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私と店長の他愛もない話。  作者: 仮『どん』
私と店長と梅雨の季節。
23/41

#22 ちょっぴり変わったおきゃくさま!

お久しぶりです。

仮『どん』です。


待っていて下さった方、はじめましての方も。ありがとうございます。

良ければ今後もよろしくお願いします。


ではお楽しみ下さい。


今回は彩音ちゃんが途中から探偵(?)となります。

「……ひさしぶりです、……にいさん」


じぇじぇじぇ?

この子、店長の妹? そう言われてみれば、ちょっと似てるような気がしない気もしない……しない気もしない?んん?しないでもない……?

リタイア。日本語ムズカシイ。


母語の意外な難解さに混乱し白旗を挙げる私を尻目に、例の兄妹達は話を進める。



「お前、どうやってこの場所が分かった」


「……美久さんに聞いた」


「ああ、そう」


「…………美久さん、もう怒ってないんだね」


「ああ、そうだな」


「………………」


「………………」



いやいやいやいや。何この空気。

そしてなんだろう、この疎外感。


うん、よく事情が分からないってのもあるんだけど。

この兄妹、仲が悪いの?

私の知り合いにも仲の悪い兄弟いるけど、流石にこれよりはマシですよ?


「……じゃあ兄さん、……また今度」


え?帰るの?! 早すぎでしょ!お前何しに来たんだよ!!

「い、あやいやせっかく来たんだからもうちょっとゆっくりして行ったらどう?!」


『あやいや』って何だ。 あまりにびっくりさせやがるもんだから思わず噛んでしまったぜ。


「……うん、じゃあさっき言ってたモーニングもらう。 ……ありがとう、おねえさん」


お、おねえさんだと?! 人生で初めて言われたかもしれないぜそんな単語!! もう妹さんが天使に見える!


と、いうことで。

店長が妹さんへのモーニングを作るまでの間、私達はさっき買ってきたばかりの百均将棋盤で将棋をすることになったのです。


あとさっき口調が少しおかしかったことに関してはご心配なく。 なんの伏線でもありません。


いきなり話にも聞いていない新キャラがやって来て、店長と何やら意味深な会話をし始めて、その上いきなり帰るとかほざき出したのでビックリしただけなのです。しかもおねえさんとか言われたし。むふふ、おねえさん。実はおねえさんなんですよ?私。


「……7六歩」


おやおや、もう始まっていましたか。



「じゃあ私もそれでー」


特に何も考えず、妹さんと同じ手を指す。

私、将棋に対して特に拘りはないのです。


店長と暇潰しにすることはあるんだけど、彼も彼でコーヒーを飲みながら将棋をするっていうシチュエーションが気に入ってるだけみたいだから、あまり強くはないし、基本何も考えていない。

だからその勝負は、大抵の場合思わぬ接戦になって結構面白い。


そして、この子の実力はというと。


「……4三桂。……詰みじゃないか?」


強い。かなり強い。 開始直後から適当に角と飛車をひたすらガチャガチャやってた私が弱過ぎるだけなのかもしれないけど、この沈黙の妹さんは開始十分で容赦無く金と桂馬を駆使して詰ませてきた。


私の目の前には首を獲られたも同然の王様と、頼りなさそうな金銀がびくびくと震えている(ように見える)。

自らの存在で王様の逃げ道を防ぐとは愚かなり金銀将。 そして、浅はかなり私。


「ま、参りました」


「……うむ。 ……あの、一つ聞いてもいいだろうか?」


「別にいいですよー」


気前のいいおねえさんは、何でも応えてやるのです。 ぐふふふ。


「……兄さんは、貴女に対して、いつもあんな話し方なのか?」


さっきまでより少し、身を乗り出して妹さんは私を見る。


話し方。 あの人を舐めきった話し方のことだろうか? 最近まで大人しかった癖に、この頃また復活してるんだよな、店長の意地悪さ。


「はい、いつもあんなんですよ?」


「……そうか、兄さんは……。あの、貴女は、兄さんをどう思っている? 貴女にとって、兄さんとはなんだ?」


その幼い顔立ちからはかけ離れた、大人びた口調に、大人びた質問。

大人びた妹さんは、その小さな体がテーブルの上に乗りかかる程、ますます身を乗り出して私をじっと見る。


『私にとって、店長とは何か? 』


この質問に対して、私は既に答えを出している。


私にとって、店長は店長。 その存在が特別であることに間違いはない。


「店長は店長!だよ。 妹さん」



ん? ちょっと待った。

この問答、前も誰かに……



「出来たよ。 彩音ちゃん食器運んでー」


キッチンの方から、いつもの店長の声が割り込んできた。 この声が、私の日常の中でかなりの割合を占めている時点で、店長は特別な存在なのだ。


「はい! 今行きますね!」


私はゆっくりと立ち上がり、奥のキッチンへと足を進める。 妹さんの下に、モーニングAを届ける為に。


「あ、コーヒーはあんまり砂糖入れてないよ。 もしアイツが苦いって言ったら足してあげて」


そう言って砂糖とミルクを手渡してくる店長。

どうしてか分からないけど、その静かな笑みを見て私ははっと思い出した。


……あの質問を私にしたのは、美久さんだ。




◆◇◆◇◆◇




「お味はどうですかー?」


「……おいしい、です」


そう言って、モーニングAを黙々と食べ続ける妹さん。

現在、午前10時。 相当お腹が空いていたのだろうか?


沈黙の妹さんが食べ終えるのを待って、私は気になることをいくつか聞いてみることにした。


「妹さん、年はいくつですか?」


「……13才。 この春から、中学生だ」


おおお、じぇーしーデビューしたてなのか、この子。 それにしては大人びた態度だけど。


うん、では次の質問いってみよー。


「家はこの辺りなんですか?」


「……いや、ここから、4時間のところに」




…………なんだって? いま何気に凄いことさらっと言わなかったか?


「ゴメン、もう一回聞いてもいい? 家はここから――」


「……4時間」



聞き間違いではなかった。

聞いてないぞ。店長の実家がそんな遠い所にあったなんて。


「でもそれならどうして」


私はその質問を言いかけて、すぐにストップさせた。

『どうしてわざわざこんな遠い所まで来たのか』なんて、聞くまでもないと思ったからだ。


妙に大人びた態度でも、目の前にいる少女はまだ中学一年生。

遠く離れた場所に住んでいるお兄ちゃんに会いたくなったとしても、別に不思議では――


「勝手に大学を辞めたりするから、兄さんは実家に嫌われていてな。暫く会っていなかったんだが、昨夜になって父がいきなり『アイツは生きてるのか? 大丈夫か?』って喚き出して。 仕方なく様子を見に来たんだが、……元気そうで何よりだ」


私の心の声に反駁するかの様に、妹さんは珍しく長い文章を話した。


にしても、どんな家庭だ。


放任主義……ではないよね。 家族は忘れてただけなんだよね、息子の存在を。


うん、可哀想、店長がとっても可哀想だけど、あまり人様の家庭にケチつけるのもなんなので、これ以上は言及しないでおこう。


代わりに、さっきから一番気になっていたことを聞いてみよう。


「妹さん、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」


「……うむ」


コクリ、と小さく頷く妹さんは、少し強張った顔をしていて。 私がこれからどんな質問をするのか、予感している様だった。


「美久さんのことです。 店長と美久さんは大学時代の友達。 だから、その繋がりで妹さんと美久さんが知り合いってのは分かりますよ?」


妹さんは相変わらずの強張った表情で、コクリコクリと小さく頷きながら、話の続きを待つ。

その表情と仕草は私に罪悪感を抱かせるのだが、聞くと言った以上は最後まで聞かないと。


私は妹さんの目を真っ直ぐ見つめて、言った。


「美久さんが『もう怒ってない』って、どういうこと? 久しぶりに会った店長に、あなたはさっき会うなりいきなりその話をした。それって、それだけ重要な話だってことだよね?」


「……ぅ、むむ、それは、えーと……」


口をモゴモゴとさせて、質問の答えを渋る妹さん。

ちょっと怖がらせてしまったかもしれない。 流石に罪悪感を背負いきれなくなった私は、柔和な笑みで妹さんを見る。


「ごめん、嫌だったよね、お兄さんの秘密を探られるなんて。 でも、どーしても気になるから、後は本人に聞いてみるね」


「……あ、うむ。 あ、あの、今日はもう帰るので。遊んでくれて、話してくれて、ありがとう。 これから兄さんを、よろしく」


それだけ言うと、妹さんはドアを開けて帰ってしまった。

悪かったかな。やっぱりお兄さんの秘密なんて聞かれたくなかったよね。

でも、将棋してる時とかは楽しそうだったし、今度会うときにはちゃんと謝って、たっぷり遊んであげよう。



◆◇◆◇



よし、残るは店長だ。



私はあの有名な銅像のポーズで、推理を開始する。


美久さんと妹さんは、それぞれが初対面の私に同じ質問をした。

その質問の内容は、『私が店長をどう思っているか』について。


その理由。


二人の共通点、怒った美久さん、店長との関係……、私と店長の関係を探る理由…………



「!!」


分かってしまった。 私は大変なことに気づいてしまった。

知らない方が良かった気がするが、知ってしまった以上、推理を完結させねばならない。



そう。 美久さんは勿論のこと、妹さんも知っていたのだ。



『店長と美久さんが、昔付き合っていた』 ということを!!



・美久さんは、久しぶりに会った元カレにまた女の子(私)が付いているのを見て、その関係に興味をもった。

・妹さんは、彼女と別れたはずのお兄さんが、今度は別の女の子(私)と一緒にいるのを見て、その関係を疑った。


・そして妹さんは、美久さんに聞いたのか、どうやら二人が別れた理由まで知っている。

・そしてその理由は、店長が美久さんを怒らせてしまったことにあるらしい。



どうだどうですどうですか?

私のこの美しい推理!!


人の過去をほじくり返して弄ぶようなつもりはないけど、自分のことを何も教えてくれない店長にはちょっとムカツク。


だから、彼の謎は私が暴いてみせる。

いつも意地悪な店長に、今日は自分の甘酸っぱい青春をちょっとだけ思い返してもらう。



さあ、謎はだいたい解けた。 後は、店長本人に話を聞くだけだ。



出て来なさい店長!

そして白状しなさいっ!


当時、どうして美久さんを怒らせてしまったのかをっっ!!




◇◆


〜キッチンの奥


「(いやいやいやいや!普通に全部聞こえてたし心の声まで漏れてるし!! しかもその推理余裕で間違ってるし!!彩音ちゃん!いったい何がしたいんだ君は!!)」



ここまで読んでくださった方。

更新を待っていて下さった方。


本当にありがとうございます。

スローペースな仮『どん』ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


では今回はこの辺りで。

ではまた。

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