#3 私の知らない店長の話。
すいません、ちょっと長くなりました汗。良ければ暇潰しにでも読んでください…。
〜午後4時30分
いつも通り学校が終わり、帰り道。
「じゃっあねー!お隣さん!」
「あ、莉那ちゃん。バイバイ」
朝とは逆方向に大通りに沿った並木道を歩く。
右を見れば、朝も見た喫茶店。その隣には、夕食の具材を求めるお客さんで賑わっているスーパー。そしてさらにその隣には、準備中の札が掛かっている居酒屋。
朝とは逆の順番で色々な店や家、建物が見える。
もう少し歩くと、100円ショップが見えてくる。その脇には喫茶店のある路地への入り口が。
そこで大通りに背を向け右折すると、静かな路地へと入っていく。
と同時に、行き交う車の音、信号の音はどんどん遠くなっていく。
路地に入って少し歩くと、店長のいる喫茶店に着いた。
いつもより、ドアを思い切りよく開ける。
〜カランカラン!♪
「店長!ただいま」
「おかえり。まあここは君の家じゃないんだけどね」
「細かいことは気にしないでください」
「はいはい。で、今日は何しに来たの?」
「それ、店長がバイトの子に言うセリフですか?仕事に決まってるでしょ。仕事に」
「でも客いないよ?」
それに、そもそも君が勝手にバイトになっただけじゃないか。と、店長は呆れた様子で付け加える。
そういえば。元々この店はバイト募集などしていなかった。ただ、この町に来て初めて食べた朝食、モーニングAに一目惚れした私が毎朝この店に通うようになり、店の掃除や店長の目覚まし代わりなどをするうちに勝手にバイトと名乗りだしただけなのだ。
かといって、私がこの店にいなくても大丈夫なのか。決してそんなことはない。私には大事な役割がある。そこははっきりさせておかないと。
「でも店長。私がいなかったら店長は1日中寝てるんじゃないですか?」
「………………」
店長は沈黙した。そして……、
「いやぁ。君みたいなバイトの子が来てくれて助かったよ……。感謝している」
僕は幸せ者のマスターだなぁ。などと、店長は思ってもないようなことを棒読みで連発すると、きまりが悪くなったのか、奥へと消えていってしまった。
おそらくまたタバコでも吸いに行ったのだろう。
やることもないから、私は宿題をすることにした。
薄暗い、静かな店内は勉強するにはもってこいなのだ。
〜1時間後
カリカリカリカリ……
店内には私のシャーペンの音だけが響いている。
宿題は数学の、二次関数。
分かっているようで、イマイチ分からない。
うーん、公式だけを理解してもなかなか解けないものだ…。
そうだ!
「店長、ちょっと来てくれませんか?」
店長は朝私が座っていた席で、ルービックキューブをいじりながらなにやら唸っている。
「あーもう、折角揃いそうだったのに。まったく何の用だ!」
店長、面倒臭がりやの貴方には向いてないですよ、ルービックキューブ。と、心の中で指摘してみる。
当然、口には出さない。仮にもこれから頼みごとをする相手なのだから。
「店長、宿題教えてくれませんか?」
「宿題?あー、面倒臭いね。却下却下」
いつもはなんだかんだ言いながら教えてくれるのだが。
ルービックキューブ邪魔されたのがそんなに気にさわったか。
……仕方ない。
「マスター!宿題教えてください!」
キラン!
一瞬、店長の目が輝いた気がした。
店長は無言ですぐこっちに来た。
ちなみに私は窓際のテーブル席を1人で占領している。
散らかしていた教科書類を片付けて、店長を隣に招く。
「えーと、どの問題を教えてほしいの?」
彼はもうすっかりやる気になっている。
そんなにマスターがいいのか。子供か!
(これらも、私の心の中に留めておく。口には出さない)
こうなったら店長の機嫌がよろしいうちに、さっさと教えて貰おう。
「ここの問題です」
そう言って、私は問題を指さした。
例の二次関数。なんとなく解っている気になっているが、本当のトコロは解らない。
まるで、店長みたいな問題だ。
「二次関数かぁー。懐かしいね〜」
店長は私の隣で本当に懐かしそうな顔をしている。
あんた本当に何歳なんだ。
妙に落ち着いた雰囲気やその発言は大学生、という感じではない。まず大学生なら1日中店にいるなんて有り得ないだろう。
じゃあこの人が立派な社会人?そうは思えない。
謎は膨らむばかりだ。
「彩音ちゃん?」
「!」
いきなり横から声を掛けられた。
「どうしたの?問題終わったよ」
「あ、ありがとう。どうしてこうなるのか教えてくれない?」
「ここは場合分けでね。……………そう、軸がここにあるから…………そうそう、それがそのときの最小値で……………」
「解った!」
「1つずつ考えれば、思ったより簡単でしょ?」
店長も、私が思っているより単純な人なのかな?マスターって呼ばれただけで機嫌良くなるし。
そんなことを考えているとまた声を掛けられた。
「彩音ちゃん。折角教えてあげたんだからせめて礼くらいはほしいかな〜」
得意げな顔で店長はこっちを見ている。
「ありがとうございました。店長さん!」
呼び名が戻っていることに少し残念そうな顔をした店長は、再びカウンターへと戻っていった。
「さあ、そろそろ閉店だよ」
午後6時くらいになると、この店の外には準備中の札が掛かる。
何を準備中なのか。良く解らないが。
そして閉店と共に、私は自分の部屋に戻る。
私が店を出ると、店長も準備中の札を掛けに外へ出てきた。
「そうだ、なんでルービックキューブなんかやってたんですか?」
なんとなく思っていたことを聞いてみた。
「ああ、あれか。友達に勧められたんだ。俺には合ってないと思ってたんだが、どうにもハマっちゃってね」
それは自分でも分かってたのか。……ん?友達……?
「店長、友達いるんですか?!」
友達の話なんて、聞いたことなかったのだ。
「失礼な奴だな。僕にも友達くらいいるよ」
「何人いるんですか?」
「君と、小野くんと、松岡くんと、井上くんと……。4人かな?」
4人か……。一応いるんだな。てか、私は友達のカテゴリーに入るのか。まあ、確かに、そうなるか?
「そ、そうなんですか」
うまく返せずに、曖昧な返事。
「ほら、早く部屋に戻りなよ。風邪を引くよ?」
5月なのに夜は冷えるからね。などと、お母さんのようなことを言う店長に従って、部屋に戻ることにする。
「宿題ありがとうございました。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
店長はそう言うと、準備中の札を掛けて店の中に入っていった。
〜午後9時半/私の部屋
「店長にも、友達いるんだなぁ」
ベッドの上で呟く。
すでにお風呂にも入り、夕食も済ませたので、今日はもう寝るだけである。やっぱりあの人は謎だらけだ。
でも、今日の話で1つ分かった。あの人にも友達はいる。
明日も何か知りたいな。私がまだ知らない店長のこと。
そんなことを考えて、私は深い眠りに就くべく目を閉じた。
外食はしませんでしたね汗
はい、次は短くまとめるつもりです。読んでくださった皆様方ありがとうございました(*'-')