#13 クラスメートの人生相談。(2)
毎度毎度、遅れて申し訳ありません。
仮『どん』です。
待っていて下さった方、はじめましての方。
良ければ暇潰しに読んで頂けるとありがたいです。
そして評価を下さった方。
ありがとうございました、嬉しかったです!
励みにして頑張ります。
ではまた_・。)ノ
4時間目は、日本史。
黒板の隅に手書きで書かれている時間割を見て確認する。
火曜日の4時間目は、日本史だ。
今は3時間目が終わった後の休み時間。
朝は少し騒がしかった私の生活も、それ以降はいつもと変わらず通常運転。
今日の午前中もこの授業を残すのみとなった。
そうそう、日本史といえば。
私のクラスを担当している日本史の先生は、授業中によく話が逸れることで有名な先生だ。
たぶん、授業の8割くらいは教科書の内容と違う話をしている。
背はそこそこ高い(店長程じゃない)のだけど、常に背中を丸めたその猫背と体の線の細さ、ずり落ちた黒縁眼鏡も相まってどこかひっそりとした影の薄い印象を醸し出している先生だ。
店長が年取ったらあんな冴えない中年になるんだろうなって感じの容姿である。
とにかくその先生、授業の脱線率が高く、学校が始まって既に1ヶ月が過ぎたと言うのにまだ日本史のノートには卑弥呼さんの"ひ"の字も出てこない。
それもそのはずで。
中間テストは弥生時代までと範囲が予め決められていたにも関わらず。
この先生はここ1ヶ月、源の義経さんやら聖徳の太子さんやらと、残念ながら中間テストの範囲には収まりきらなかった人の話(それも教科書に乗ってないような話)を延々としてきたのです。
『早く私の話もしなさいよ!で、でも勘違いしないでよね?べつにアンタに見て欲しい訳じゃないんだから!』
ほら、あまりにも授業中に出番がないもんだから、教科書の中で卑弥呼さんもツンデレってます。
え、そんな話はいらないから早く話進めろって?
でもでも、卑弥呼さんってツンデレっぽくないですか?
それに大人っぽいというか、凛々しいというか。
願わくば私も将来、卑弥呼さんみたいな大人になりたい。
―そんなことを延々と。想い巡らせ巡らせて。
気付けば既に、授業中――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
果たしてチャイムは鳴ったのだろうか?
本当に聞こえなかった。
私が気付いた時には、既に教壇に先生が立っていて。
黒板の横にある時計の針は、授業開始時刻を少し上回った所だった。
まるで異世界にでも飛ばされたかのような話だが、大丈夫。
日常系小説でそんな展開にはなりませんのでご安心を。
たぶん、私がぼーっとしてただけなんでしょう。
とまあ、半ば無理矢理に今の状況を自己解釈で納得したものの。
1つだけ、気にかかることが。
(号令のとき、私何してたんだろ??)
『クラス全員が起立しているというのに1人だけ気付かずに椅子に座ったまま』という自分のアレな姿を想像して、冷たい汗が私の首筋を伝う。
が、一頻り悩んだところでその疑問は解消された。
この先生が先週の授業で放った一言を思い出したのだ。
『あー、号令は、面倒ですからね。もう止めにしましょう。次からは私が勝手に授業を始めますねー』
"面倒だから"、という理由だけで号令という学校の常識を変えてみせるなんて。
まさしくイノベーション。カッコいい!
その自由奔放かつ傍若無人な考えと振る舞いは、どこぞの店長さんに似ている。
まあともかく、自分が恥ずかしい思いをしていないことが分かって一安心。
私は机に出していた教科書を開くと、パラパラとページを捲った。
邪馬台国の事が記されているページでその手を止め、筆箱を左側のページの上に置いて、教科書が重みで閉じない様に固定する。
後は机の真ん中からちょっと自分よりに教科書を寄せて、と。
よし。
これでセット完了。
俯いてるだけでも他人からは一生懸命に教科書を見つめている様に見える鷲宮スタイル、完成だ。
「えー、何故明智君が反乱を起こしたのかと言いますとー」
教室の前の方からは、先生のその抑揚のない声が聞こえてくる。
明智君て。
貴様は二十面相か。その内四十面になるのか。
本能寺で怪盗なんかしなくていいから弥生時代に還ってきてくれ。
プリーズ、カムバックティーチャー!
はい、閑話休題。
さっきから話が逸れすぎですよね。
反省します。
てな訳で、私は大人しく授業を受ける(フリをする)ことにしたのです。
(やっぱ卑弥呼さんって凛々しい。美久さんみたいで憧れる!)
教科書を見て、そんなことを思っていた矢先。
〜パコッ!
「?!」
何か軽くて、チクチクした感触のモノが頭に当たった。
頭からコロコロと机の上に転がってきたソレは、紙で出来たボールだった。
一体誰がこんな昭和のイジメみたいなことを。
私はボールが飛んできた方向を見る。
そこには、少し申し訳なさそうにこっちを向いている志村くんがいた。
「痛いよ〜。何?」
実際そこまで痛くないんですけどね。
紙ボールだし。
(ゴメンゴメン、ちょっとその紙ボールの中身見てくれない?)
志村くんは口パクで私に返事をしてきた。
あのボケた先生なら普通に会話してもバレないと思うんだけど。
〜ぐしゃぐしゃ
手で紙ボールを分解する。
どうやらノートを千切って作っているようだ。
何が書いてあるんだろう。
絵しりとりなら喜んで参戦するのですが。
『今朝言ってた相談、今日の昼休みムリかな?』
そこにはそう書いてあった。
絵しりとりじゃないのかよ。ちぇっ。
授業中にノートを千切って回すとしたら絵しりとりだと相場は決まってるじゃないですか。
まったく、"相談"ねえ。
私に何を期待してるのかは知りませんが、ここは利用させてもらうとしましょう。
『お昼代出してくれるなら』
私はシャーペンで返事を書くと、もう一度その紙を丸めて志村くんに投げ返した。
「…………」
ボールを受け取り、中のメッセージを確認した志村くんは無言でこっちを見てくる。
それは抗議なのだろう。
『相談ごときで金なんか出せるかこの野郎』という。
けれども、私にも負けられない理由がある。
……今月はどうも金欠なのだ。
わたしは目前の敵を涙目でジトーっと見つめると、さっき紙ボールを当てられた頭の部分を無言でさする。
無言には、無言で返すのが私の流儀なのだ。
だが、志村くんも負けてはいない。
彼も彼で変わらず無言の抗議を続けてくる。
こうなれば勝負で雌雄を決する他はないようだ。
拳で語り合うのではない、互いの瞳で語り合うのだ。
互いに頷き、戦う意思を確認すると。
この教室の片隅で。
ささやかで静かな勝負が始まる。
私「………………(ジトーっ)」
私はさらに瞳に水を蓄え、志村くんをじーっと見つめる。
志村くん「……(何、その目?!まるで俺が悪者みたいじゃないか)」
私「…………(ふっふっふ、恐れ慄け!女の涙は武器だと昔の政治家もいっていたでしょう)」
志「……(くっ、俺はK泉元首相じゃないんだから、そんな物には屈さないよ!)」
志村くんは必死の形相で耐えている。
ほう、なかなかやるな。
だが―――
私「…………………………、クスン」
志「?!」
――これが必殺技だ。流石に女の子を泣かせたという罪悪感には抗えまい。
ただでさえ志村くん、君はコンビニでぶつかった見知らぬ人に直ぐ詫びを入れる程の"いい人"なのだから!
志「……(くぅぅっ!)」
顔に苦渋の表情を浮かべる志村くん。
私「…………(いつまでそうやって耐えていられるかな?君はもう身体中が罪悪感に支配されている筈だ)」
追い討ちをかける様に、私は瞳を潤わせる。
志「……(わ、わかった!金だな!?いくら欲しいんだ?!言ってみろ!)」
遂に折れた。私は勝ったのだ。
人としての大事な何かでは負けた気がするけど。
「じゃあ500円でお願いします♪」
私はニコッと微笑むと、再び身体を黒板に向けたのだった。
こうして、私達のとなり席戦争は終結した。
いや、別に隣じゃないんですけどね。
まあいいでしょ、そんな細かいことは。
それよりも今日の昼食はどうしたものか。
いつもは高くて手が出せないカツサンドにいくか、それともいつもの100円パンを多く買う作戦でいくか。
質より量?
それとも、量より質?
何とも贅沢な悩みです。
この時間が終わるまでに決めないと。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして現在、前話の冒頭部に話は戻る。
私と志村くんの二人は、校庭の隅にあるベンチに腰を下ろし、昼食を摂りながら話をしている。
ここは掃除の担当区域になっていない場所なのか。
それとも単に担当の班の人達が真面目に掃除をしていないだけなのか。
ベンチの周りには落ち葉が散乱していた。
そんな落ち葉を眺めながら、私は売店の前で散々迷った果てに選んだ戦利品カツサンドを口いっぱいに頬張る。
やっぱり大量消費のこの世の中、量より質だと思うのですよ。
「――で、話だけど。鷲宮さん、笑わないで聞いてくれるって約束出来る?」
志村くんは食事の手を止めると、いつもの少しおどけた調子とは違う、真剣な面持ちで言った。
私が思わず笑ってしまうかも知れない様な話なの?
なんだろう。
『わたくし実は女でした!』とかだけは止めて下さいね。
……笑えないから。
ともかく。
「うん、大丈夫!絶対笑わないから」
と答えるしかないではないか。
「ありがとう。じゃあ、言うよ……」
「…………」
「……………………」
沈黙。
言わないのかよ!!
冷たい風が2人の間をビュウッと吹き抜けていく。
地面に落ちていた枯れ葉は、私のカツサンドの上10センチを通過して遥か彼方へと飛んでいった。
「俺、好きなんだ――」
「…………ぇえ?」
頬を赤らめ、俯く志村くん。
エェ何コレ?!コレガゾクニイウラブコメナンデスカ?
うわうわうわ、どうしよう。
何て答えたらいいの?
告白とか初めてだからよく分かんないよ!
と、とにかく、『少し考えさせて』かな?!
『え?なんだって?』は流石にマズイよね、あれイラッとするし!
よ、よし。言うぞ。
「少しかんがぇ「――莉那のことが好きなんだ!」
……。
……………ハイ。
いや、分かってましたよ?なんとなく。
そう、志村くんは莉那ちゃんのことが好きなんです。
「「………………」」
ホラ、沈黙ですよ。まったく!何で私が振られたみたいな空気になってるんですか?
私、別に志村くんのことを好きな訳じゃないんですよ? いやホントに。
私「…………」
志「…………なんか、ゴメンね?」
嗚呼、何かもう、死にたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――で、志村くんは中学時代から莉那ちゃんのことが好きで、ずっとアプローチを繰り返して来たんだけど全く気付いてくれなかった、と」
「うん、どれだけストレートに言ってもアイツには何故か伝わらないんだよ。」
私は食べ終わったカツサンドの包み紙をベンチの横にあるゴミ箱に放り入れ、話を続ける。
「例えば何て言ったの?」
半分は真剣に、半分はただの興味である。
生まれてこの方恋愛などしたこともないので、他人の恋愛や告白の話には興味があるのだ。
「普通に好きって言っても伝わらなかった」
「それで無理ならもうどうしようもないんじゃないかな?」
好きって言われて気付かないって、何その状況。
私でさえさっき勘違いしたのに!
「だからさ、協力者が欲しいんだよ」
志村くんは沈痛な面持ちで言う。
確かに、可哀想だ。
長年告白できずに片思いしてたなんてのはよく聞く話だけど、長年告白しても気付かれずに片思いしてたなんて聞いたことない。
彩音、ここは友達が青春出来るように一肌脱ごうじゃないですか!
「いいよ、協力する。じゃあまずはどんな作戦で攻めましょうかねぇ?」
楽しんでる訳じゃあないんですよ?
純粋に救われない同級生に救いの手を差し伸べているだけ。
ホントですよ?
「喫茶店、莉那と行ってもいいんだよね?」
一方の志村くん。
私が協力すると言ったからか、ホッとした表情に変わっている、のだが。
妙なことを言う。
あんな地味な喫茶店、ラブコメとは程遠い世界だと思うのですが。
「売り上げに貢献してくれるなら。でもウチなんかに来てどうするの?」
その問いに、志村くんはそのまま表情を変えずに答えたのだった。
「うん、良ければなんだけどさ。その日だけ、鷲宮さんと例の店長さんにカップルのフリをしてほしいんだ」
………………は?
ここまで読んで下さった方、待っていて下さった方。
ありがとうございました!
たとえ少なくとも、読者の方々のお陰で頑張れます。
さあ、第13話。やっと相談が終わりました。
この後、店長との日常会話を2話ほど挟んで土曜日にいく予定です。予定です。(大事なことなので……。)
ではまた読んで頂けることを願って。
次こそ1週間以内に仕上げようと思います!
ではまた∇'//