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不思議VRMMOの電子アリス  作者: 摂理あまね


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8 旅支度

『パンドラがチームボイスに参加しました』


「えーっと、マイクテスト、マイクテスト~。パンドラです。聞こえてますか~?もしもし?」


 ……パンドラ、こんなに騒がしかったっけ?

 でも、無視すると、この調子でずっと続けてしまいそう。


「聞こえてるよ」


 適当に返す。


「あっ、アリスさん、チャットチャンネルをチームチャンネルに切り替えてくださいね。そうすれば、あなたの声は他の人には聞こえなくなります。さっきちょっと、とあるやつと揉めてしまって、こちらの状況を確認できていませんでした。本当に申し訳ありません。この子、ゼータが失礼な振る舞いをしてしまいました。


 ゼータ、何度言ったらわかるの? みんなと仲良くしなさいって、耳にタコができるくらい言ってるでしょ!」


『アリスがチームボイスに参加しました』

『ゼータがチームボイスに参加しました』


「でも、お姉さま……」


「でもはなし。さっさとアリスさんに謝りなさい」


「ご、ごめんなさい……」


「ゼータがお手数をおかけしました、アリスさん。どうか、お許しくださいませんか?」


「気にしませんよ。ただ、何の罰もなしでは、少し不十分かもしれませんね。


 『お姉さま』……ですか? ふふ、それなら、ゼータ。今後はその呼び方で私を呼んでください。さあ、今すぐ一声、言ってみせて?」


「お……お姉さま……」


 はにかんだ様子でそう呼ばれると、なんだか、くすぐったい気持ちになるのでした。


「寛大なご対応、ありがとうございます。


 それから、自爆スキルなんですけど、他のプレイヤーさんの前では、ちょっと控えてほしいなって……。システム上は隠れても、やっぱりその行動って、理由がつけにくいというか、周りから見たらちょっとびっくりしちゃうかもで……。本当に、ごめんなさいね!」


「つまり、周囲に他プレイヤーがいない、あるいはNPCのみの状況であれば、使用してもよい、ということですね?」


「そうそう、その通りです!


 あ、それから、先ほどお渡しした貢献度ポイントのことなんですけど、仮設兵舎の補給官さんのところで物品と交換できますからね! このポイント、たぶんすぐ価値が下がっちゃうから、今のうちに全部使い切っちゃうのがおすすめです~!


 どうやら最初の世界イベント、もう避けられないみたいで! 私、急いで準備してきますね! 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします、アリスさん~! ばいにゃ~!」


『パンドラがチームボイスを退出しました』


 本当に、忙しそうな子ね。


 軽く体を伸ばし、戦闘システムの基本を把握したところで、私はチームを連れて訓練場を出た。

 試しに訓練場で借りた鞭をそのまま持ち出せないかと手に取ってみたけれど、出口をくぐる瞬間、やはり消えてしまった。


 パンドラのアドバイスに従い、ゼータと二人で広場の傍、NPCの兵士たちが集まるような場所へ向かう。

 そこには、物品の交換を担当する補給官がいる——と、聞かされていた。


 革の装備に身を固め、武器を携えた兵士風のNPCたちが整然と巡回している様子は、まさに軍営そのもの。


 キャンプ全体は白と茶色を基調としていて、ぬかるんだ地面の上に直接設営されているみたい。

 テントの素材は縫い合わされた革や獣の骨、太い枝で組み立てられた簡素な構造。

 ただ、その中でひときわ目立つ大きな白いテントが一つだけあって、周りは厳重に警備されている。他のものより明らかに格式が高い。


 私たちはその一番大きなテントではなく、その脇に設けられた物資の集積所のような場所へと足を進めた。


 そこは開放式で、太い梁と柱が支える革製の屋根は風を防げないが、日焼けや雨濡れは避けられる。


 地面には泥で少し汚れた白い布が敷かれ、その上に木や石でできた武器や道具が並んでいた。

 斧に鍬、ハンマーやつるはし……。

 赤、青、黄、紫の染料で色分けされた木製の密封容器、葉で包まれた束など、多種多様な物資が、整然と積まれている。


 その様子を眺めていると、棕髪で、どういうわけか金属の護額と赤いマントを身につけた兵士さんがこちらへ近づいてきた。


「お美しいお嬢様たち、こんにちは。街の建設にご協力いただき、誠にありがとうございます。私はハロルド、この場所の補給官です。貢献度ポイントでお品物と交換なさいますか?」


「はい。こちらでは、どんな物資と交換できるのでしょうか?」


「承知いたしました。ただいま、ご案内いたします」


 交換を了承した瞬間、目の前に半透明のウィンドウが二つ現れる。上段にはアイコンが並び、下段は空欄。

 左のウィンドウを適当にタップしてみると、【緊急修理キットⅠ】×5、売却不可——と表示された。どうやら、左側が私の所持品みたいです。


 右側は、補給官さんから購入できるアイテムの一覧。

 武器や道具に加えて、さっき見た木製の密封容器は、どうやらポーションのようだった。


【低級ライフポーション】 250貢献度ポイント

【低級マナポーション】 250貢献度ポイント

【麻痺解除薬】 200貢献度ポイント

【解毒薬】 200貢献度ポイント

【携帯保存食】 50貢献度ポイント

【水袋(充填済み)】 200貢献度ポイント

【補水】 10貢献度ポイント

【薪(一束)】 50貢献度ポイント

【火打ち石セット】 100貢献度ポイント

【荷車】 3,000貢献度ポイント

【馬のレンタル(一日)】 1,500貢献度ポイント


 そのとき、インベントリの中にあった【スキル書:鑑定Lv.1】が「使用可能」になっていることに気づき、それを使用してみた。

 すると、書物のアイコンはふっと消失し、代わりにスキルの習得を告げるログが流れる。


『スキル〈鑑定Lv.1〉を習得しました』


 もう一度【低級ライフポーション】をクリックすると、表示がより詳しくなっていた。

「飲むとHPを1,000回復する」

 同じように【低級マナポーション】も、「飲むとMPを1,000回復する」と書かれている。


「ハロルドさん、他の開拓者の方々は、ここでの交換で大体どれくらいの貢献点を使われているのでしょうか?」


「単独の開拓者様で、これまでの最高額は2,500点ほどです。お二人はパーティ状態ですね? でしたら、共同で物品を購入することも可能ですよ」


 私が目を付けていたのは、3,000貢献点の【荷車】。

 このゲームのアイテムには重量が設定されていて、超過すると行動速度が極端に遅くなる仕組みです。資源や戦利品の運搬を考えれば、荷車は最も基本的な手段と言えるでしょう。


 初期投資の3,000点と、毎日1,500点の維持費は確かに高額。でも、それによって収益効率が跳ね上がれば、すぐに元は取れるはず。コストパフォーマンスの問題は心配していません。

 懸念すべきは、高価な荷車や馬のレンタルといった、隠しようのない装備の存在です。他のプレイヤーがまだ手を出せない段階でこれを見せつければ、不審に思われ、無用なトラブルを招きかねない。


 けれど、共同購入という形なら、不自然さは消える。


「ハロルドさん、これらの物品の価格は変動するのですか?」


「はい。在庫の数量によって、確かに変動いたします」


 なるほど。パンドラちゃんがポイントを使い切るよう勧めた理由がわかりました。

 交換可能な物品は有限。対して、プレイヤーは任務をこなせば無制限に貢献点を入手できる。臨時通貨である貢献度ポイントは、いわば際限なく発行されている状態です。適切な調整を行わなければ、すぐにインフレが起きて価値が暴落してしまうのでしょう。


「それでは、馬の日割りレンタルを長期で契約する場合、本日の価格を維持していただけますか?」


「問題ありません。日割り形式でしたら、契約日と決済日、どちらか安い方の価格を適用するという約定になっております。賃貸契約を結ばれますか?」


「ええ、お願いします。ゼータ、1,500点を渡すから、手続きをお願い。私は他の必要なものを揃えてくるわ」


 こうして手分けをし、私は中距離武器として800点の【鞭】を一本、遠距離武器として800点の【長弓】を二張り、私とゼータの分として購入した。さらに【矢】を5束、計250本。これには【矢筒】が二つ付いてきて、400点だった。

 加えて、偽装用の【水袋】を二つで400点。

 そして、3,000点の【荷車】。

 残りの2,200点は、【火打ち石セット】、【石のつるはし】×2、【石の斧】×2、【低級ライフポーション】、【低級マナポーション】、【解毒薬】、【麻痺解除薬】を各一つずつ、最後に【薪】を二束購入し、綺麗に使い切った。


「開拓へのご支援、感謝いたします。女神セレーネのご加護があらんことを」


 ハロルドさんは胸に手を当て、恭しく一礼した。


 食料やポーション類は、機工族(マキナ)である私たちには無価値なもの。けれど、これらを必要とするNPCやプレイヤーに遭遇するかもしれません。ポーションや治療薬は、贈り物としても商品としても、優秀な選択肢になるはずです。


 購入を終え、小物をインベントリに収納すると、NPCの兵士が荷車を押してきて、大きな荷物の積み込みを手伝ってくれた。ちょうどそこへ、ゼータも馬を引いて戻ってくる。毛並みの黒い、威風堂々とした馬です。


 NPCの手で馬に牽引具が装着され、荷車と連結される。素晴らしい仕上がりだった。


 これから資源ポイントへ向かい、物資を持ち帰る計画です。ただ、貢献度ポイントはもう空っぽ。追加の買い物はできないけれど、空の荷車で向かうのは、なんだか輸送力がもったいないような……。


「試してみないとわかんないでしょ~? じゃあボクが聞いてくるねっ。ここで待っててよぉ、くもりん~」


「あ、ちょっと……」


 ふと、隣から少女たちの話し声が聞こえた。そのうちの一人、赤いショートヘアの女の子がこちらへ歩み寄り、声をかけてくる。


「お邪魔してごめんなさい、美しくて可愛い開拓者様! 私たち、前線を開拓している開拓者様たちへ支援物資を届けたいんですけど、運ぶ手段がなくて困ってて……


 もし開拓の前線へ行かれるなら、ご一緒させてもらえませんか? 目的地まで、物資を運んでいただきたいんです!」


『クエスト:民衆の感謝 受注可能です』

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