ドラゴンごころ
私はドラゴン。だが今は、石になっている。身動きひとつできない。何故石になってしまったかと言うと、1000年前、勇者に負けたからだ。あの頃はいろいろな悪さをした。お姫様をさらったり、街ひとつ吹き飛ばしたり。世界で一番強いのは私だと信じて疑わなかったが、それは間違いだったと、勇者に負け、私は思い知った。以来石になり、1000年の間ずっと、ここに立っている。昔は荒れ果てた大地だったこの辺りも、いつの間にか人が集まり、家が建ち、村になり、今では大きな街になった。その大通りの中心に、私は立っている。悪の限りを尽くしたこの私も、今では何故か街の守り神として、人間に慕われている。1000年前は人間など好きではなかったが、毎日毎日「この街が平和なのは、このドラゴンのおかげだ」と言われると、悪い気はしない。
だが、ひとつだけ、どうしても気に入らないことがある。
「ああ、やっぱりこのドラゴン、かっこいいなぁ」
いつものここにやってきて、目をキラキラさせて私を見る男の子。来てくれるのは嬉しいけど、かっこいいってのは、ちょっと心外。だってあたし、女の子なのに!
そうなの! この街の人間ったら、あたしのことをオスのドラゴンだって、勝手に思ってるのよ! こんなかわいいオスドラゴンがどこにいるってのよ! 失礼しちゃうわ!
なんて思っても、しょうがないよね。人間にドラゴンの性別を見分けろって言うのもムリな話しだし。ま、とっくにあきらめてる。
ん? 足元で、あたしのことをじっと見上げている女の子がいる。知らない子だ。遠くの街から引っ越してきたのかな? あれ? 何? その女の子、あたしの体を登り始めた。ちょっと、危ないよ。だってあたしの体、その女の子の何倍も大きいのに。でもその子、器用にどんどん登って来る。そしてついに、あたしの頭のところまでやってきた。
そしてその女の子、自分の頭につけていたリボンを取り、あたしの頭につけたのだ。
「あ、やっぱり似合う! うん。女の子なんだから、リボンくらいつけた方がいいよね!」
……この子、あたしが女の子だって、わかったんだ。
「おーい! 何やってんだ!」
「あ、お父さん。あのね、このドラゴンさんに、リボンが似合うかなって思って!」
「バカな事言ってないで、危ないから早く下りてきなさい!」
「はーい」
女の子はまた器用にあたしの体を下りていった。リボンは残したまま。
もう。確かにあたしは女の子だけど、この街を守るドラゴンなの。これじゃ、威厳も何もあったもんじゃないわ。
…………。
でもまあ、こういうのもたまには悪くないかな。うん。