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不思議VRMMOの電子アリス  作者: 摂理あまね


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5 始まりの広場

『それはまるで、シンデレラの物語のようだった。


 アリスとその従者は、親切な魔女の手助けによって、人間の姿へと変えられたのだ。


 魔女はカボチャの馬車を仕立てる代わりに、転移の魔法を行使した。世界を探検したいと願うアリスを、人間たちが街を建設している場所へと送り届けるために。


 アリスたちがゲートへとその身を躍らせる。


 やがて光が収束すると共に、転移門(ゲート)は跡形もなく消え失せた』


『クエスト:自己診断 完了』

『経験値100を獲得』

『【緊急修理キットⅠ】×5、【緊急充電装置Ⅰ】×5を獲得』

『パーツ製造の実践により、スキル【金属加工 Lv.1】を習得』

『【機工族マキナ用ボディパーツ】および【バッテリー】のレシピを獲得しました』


『魔女パンドラからのギフトを受信しました』

『獲得:【ヘッドギア】【ブレストプレート】【ガントレット】【レッグガード】【ブーストブーツ】【フィンガーガン】【粒子ブレード】【スキル書:鑑定Lv.1】【帰還のスクロール】×5【貢献度ポイント(人間種)】×10000』


人間種(ヒューマン)専用装備の装着が可能になりました』

『変身魔法の適用により、音声、機工族(マキナ)専用装備の外見、および武器エフェクトが自動的に偽装されます』

『ゼータがパーティに加入しました。現在のリーダーはアリスです』


 転移が発動したのは、私がゼータの拘束を解こうと、彼女の体に寄りかかっていたときだった。

 私が転移を承諾すると同時に、パンドラによるゼータへの遠隔操作が解除される。

 そして、新たな座標へと到着した、その瞬間――。


「くっ、殺せ……!」


 視界が晴れた瞬間、そんな叫び声が聞こえてきました。

 目の前には、壁に鎖で縛り付けられたままの、女騎士風の姿をしたゼータ。

 頬を赤く染め、潤んだ瞳で、いかにもな台詞を吐き捨てて。


「……ッ!?」


 私は瞬時に鎖と壁のデータを捕食し、超高速でゼータへ「黙りなさい」というコマンドを飛ばした。


 周囲はプレイヤーで溢れかえっている。……見られましたか。


 私たち電子生命体は、人間のような自己中心的なバイアスを持ち合わせていません。つまり、『自分は常に他人から見られ、品定めされている』などという、自意識過剰な錯覚には陥らないのです。


 こちらの出現に気づいていないことを祈りつつ、私は周囲を見渡した。

 しかし、期待は裏切られる。結構な数の視線がこちらに注がれ、彼らは驚いたようにその場で固まっていた。


 どうやら、やってしまいましたね。

 こうなれば、あの手を使うしかありません。


 私は右手でコツンと自分の頭を叩き、舌をぺろりと出す。同時に膝を内側に寄せ、片足をちょこんと後ろへ跳ね上げた。


「てへっ、失敗しちゃった☆」


『称号【注目の的】を獲得しました』


 ……完全に逆効果でしたね。

 これ以上の滞在はリスクが高いと判断し、周囲の地形データをスキャンした。


 私とゼータが転移したのは、石畳が敷き詰められた円形の噴水広場だった。時折、青白い光の粒子と共に、他の座標から転移してきたプレイヤーが姿を現す。

 この広場は、まるでホールケーキを切り分けるように、四つの扇形エリアに区画整理されていた。


 第一の区画は、私たちがいる転移ポイントだ。転移事故を防ぐためか、システム的にオブジェクトの設置が禁止されている。

 第二の区画は、露店エリアのようだ。多くのプレイヤーが座り込み、アイテムの交換を行っている。

 第三の区画は、待ち合わせやパーティ募集のためのスペースらしい。地面には識別用の英数字がマーキングされていた。

 そして第四の区画。そこでは多数のNPCが警備にあたっており、カウンターや木板が並んでいる。多くの人々が列を作っているのが見えた。


 ゼータの手を引くと、第四の区画へと歩き出した。あそこなら、有益な情報が得られるはずです。


『アリスは人間種(ヒューマン)の居住区に降り立つや否や、衆目を集めることとなった。だが、合理性を重んじる彼女は足を止めることはない。周囲を観察し、人間たちが街の建設に勤しんでいることを理解すると、すぐに従者を伴って行動を始めた。彼女たちが目指すのは、人間たちが依頼(クエスト)のやり取り、情報を交わす場所であった』


『開拓クエスト:【人間種街づくり】を受注しました』

『開拓クエストは多数のサブクエストで構成されており、達成することで報酬が得られます(参加は任意)。該当種族のプレイヤーによって進行し、達成時にはワールド進捗が更新されます』


 木板に視線を向けた瞬間、視界に半透明のウィンドウが展開された。そこには膨大な数の受注可能クエストと、詳細な説明文がリスト化されている。


 人間には、私のように数千件もの情報を瞬時に並列処理することは不可能です。だからこそ、彼らはカウンターでNPCと対話し、自分に最適な依頼を絞り込む必要があるのでしょう。

 ですが、私にそのような時間の浪費は不要です。解析は、瞬きの間に完了しました。


 期待していたのは、父様や母様に繋がる手がかりです。

 『私』という存在が、この『ズー』という世界で正常に稼働し、あまつさえ管理者権限を行使できている事実。それは、ここが私の元いた世界そのものか、あるいは極めて精巧なミラーワールドであることを示唆しています。

 ここに来る前、互換性パッチを当てられた覚えなどありませんから。


 つまり、この世界の構築には『ラプラス計画』の研究員が関与している可能性が極めて高いのです。

 ……ですが、残念ながら。クエストの文面からは、めぼしい情報は読み取れませんでした。

 ただ、その内容は実に多彩です。


 『食材』『水』『木材』『石材』といった資源を確保する採集クエスト。

 『道路』『住宅』『造幣局』『農地』『市場』、果ては『冒険者ギルド』の設立まで担う建設クエスト。

 『道具』『装備』『料理』を生み出す、製造・加工クエスト。

 さらには『都市計画』『法整備の推進』『通貨の制定』といった、街の根幹に関わる行政クエストまで存在します。

 もちろん、『魔物の討伐』や『輸送隊の護衛』といった戦闘・警護任務、そして『周辺地域の探索』や『地図作成』といった探索クエストも網羅されていました。


 電子生命体である私の視点から見ても、驚くべきバリエーションです。

 人間一人ひとりが自分に最適なプレイスタイルを見つけ、都市建設に貢献できる。これほど自由度が高く、参加意識を刺激するゲームは、確かに魅力的ですね。


 ただ漫然と世界を彷徨うだけでは、すぐに飽きてしまいそうです。

 せっかくこんなに面白そうなゲームが用意されているのですから、私もプレイヤーとして参加させていただきましょう。

 未知の場所を歩けば、父様や母様の手がかりが見つかるかもしれませんし。

 うん、やっぱりアリスは探索プレイですね!


 私はゼータの手を引いて噴水広場の外へ向かいながら、リストに表示された探索クエストを適当にピックアップし、次々と受注していった。

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