#14 私と店長のささやかなすれ違い。
今回は1週間足らずで無事更新することが出来ました!
これもお気に入り登録して下さった方、読んで下さった方のお陰です。
素直に嬉しかったです。ありがとうございました!
これからも励みに頑張ります!
ではまた^)/
『良ければなんだけどさ。その日だけ、鷲宮さんと例の店長さんにカップルのフリをしてほしいんだ』
志村くんの言葉が脳内にフラッシュバックした。
ただいま私は下校中。
一歩一歩と足を進め、例の喫茶店へと近づく度に、昼休みの言葉が脳に蘇る。
『他人の恋愛には口うるさい莉那が、どうして自分のこととなると鈍感なのか。それは多分、親しい人に本物のカップルがいないからだと思うんだ』
『……それで私と店長をカップルに見立てて、莉那ちゃんにそういうのを近くに感じて欲しいってこと?』
『そう。アイツにとって、恋愛ってのは現実味がないものなんだと思う。だから友達の鷲宮さんが恋愛してたら、少しは自分も……って思ってくれるかもだろ?』
『そんなに上手くいきますかねー?』
『そこを上手くするしかないんだよ。告白した後で事情は説明するからさ。鷲宮さんお願い!』
どこまでもストレートな人だ。
もう告白すること前提で話をしている。
こんな人に告白されて気付かないって、やっぱり莉那ちゃん相当だよ!
それに、こんな頼み方されたら断るに断れないじゃないか。
結局、私はそんな志村くんの頼みを断ることが出来ず。
気付けばもうバイト先の喫茶店が目の前である。
さて、どうしたものか。
いきなり『私と恋人のフリをしてください!』って頼むのは無理があるし、駄目だよね。
やっぱり、状況を説明してお願いするしかないか……。
それにしても。
「なんで引き受けちゃったかなぁ?」
店の正面で、独り溜め息をついていると。
「何を引き受けちゃったんだい?彩音ちゃん」
突然、背後から声を掛けられた。
「うわっ!なんですかいきなり!!」
「"うわっ"はないでしょ。仮にも僕はこの店のマスターなんだから」
振り返るとそこにはやはり店長が。
営業時間中だというのに、堂々と外出していたらしい。
その上、彼の手には大量の週刊誌が。
よくよく見ると少女漫画の雑誌まである。
訳が分からない。
読むの?少女漫画。
「そのマスターさんは、店すっぽかしてどこ行ってたんですか?」
「どこでもないよ、うん。あ、そうだ。店の正面は鍵掛けてたんだった。裏から入ろうか」
「はぁ」
何かを隠している。
店長は分かりやすい人だ。
一体どこに行っていたと言うのか。
店に鍵まで掛けて。
聞きたい。
この際、色々と聞いてみたい。
何をどこまで隠していて。
私の知る店長はどこまでが本物の店長なのか。
例えば美久さんと刑事さんや、井上さんのような同級生に見せた、あのぶっきらぼうな態度が本物なのか。
私に対しての、ちょっとムカつくけど優しい態度が本物なのか。
「彩音ちゃーん。何してるの?」
裏口の玄関で固まっている私に、店の中から声が掛かってくる。
やっぱり、まだいいかな。
私が店長のことを知るのは、今よりもっと仲良くなってからのことで。
*
〜午後5時20分
今日もお客さんは来ない。
壁に掛かっている時計の秒針の音だけが、カタッ、カタッと静かな店内に響き渡っている。
「そうそう店長。私、今日相談されたんですよー」
店の掃除を終えた私は窓際の席に座り、さりげなく会話を試みる。
一方の店長さんはと言うと、カウンターで未だ1面も揃っていないルービックキューブと格闘中である。
「へー、相談かぁ。誰から?クラスの人?」
店長は揃わないルービックキューブを諦めて店の奥に放り投げると、私の方を見て聞いてきた。
「はい。クラスの男子ですよ」
「え、男子?!どんな相談だったの?」
何やら驚いている様子の店長。
私に男子の友達がいないとでも思ってたんだろうか。侮られては困るなぁ。
まぁ、1人しかいないんですけど。
「恋愛相談……ですかね?」
「ええっ、恋愛?!彩音ちゃん、告白でもされたのかい?」
告白……。
ある意味告白ですよね。
志村くんから莉那ちゃんへの。
「えぇまぁ……そうなっちゃいますかね?」
「えええっ、ホントに?!何て答えたの?オッケーしたのかい?」
土曜日に2人がここに来ることは了承した。
莉那ちゃんをその気にさせるのも協力するって言っちゃったし、オッケーしちゃったんだよなぁ……。
「ハイ。一応、オッケーしましたよ?」
「そうかぁ。彩音ちゃんもついに、かぁ。何だか寂しいけど、ここは年長者として協力しなきゃだね」
腕組みをしてウンウンと頷く店長。
もしかしてこの人、何かとてつもない勘違いをしてるんじゃないか?
……まぁいいか。
取り敢えず今は話を進めないと。
「そのことでなんですけど店長、週末に友達連れてきて良いですか?もちろん客として、です!」
「…………(友達?彼氏のことかな。さてはまだ恥ずかしくて彼氏って言えないんだな)」
黙りこむ店長。
店の利益にもなるし、特に断る理由はないと思うのだが。
「ねぇ店長、聞いてます?」
「あ、ああ聞いてるさ。もちろん歓迎するよ。でもさ、彩音ちゃん。喫茶店デートはちょっと地味だと思うよ?」
「そうなんですか。でもデートって訳じゃないから別にいいと思いますよ?」
そう。
今回の作戦の意図は、莉那ちゃんに恋愛を身近に感じてもらうこと。
要は私と店長が恋人同士だと思わせることが出来たら、それだけでいいのです。
後はどうやってその話に持っていくか――――。
「デートじゃないの?2人は付き合ってるんじゃ?」
「いやいや、まだ付き合ってはないんですよ。これはその為の前勝負というか。なんというか」
「勝負?最近の若い子は色々大変なんだねぇ。僕も出来る範囲で協力するよ」
年寄りか!と思わずツッコミを入れたくなるセリフだが、これは願ってもない方向に話が進んでくれた。
私と店長の偽カップル計画の件。
お願いするならここしかない。
「じゃあ次の土曜日、私の恋人のフリをしてください!!」
「……………………………………………………………………え?なんだって?」
*
「僕はてっきり彩音ちゃんに彼氏ができた話かと思ったよ」
「そんな訳ないじゃないですかー。それより、頼んでいいんですか? その……、恋人役……というか……」
現在、午後6時。
約30分かけて店長の誤解を解いた私は、改めてお願いをしているのだった。
"恋人役"なんて、口に出すのも恥ずかしい単語なのだが。
「うん、大体事情も分かったし大丈夫だよ。協力するって言っちゃったしね。それに、こういう初々しいのを見てたら応援してやりたくなるんだよ」
なにその保護者的発言。
貴方もまだ21でしょうが。
「店長にも初々しい時、あったんですか?」
「何が言いたいのさ。彩音ちゃん」
「店長も昔は恋愛とかしたのかなー?と、思って」
ちょっと気になるのだ。
店長も告白とかしたんだろうか。
想像つかないけど。
「ま、したことないと言ったら嘘になるけどね…………そろそろ店閉めるよ。もう6時だ」
店長が一瞬だけ遠い目をした気がした。
それは、私が見たことのない表情で。
それは、どこか儚げな表情で。
店長も甘酸っぱい青春とやらを経験したのだろう。
深くは聞かないでおこう。
私が店の外に出ると、店長も"準備中"の札をドアに掛けに出てくる。
5月の空はまだ明るい。
ほんの最近までは、午後の6時といえば薄暗かったんだけど。
流石は初夏です。
「土曜日、どうするか考えないとね」
空を見上げる私に、店長は少し困った顔で話しかけた。
「どうするかって、何をですか?」
「いやさ、一応恋人同士の設定なんでしょ?僕達。なら今みたいな接し方はマズイんじゃないかなー」
「なっっ、接し方?!」
そう、私は生まれてこのかた恋愛などにはご縁がない人間。
恋人同士の接し方など、ドラマや漫画の中の話でしかないのです。
そんなので果たして恋人役なんて出来るんだろうか……
と、不安になる私を尻目に。
「じゃあお休みー」
「え?ちょっと待っ――」
〜バタン!
気になることだけ言い残して、店長は店の中に消えてしまったのだった。
*
――ブクブクブクブク。
下宿先のアパート(と言っても喫茶店の向かいなのだが)に戻った私は、宿題、夕食とやらなければならないことを手短に済ませ、お風呂に入っていた。
(恋人役……かぁ)
面倒なことを押し付けられたと思う反面、そこまで嫌な気持ちじゃない不思議な私だったりする。
そもそも恋人って、どんなことをするものなんだろうか。
いつもよりたっぷりとお湯が入った湯船に、顔を半分だけうずめて私は考える。
「むぅーー」
経験が無いものだから、考えたところで答えは出ない。
だが、考えずにはいられないのだ。
「むぅぅー」
考えれば考えるほど訳が分からなくなってきて、顔が熱を帯びてしまうのが自分でも分かる。
「ぷはぁっ」
いい加減息が苦しくなってきた私は湯船から顔を出すと、今度は天井を見上げた。
安アパートの狭いお風呂場には、白い湯気が悶々(もんもん)と立ち込めていて。
この前掃除したばかりだと言うのにもうカビが生えてきた天井も、その湯気でぼやけて見える。
「また掃除しないとダメかぁ」
すっかりのぼせてしまった私は、オアシスを求めて蒸し暑い風呂場を後にした。
濡れた髪は、自然乾燥。
これが私のモットーである。
少しでも早く蒸し暑い洗面所から出たかったので、私は体の表面に付いた水分だけを拭き取るとすぐに下着と服を着て、湿ったバスタオルを羽織い、半乾きの髪で六畳一間のリビングに戻った。
自分でも分かるほど身体中が火照っていて、だらだらと落ちてくる汗が鬱陶しい。
風通しの良くないこの部屋は、窓を開けていてもあまり風が入ってこない為、実際はオアシスでもなんでもないのだ。
それでも、あの蒸し暑い風呂場に比べたら幾分と快適な空間ではあるのだが。
部屋の湿度の高さに堪えかねた私は、冷凍庫から"あるもの"を取り出し、窓際のベッドの上にダイブした。
「んぅっ、ひもひひぃ〜(キモチいいー)」
私は冷凍庫から取り出したソレを自分の頬に当てて、気持ちよさを味わう。
"あるもの"とは、保冷剤のことだ。
中々良いんですよ。コレ。
ビバ保冷剤!
しばらくそうしていると、身体の火照りは収まっていき、熱が冷めると同時に今度は睡魔が私の脳を襲ってきた。
今日も色んなことがあった。
明日もたぶん、あるのだろう。
〜サァァァーー
珍しく、涼しい風が窓から入ってきた。
初夏特有の涼しく、優しい風。
「ふぁぁぁぁ…………」
風に眠気を煽られて、遠のいて行く意識の中。
私は1つ大きな欠伸をして、ゆっくり瞼を閉じたのだった。
ここまで読んで下さった方、更新を待っていて下さった方。
ありがとうございました!
皆様のお陰で頑張れます!
さあ、第14話。
いつもよりは会話がメインだったかと思います。
会話は楽ですね。ハイ。
それだけです、すいません。
後、これからテスト期間に入るので次の更新は少し遅れるかもしれません。ご了承を。
最後に……。
お気に入り登録して下さった方、ホントにありがとうございました!
感謝、感激、感動の仮『どん』です。
これから頑張ります。
では長くなりました。
また次回_・。)ノ