プロローグ
この物語を作品中の智樹に捧げます。
※携帯でも読みやすいように本来あるべきでない改行、空行を入れています。
PCユーザーの方は読みにくいかも知れませんが、ご了承ください。
また、各章ごとで一人称・ストーリー進行目線が変わります。
混乱を招くかも知れませんが、ご了承ください。
この章は 朱莉 目線です。
小学5年生のある日、私たちは公園に向かって走っていた。放課後いつもの集合場所で待っていても塔子が来ない。掃除時間にクラスの男子から何か言われてるのを智樹が見かけたらしい。きっとそれが原因に違いない。私たちは急いで学校を後にした。
智樹と智樹のお兄ちゃんの雅弘、そして塔子と私。幼なじみの私たちはいつでも一緒にいた。昔から塔子は嫌なことがあると、公園で泣いていた。
「塔子!」
公園のベンチで塔子を見つけて3人共息を切らせて近づくと、塔子は顔を上げた。
「朱莉……」
塔子の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「塔子どうしたの?!」
塔子は私の腕にしがみついて、何も話そうとしない。
「クラスの奴に何か言われたのか?」
雅弘も塔子の隣に座り、頭を撫でながら慰めた。
「うるさい奴は殴り飛ばせばいいだよ!正拳突きでバシッと」
智樹は得意の空手の型を見せながら元気づけた。
「塔子にそんなこと出来る訳ないでしょ?!代わりに私が倒すから!ね、もう泣かないで」
空手バカの智樹に軽くダメ出しをしながら私は塔子の手を握った。それでも塔子は泣き止まなかった。
「……ねぇ塔子、アイツらに何て言われたの?」
私の塔子の顔を覗き込見ながら尋ねた。塔子は引きつけを抑えながら一生懸命話し始めた。
「……パパとママがいないからっ……バカにされたのっ……。これから大きくなってもっ……お前はずっと……ずっと1人ぼっちなんだって……」
幼いながらに胸がズキンと痛んだ。
塔子は物心ついた時から施設で育った。両親は生きているのかさえわからない。普段は決して口にしないが、寂しい気持ちはきっと積もり積もっているはずだ。私は何も言えなくて、塔子の手を更に強く握り締めた。
「なーんだそんな事か」
智樹はあっけらかんとそう言って塔子の前にしゃがみ込んだ。
「じゃあ4人でずーっと一緒にいればいいだけじゃん!」
笑顔の智樹はそう続けた。
「……そんなの無理だよ。私は施設だし、大人になったらきっとバラバラになるもん……」
いじける塔子を見かねて、私は勢いよく立ち上がった。
「それじゃあさ、塔子が18歳になったら4人で一緒に住もうよ」
「えっ?!」
びっくりしている塔子を余所に、智樹も雅弘もこの提案に賛成した。
「じゃあ、兄ちゃんは頭がいいから会社でも作って生活費を稼いでよ」
「ちょっと待てよ!塔子が18歳なら俺まだ19歳だろ?!大学生じゃん!……まぁいいか、どうにかするよ」
いきなり一家の財政を任された雅弘は、困惑しながらもその役割を引き受けた。
「塔子は料理作ってね。私、塔子が作るシチュー大好き!」
私がそう言うと、まだ半泣きの塔子は首を大きく縦に振った。
「うん、料理なら出来る!みんな一緒なら毎日がんばる」
「俺はもっと強くならなきゃな!塔子も朱莉も兄ちゃんもみんな守ってやれるくらいに」
智樹はニカッと笑い、また突きのマネをする。
「朱莉、お前はどうする?」
「う〜ん……」
雅弘の質問に私は少し考えた。
お金はあるし、家事もやってもらえるし、頼りないけど守ってくれる人もいる。私にやれる事って……なんだろう。
そうだ!
「私はみんなの仕事を手伝う!」
私は自信満々に答えた。
「塔子の料理を手伝って、雅弘の仕事も一緒にやる!智樹は頼りないからあたしがみんなを守ったげる!」
私の答えが予想外だったらしく、3人は同時に吹き出して笑った。
「朱莉、手伝いってなんだよ!それに俺がお前に守られるとかありえないし!」
「なによ?私は真面目に言ってるのに!もう、塔子まで笑わないでよ」
口ではそう言ったけど、塔子が笑ってくれて嬉しかった。
私は早く18歳になりたいと思うようになった。
3年後―
智樹は塔子に告白をした。塔子も昔から智樹の事が好きだった。でも、塔子は付き合う事を躊躇した。4人のバランスが崩れてしまうの恐れていた。
翌日、塔子は私ににこのことを相談しに来た。 私は話を全部聞き終えてから口を開いた。
「塔子は智樹の事が好きなんでしょ?」
「うん……好き」
「じゃあ悩むことなんてないじゃない。アイツほど塔子を想ってる男はきっといないよ?」
「…うん」
塔子もその事は十分に感じていた。
「塔子、実はね……私と雅弘も付き合ってるんだ。」
「うそっ?!いつから?!」
私のカミングアウトに塔子は大きな瞳を更に大きく見開いた。
「1ヵ月くらい前からかな。黙っててごめん!」
私は顔の前で手を合わせた。
「だからって訳じゃないけど、塔子が智樹を好きなら遠慮なんかしないで付き合ってよ。塔子には幸せになって欲しい」
私は塔子に微笑んだ。
「智樹のトコに行って来るね!」
塔子はバッグを持って智樹の元に走って行った。私はそんな塔子の背中を満面の笑みで見送った。
この先、何があってもずっと4人でいられるって思ってた。未来はもっと幸せだって。私も他の3人もきっと、疑う事を知らなかったんだね。