い、僕は彩音ちゃんがいるであろう店の中へと向かった。
なるべく落ち着いて、普通に外食に誘おう。普通に。自然に。
「おはようー、ってもう夜かー」
テレビを見ている彩音ちゃんに声を掛ける。なんか妙な感じ。自分で自然な自分を演じるというのは何とも難しい。
そんなことをしている時点で、それはもう自然な自分ではないのだから。
そんなことを考えていると案の定、彼女は怪訝そうな顔でこっちを見ている。その顔から放たれた言葉は――
「店長、なんで服が外出着なんですか?ていうか、自力で起きるの珍しいですね」
何と分かりやすい、単純かつ致命的なミス。
風呂上がりにいきなり外出着で自然な訳ないじゃないか。
何とか誤魔化そうと、必死で言葉を紡ぐ。
「ん、なんか暑くて目が勝手に覚めたんだよ。服は……、あ、間違えた。僕は寝ぼけちゃってたのかな?アハハ……アハハハハ……」
果たして今ので大丈夫なのだろうか?
暑くて目が覚めたのは事実。嘘ではない。だけど、寝ぼけたからと言って間違った服を着てしまう程、僕はどんくさい人間じゃない。
相変わらず怪訝な表情な彩音ちゃんは不意に何かを思い出した様な顔になって、ポケットから僕に1枚の紙を渡してきた。
僕宛に手紙が来ているという。
アイツからか。
「なになに?せっかく来てやったのに、鍵開けたままで無人営業とは相変わらず適当だな。今日は俺のとこに来いよ!か」
この文じゃあ、彩音ちゃんが誰かが店の中に入ってきたことには気づいても、添い寝シーンを見られたとまでは思わないよな。
相変わらず、抜け目の無い奴だ。
……。
分かったよ。今日は久しぶりに顔だしてやるよ。この子も連れて。
予想通り、奢りをせがまれたが、それくらい構わない。
今日の僕は気前がいいんだ。
特別にね。
◆◇◆◇◆◇
2人は、暗い路地の夜道を歩く。
いつも通り、他愛もない話をしながら、居酒屋へと歩く。
「店長ー、居酒屋ってどんなところなんですか?」
「別に普通の場所だよ?注意しておいたほうがいいね」
「いやいやいやおかしいでしょっ!なんで普通の場所に注意が必要なんですかっ?」
「勧められても、断る勇気が必要だよ?」
「未成年の私にお酒を勧めるのは一体どこの誰なんでしょうかね?」
「身近な人ほど危ないって言うからねー?」
僕がニヤニヤと笑って彼女の方を見ると、プイッと少し赤くなった顔を逸らした。
僕はそんな彼女を横目に考える。
彩音ちゃんは僕の中で確かに大切な存在だ。真面目で、礼儀正しくて。ちょっと口が悪いけど、素直な良い子。
彼女には幸せになって欲しい。
いつか、彼女も好きな男の子を連れてこの店に来ることがあるのだろう。それは少し寂しい気もするけれど、とにかくあの子の幸せに少しでも関わっていたい。
とにかく、今は。こんな毎日が楽しくて幸せなことが嬉しくて。
僕はそっと、夜空を見上げた。
薄い雲すら見えない。綺麗な星と綺麗な月だけを、僕の視界は捉えていた。
相変わらず書きたい内容はまとまっているのだけれど、文章にする力不足で遅くなりました。
これからも1週間1話ペースを目標に頑張ります!
それでは今回はこの辺りで終わりにさせていただいて。
次回も読んでいただけることを願って。
この辺りで筆を置かせていただいきます。
(ある小説のあとがきのパクりです')ノ気づいた方多いはず)
ではまたです`▽´)ノ