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不思議VRMMOの電子アリス  作者: 摂理あまね


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12 戦闘訓練

 休憩を終え、私たちは再び荷車に揺られて北への道を進み始めた。


 さきほど大樹の下で一息ついたのが正午頃。太陽の運行速度から計算すると、あと一時間強で日没を迎えるようです。現実時間と比較して、明らかに経過が早いですね。


 そこで土地の者に尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきました。


「開拓者様たちが暮らす世界の一日は、こちらでは三昼夜に相当するんですよ」


「では間もなく夜になりますが、寝具の持ち合わせがありません。問題ないでしょうか?」


「あ、その点はご心配なく! ボクたちは三昼夜のうち、一晩休めば十分ですので!」


「そうでしたか。では、くもちゃんは? いつ頃お休みになりますか?」


 なぜか先ほどから私の片腕を抱きしめ、ぴったりと密着している少女は、声ではなくテキストチャットで応答しました。


 頭上に吹き出しが出ているのでしょうけれど、この体勢で確認しようと首を回せば、人体構造の限界を超えて機工族(マキナ)バレする恐れがあります。


 幸い、視界の左端にもログが表示される仕様です。

 加えて、くもちゃんとゼータのステータスも、同じく画面左側に常時表示されるよう設定済み。これなら、二人のHPをいつでもモニタリング可能です。


[さっきリアル飯済ませた! 今日は徹夜でいくよー!]


 やはり。人間という生物は、興味深いゲームを前にすると休息を放棄する傾向があります。こういう日は、休まないことこそが正解なのでしょう。


「ゼータは?」


 聞くまでもないことですが。電子生命体である私たちに睡眠は不要。でも、他者の手前、普通の人間プレイヤーを演じる必要があります。


「プレイヤーの使用するポッドにはバイタルモニタリング機能がありますから。過度な疲労が検出されて、ログアウトしないまま強制睡眠プログラムが走るまでは、このまま遊び倒します」


「では、私もそうしましょう」


 手を挙げて同意を示します。


「それなら、先を急ぐ必要もありませんね?」


 付近のスライムの生息数はかなりのもの。この機に乗じて、さらに130体ほど討伐を続ければ、大量の経験値を獲得して効率よくレベルアップできるはず。ですが、スカーレットの言葉でその考えを改めました。


「いえ、開拓者様のご予定に口を挟むつもりはございませんが、夜間は視界が悪く、移動にも狩りにも不向きかと存じます」


[たしかに]


 私はデータ読み取りで座標を特定できるので、視覚情報に依存しませんが、一般的なプレイヤーには不可能ですからね。


 道中の景色は、泥地から岩場へと遷移し、盛り土で舗装されていた道そのものも途切れました。周囲の植生もまばらになっています。

 幸い、地面から突き出した大岩を除けば、岩肌は平坦。道がなくとも荷車の進行に支障はありません。

 こういう場所なら、魔物が身を隠す死角も少ないでしょう。


「ではゼータ。魔物との接触は極力避け、最短で目的地へ向かいましょう」


「承知いたしました、お姉さま」


「くもちゃんも、ぼーっとしていては駄目ですよ。戦闘に不慣れなようですし、荷車の上で特訓です。ついでにレベル上げも行いましょう」


[うん!]


 付近の岩の隙間から、枯草のようなものが顔を覗かせました。一見すると植物ですが、その正体は擬態して潜んでいる魔物。


 私は長弓を手に取ると、くもちゃんに握り方を教え、その手を上から添えるようにして固定します。そのまま彼女の手を引き、枯草の塊へと狙いを定めました。


 矢を番え、三指で弦を引き絞る。荷車の速度から逆算して射角を微調整し、放つ。


 放たれた矢は鋭く空を切り、静止した標的を正確に射抜きました。ですが、矢は黄色い植物繊維をそのまま通り抜けてしまいます。


[すごーい!]


 一撃で霧散したスライムとは勝手が違うようです。矢を受けた枯草のHPバーは、八分の一ほど減少したに留まりました。


 攻撃を受けた枯草は岩の隙間から飛び出すと、球状に身を丸め、こちらへ向かって転がってきます。表面は鋭い棘に覆われ、内部は中空。普段は植物に擬態し、獲物を見つけると回転しながら棘で襲いかかる習性の魔物なのでしょう。


 どうやら、物理攻撃には適性の概念が存在するようです。くもちゃんが杖でスライムを叩いた際、ダメージ効率が異常に低かった。個体差はありますが、スライムのHPを100と仮定した場合、彼女の一撃は杖のDPSの四分の一程度しか発揮できていませんでした。つまり、スライムは打撃系の物理攻撃に耐性がある。


 対して、あのタンブルウィードのような植物型の魔物は、刺突系の物理攻撃を受け流す性質があるのでしょう。だから弓矢の手応えが薄い。


 手数で押し切ることも可能ですが、非効率な振る舞いは好みません。今は教育の最中。誤った知識を植え付け、先入観を持たせてしまうのは避けるべきです。私はくもちゃんに弓を置かせました。


 刺だらけの植物である以上、弱点は火、あるいは斬撃系の物理攻撃と推測されます。火は荷車に引火する恐れがあり、準備にも時間がかかる。ゼータから鉄剣を借り、引き付けてから斬り伏せるのが妥当でしょうか。


 対処法を検討していた、その時。魔物の回転が急加速し、小さな斜面を跳躍台にして、空中からこちらへ向かって躍りかかってきました。


 剣を借りる余裕はありません。私はくもちゃんを背後に庇い、ナイフに偽装した粒子ブレードを抜き放って迎撃の構えを取ります。


 ところが、魔物は空中で軌道を変化させた。私ではなく、背後のくもちゃんを執拗に狙って。


 すかさず身を翻したが、魔物は既に彼女の顔面へと接触していた。

 間髪入れずナイフを一閃。一撃でそのHPを削りきった。


『トゲクサを撃破。経験値80を獲得』


「大丈夫ですか、くもりん!」


 スカーレットが慌てて立ち上がろうとしますが、荷車の揺れに足を取られ、再び尻餅をつきます。


 当の本人を見れば、頭の周りから紫色の泡が絶え間なく浮かび上がっていました。画面左側に表示されている彼女のステータスアイコンも、毒々しい紫色に染まっています。


 あの泡は、彼女が自主的に発しているチャットバブルではありません。棘に刺され、毒状態に陥ったがゆえのエフェクトです。


 幸い、解毒ポーションの持ち合わせがあった。紫色のタグが貼られた木瓶を取り出し、彼女に飲み干させる。体から湧き出ていた泡が消え、左側のアイコンも正常な色へと戻った。


[さっき視界が変な感じだった……]


 バッドステータスの視覚効果が派手なのは結構ですが……スライム戦では粘液まみれになり、今回は毒。彼女は状態異常を引き寄せる体質なのでしょうか。


 そうであるなら、この手の魔物には手を出さない方が賢明かもしれません。解毒薬の予備もありませんし。そう判断しつつも、私は鑑定スキルを発動。トゲクサが落とした棘のようなドロップアイテムを解析します。


【トゲクサの棘】:毒液を内包する棘。取り扱い注意。毒矢や毒鞭の素材として利用される。


 『毒鞭』という響き。それが私の琴線に触れました。


「ゼータ、貴女の鉄剣を貸してください。それから、あの植物魔物が潜んでいそうな岩の隙間に、できるだけ寄せて。狩ります」


 荷車は止めず、進行速度を維持したまま、手の届く範囲のトゲクサだけを斬り捨てる。


『トゲクサ×4を撃破。経験値320を獲得』

『曇りのち雨のレベルが3に上昇しました』


 上々です。毒棘の素材も集まり、くもちゃんは剣術スキルを習得しました。もっとも、彼女一人ではまともに振れず、実質私が操って倒したようなものですが。


 左右の岩場が徐々に隆起し、やがて切り立った絶壁へと変貌を遂げた。

 広かった行路は狭まり、私たちはまるで二等辺三角形の底辺から、その鋭角な頂点へ向かって進んでいるかのよう。

 その間を縫う隘路の向こうから、夕陽が差し込んでくる。人間が見れば、禿げ上がった岩肌と相まって、寂寥感や殺伐とした気配を感じ取る光景かもしれない。


 前方には、相当数のプレイヤーが集まっているようです。


 その時、例の優しげな女性の声と共に、視界へ久方ぶりの『テキスト』が浮かび上がった。


『アリスと仲間たちは建設中の街を離れ、茨の道を切り開いて岩山の隘路へと辿り着きました。ここを通り抜けるには、前方に待ち構える強大な魔物を打ち倒さねばならないようです』


『警告:これよりボス戦を開始します。十分な準備を整えてから前進してください』

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