カレン・ワトソン *入学式*
実際にある都市名、建物の名前が出てきますが、舞台となる高校、人物名はすべてでたらめです。ワイワイにぎやかく書きたいと思います。よろしくお願いします。
年に一度の家族での海外旅行で利用しているこのロンドン・ヒースロー空港。自宅から両親に送られてターミナル1着いたときの私の感想は、子供のときと変わらず人が多いと思っただけだった。小さい頃はいろんな人が行きかうこの場所で、どんな人がいるのかと人間観察をするのが好きだった。搭乗手続きのために長蛇の列に並び事務作業が一通り終わったのは搭乗時間の10分前だった。
「やっぱりもう少し早く家を出るべきだったわね。」
母が肩をすくめながら腕時計をぱしぱしと叩いた。私が帰宅するのに遅れたりすると母がいつもよくやった癖。
「しかたないよ。近所のみんなが見送ってくれたのめげにはできないでしょ?」
その癖とも今日から少しの間お別れ。9月から私は国外の全寮制の高校に入学する。これから故郷イギリスからドイツのハンブルクに向かって飛び立つのだ。母があれこれ細かくやかましく注意事項を並べ立てているうちにロビーにアナウンスがかかった。
「休みにはちゃんと帰ってきなさいよ。」
「はいはい。わかってるって。」
「カレン。」
今までずっと黙っていた父がようやく口を開いた。
「自分のやりたいことをめいいっぱいやってきなさい。辛くなったらいつでも帰っておいで。」
突然の激励に、不覚にも泣きそうになりながら、私は思い切りよく笑った。
「大丈夫!二人とも心配しないで。これでもかって楽しんでくるから。」
お気に入りのかばんを振りまわし、搭乗口へと足を向けた。最後に振り返って右手をぶんぶんふると、両親も手を振ってこたえてくれた。