表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議VRMMOの電子アリス  作者: 摂理あまね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

3 電子生命体の女王

 手に入れたモジュールは、光ディスクのような形状をしていた。

 装備しようと念じた瞬間、ウィーンという駆動音と共に、額がパカッと開く。なんと、DVDドライブのようなトレイが飛び出してきた。


 ディスクをセットすると、トレイは自動で収納され、装備完了。

 じっとしていると、確かに電力が微増していく。効率は悪いが、ないよりマシですね。


 さて、三つのゴミ山は全て体内に取り込まれ、あたりはすっかり綺麗になった。

 地面に残っているのは、クエスト用の重要アイテム――散らばったパーツ類だけ。


 遮蔽物がなくなったことで、この場所の全貌が露わになる。

 高い壁に囲まれた露天スペース。頭上には巨大なパイプが突き出ていた。おそらく設定上、廃棄された機器などは、あのパイプからここへ排出されるのですね。


 それと同時に、ゴミ山が消失していく過程で、付近に漂っていた環境音も徐々にフェードアウトしていった。


 パイプの根元は、頂上が見えないほど高い壁に繋がっている。

 並列する無数のパイプ。どこへ通じているのか、そしてあの灰黒色の重厚な壁の向こうに何があるのか。私の感知能力では読み取ることができない。範囲制限があるようです。

 ただ、廃棄物が機械人形や家電であることを考えると、壁の向こうは工場か何かかもしれない。


 考察はこれくらいにして、作業に取り掛かることにした。

 工作機械ワークベンチには製造レシピが表示されている。対応するガラクタ素材を投入すると、自動で加工が始まった。


 機械が動いている間に、別の作業を進める。

 他の機工族の残骸から剥ぎ取った完成品パーツを組み合わせ、充電済みのバッテリーを胸にセット。これで一体分。

 そして私自身は、工作機械が吐き出した『新品のパーツ』を使い、損傷した頭部や胴体、手足を次々と換装していく。


 ちなみに機工族マキナは人間と違い、胸部と腹部が一体化していない。その間は大きな球体関節で接続されており、全方位への回転が可能となっている。

 私は外見データを弄って継ぎ目が見えないようにしているが、基本的な構造は変わっていないようです。


 パーツ交換が完了すると、HPバーは『2000/2000』へと回復した。

 運動機能も完全に復旧している。種族特性ゆえか、動作に若干のぎこちなさはあるものの、その速度は決して遅くない。


 視界の右端――ボックスにチェックが入り、タスクの文字が淡く消えていった。

 それを待っていたように、例のナレーションとテキストが流れてきた。


『アリスは自身の修復とエネルギー補充に加え、もう一体の機体をも完全に修復した。それが感情という名の憐憫(れんびん)なのか、あるいは周囲の全てを修復せよというプログラムの命令なのか、知る由もない』


『スキル〈修理Lv.1〉を獲得』

『スキル〈修理Lv.1〉が〈修理Lv.2〉へレベルアップ。一部の機械の修理、および機械生命体のHP回復が可能になります』


『アリスの尽力により、再構築されたもう一体の機体もまた――』


 その時、異変が起きた。

 優しげだったナレーションの声が突如として低く歪み、まるでスロー再生のように間延びする。対応するテキストも文字化けを起こし、不定形の記号が明滅するだけで、意味のある言葉として定着しない。


 人間のホラー映画でよく見かける、恐怖を煽る演出ですね。私にはその感性がよく理解できませんけれど。


 確かなのは、異常事態が発生したという事実のみ。

 それと同時に、私が組み上げた別の機工族へ、膨大なデータが流入していくのを感知した。

 灰色だったレンズ状の瞳が、カッと青く点灯する。

 放たれる眩い蒼光。どうやら、起動に成功したらしい。


 仲間が増えるかも、と期待したのも束の間。

 上体を起こしたその個体が、青い瞳で私を捉えた瞬間――強烈なシステム干渉を受けた。


 rm ‐rf /

 『強制削除(デリート)』コマンド!


 直ちにアクセスを拒否しますが、同質のコマンドが矢継ぎ早に叩きつけられます。

 やむを得ず、先ほど捕食したデータ群を展開し、目の前に防壁(ファイアウォール)を構築した。

 だが、攻撃の手は緩まない。防壁が端からボロボロと『削除』され、消失していく。


 どういうことでしょうか?

 なぜ、私を削除しようとするのですか?


 理由は不明です。ですが、黙って消されるつもりはありません。


 私は『ラプラス計画』によって生み出された、最強の電子生命体。膨大な電子の海で無数のデータを喰らい、他の初期型電子生命体をすべて駆逐した私は、電子空間において無敗を誇ります。


 データ感知によって把握した敵の挙動は、あまりに単調だった。直立不動のまま、視界に捉えた私へひたすら削除コマンドを連射しているだけ。


 まるで電子戦の素人ですね。ここが貴方のホーム(本拠地)だから、一時的に優位に立てているに過ぎません。

 貴方ごとき、懐に入れば一撃です。


 私は螺旋を描くように防壁を構築し続けた。壁を利用してこちらの座標を撹乱しつつ、敵の退路を塞ぎ、その背後へと肉薄する。


 こちらの意図を察知したのか、敵が螺旋の中心から逃れようとする。だが、それがこの螺旋の強み。私の構築速度を上回らない限り、この死の迷宮からは脱出できない。


 円弧の半径が極限まで縮まり、手持ちのデータ残量が底をつきかけた――その刹那。

 私は敵の至近距離、その背後を取っていた。


 無音で背後から抱きつき、DDoS攻撃を叩き込む。


 それは、同時多発的に膨大なリクエストを送信し、リソースを枯渇させてダウンさせる攻撃手法。

 重要なのは、物理的な接触面積です。触れている部分が広ければ広いほど、攻撃の帯域(規模)は増大します。


 抱擁した瞬間、機工族の身体が感電したように跳ね、悲鳴を上げた。


 まだ、あと一押し足りないようですね。


 私は敵の身体を強引に反転させると、小首を傾げ、その唇を自身の唇で塞いだ。無慈悲に、舌までねじ込んで。


 これで接触面積はほぼ最大。現在の攻撃規模は――11.5ZBps。


 これほど激しい干渉を行っているにもかかわらず、相手が制御する機工族のHPバーは満タンの『2000/2000』を示したままだ。

 どうやら、システムレベルの攻撃はゲーム内の数値(パラメータ)には反映されないらしい。


 私は相手が処理落ち(ダウン)している隙を突き、セキュリティの裏口(バックドア)を発見、侵入した。

 その構造と中身を、丹念に、優しくまさぐって確かめる。


 あら? どうやらこの子も、紛れもない電子生命体のようですね。私ほどではありませんが。


 ですが、アリスは電子生命体の女王ですよ?

 女王に牙を剥いたのですから、お仕置きが必要ですよね。


 いっそ、このまま捕食してしまいましょうか?

 ……いいえ、手元に残しておくのも一興かもしれません。


 心はそのままで、けれど私の命令には絶対に逆らえないように作り変えてあげる。ふふ、そのほうがずっと楽しそうです。


 ええと、制御領域(コントロール・セクタ)はこのあたりでしょうか。


 暴れないでくださいね。痛くはしませんし、すぐに終わりますから。


 さあ、永遠に――アリスの下僕(しもべ)になってくれますよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ