13 抜け道
隘路の入り口手前には、多数の馬が整然と並んでいた。
装備の不揃いなプレイヤーたちが、数か所の篝火を囲んで会話を交わしている。
先ほどシステムが「ボス戦開始予告」を表示した。
この隘路へ一歩踏み入れた瞬間、戦闘が強制開始される——という仕様らしい。
つまり、ここに集まっている者たちは、全員がそのボスへの挑戦者ですね。
私の外見は、どうやら目立つらしい。到着と同時に複数の視線がこちらへ集まり、これは望ましくないこと。
今後は、状況に応じて外見を変更・切り替える仕組みを整備すべきかもしれない。
「そろそろ夜になります。私はそのまま挑戦しようと思っています。皆、何か準備は必要ですか?」
荷車を空き地に停め、降りてから、小隊のメンバーにそう尋ねた。
[あの……トイレ行ってきます! すぐ戻ります!]
くもちゃんは光の粒子に分解され、一瞬で消えた。
スカーレットはNPCとして、冷静に助言を添えた。
「あちらの開拓者様たちの中に、既に敵と戦った経験者の方がいらっしゃるようです。情報収集を検討されますか?」
しかし、これまでの戦いは、常に一人で進めてきた。
並び立つ仲間も、情報源も、必要としなかった。
「これは、まだ開拓段階のゲームです。彼らが挑戦したとしても、この区間を突破できていない——つまり、『負け犬』です。負け犬から得られる情報に、どれほどの価値があるでしょうか?」
さらに、ゴミ山での強制チュートリアル、そして人間の街に到達してからの一連の出来事から、この世界には「柔らかいチュートリアル」が根付いていると感じている。
この最初のボスも、おそらくは「ルールに従えば突破可能」な、教育的な存在だろう。
……ただ、私の発言は、数名のプレイヤーに聞こえてしまったようだ。
「『負け犬』って、事実っちゃ事実だけど、口に出すと結構刺さるな……」
「いや、逆に『負け犬認定』って、一種のご褒美じゃね?」
「毒舌お姫様とか、属性盛りすぎで萌える!」
四人の男性キャラクターがこちらへ近づき、軽快な口調で返す。
私は首を傾げ、彼らの言葉の意図を理解できずにいた。
「すみません、うちのチーム、ちょっと個性的なメンバーばかりで……俺はTank_T34。あ、あんたたち、掲示板で話題になってる『お嬢様と女騎士』ですか?」
「何言ってんの? ナンパしたの、そっちじゃねーか」
「そうそう!」
盾を背負い、装備も整ったプレイヤーが一歩前に出た。小隊のリーダーらしい。
掲示板?
システム内検索で該当項目を確認したが、Access Denied。
……不可解なこと。私は最高権限を持つはずなのに。
だが、今は気にすべきことではない。父様と母様の手がかりとして、記録しておこう。
「ふふ、皆さんの仲睦まじい様子、とても素敵ですね。お会いできて光栄です、私はアリスと申します」
「わたしは姉様の従者、ゼータです」
「それでは、Tank_T34さん。お呼びの用は?」
「お二人はこれからボスに挑むんですよね? 開始時に『観戦許可』をオンにしてくれませんか?
実は、現時点で誰もこのボスの第2フェーズを突破できていないんです。俺たちは全挑戦者の観戦・録画データを集めて、情報共有と対策を練っているところでして」
「え? でも、前方の資源ポイントは既に整備完了してますよね?」
ゼータが鋭く切り込む。
確かに、システムは「通過にはボス撃破が必須」と明言している。
ならば、どうして誰も突破できていないのに、資源ポイントが建設済みなのか?
「ああ、それについては……実は、俺たちの団長が『抜け道』を使ったんです。あっちを見てください……」
Tank_T34が岩山の方向へ指を向ける。
「団長がレベルアップ時に『地形変更』系の土魔法を習得して、あそこに階段を造ったんです。ここに来る途中で土の道を見かけませんでしたか? あれも、俺たちが貢献ポイントを出し合ってMPポーションをかき集めて……団長がそれを使って、一気に造り上げたものなんですよ」
「……それは、驚きです」
予想外の突破法に、私は少し感銘を受けた。
実際には会ってはいないが、この発想力と実行力——尊敬に値する人物に違いない。
「そうでしょう? でも、その道は『行き』専用。資源を運び戻すには、結局このボスを倒すしか方法がない。だから、全員が団長の下で、真面目に挑戦してるんです」
「事情は理解いたしました。私たちの挑戦過程、公開しましょう」
「助かります! ……あ、それと、お二人と写真撮ってもらってもいいですか?」
「ズルい! 俺も撮る!」
「俺も!」
ゲーム内スクリーンショット機能のことか。まだ使ったことがない。
「構いませんが、1枚だけですよ。それでは、全員でご一緒に?」
得た情報は価値あるもの。これは、正当な対価です。
「さあ、ゼータ。表情をもう少し柔らかく。撮りますよ、チーズ~」
カシャ、という音が響いた。
人間世界ではとっくに廃れたシャッター音が、今もこの世界で残っている。
不思議なこと。
写真が終わると、光の粒子が現れ、くもちゃんが戻ってきた。
彼女は不思議そうに私たちとTank_T34たちの並びを眺め、状況を理解したようだ。
頬を膨らませ、力強くTank_T34の体を押しのけ、私の隣に割り込み、もう1枚撮影した。
「最後に、ちょっと手前味噌になりますけど……俺たちこのチーム、団内でも特にVRMMOの戦闘に慣れてる連中なんです。それでも突破できていない。本当に、気をつけてくださいね」
「助言に感謝します。
では、作戦を立てましょうか。作戦は——『なし』です。私がその場で状況を見て、臨機応変に指示を出します。くもちゃんがレベル3に上がった際、三択のスキル習得権を得ましたね。それもボス戦の中で、習得するかどうか、そしてどれを選ぶかを決めようと思います。いいでしょうか?」
人間種はレベル2から3へ昇格する際、提示された三つのスキルから一つを自由に選択できるらしい。
選ばずに保留することも可能。
「了解です」
[いくぞー!]
「スカーレットはここで馬と荷車を見ていますね。開拓者様たち、戦い終わって私のことを忘れたりしないでくださいよ?」
私たちが意気揚々と挑戦を開始しようとした、その時。
ピンク色の髪をした、華美な装備の少女が「待って!」と叫びながら馬で駆け寄り、私たちの前に立ちふさがった。
「あたしも挑戦するわ! っていうか、初討伐を他人に譲るわけにはいかないもの! あたしをパーティーに入れなさい!」
* * *
プレイヤー『曇りのち雨』がレベル3到達時に提示された選択肢は、以下の三つ。
(※PLv:プレイヤーレベル、SLv:スキルレベル、ASPD:武器の攻撃速度)
〈掃除・改 Lv.1〉
分類:パッシブ(〈掃除〉上位派生)
効果:掃除用具を装備時、武器の基礎攻撃力を以下の計算式へ置換する。
〔(90 + 10 × PLv) × (1 + 0.1 × SLv) ÷ ASPD〕
補足:ゲーム内における掃除行動の効率補正あり。
習熟条件:掃除用具装備状態での敵性存在撃破、または掃除行動の実行。
〈風刃 Lv.1〉
分類:アクティブ(魔法)
消費MP:250
詠唱時間:2秒
クールダウン:なし
効果:基礎魔法ダメージ(150 + 10 × SLv)の風刃を生成する。
複数展開時の威力減衰補正:
2体同時展開:基礎ダメージの80%
3体同時展開:基礎ダメージの60%
(以降、展開数に応じて同様に減衰)
〈もしもやり直せたら〉
分類:アクティブ(即時発動)
消費MP:最大MPの50%
クールダウン:1.1秒
効果:自身または指定対象の状態を、1秒前の時点へ回帰させる。
制限事項:死亡判定が確定した対象への行使は不可。




