足洗い屋敷
本所、三笠町にある旗本の屋敷に、夜な夜な巨大な足が現れるという。
その足は、突如ばりばりという巨大な音とともに、「足を洗え」と天井を毎回踏み抜いてくる。洗わなかったら洗わなかったで、「人間のくせに生意気だ」と言わんばかりに、天井をさらに踏み抜きどたん、ばたんと暴れるのである。
しかも、足を洗う係は女中にしか許さなかったというから、とんだわがままな厄介者であった。
しかしこの旗本、この足を追い出せずにいた。過去に盗賊に襲われたとき、この足が賊を踏みつけ、全員退治して助けてくれた恩があったからだ。
「旦那、あたしゃ巨大な足を洗うためにこの屋敷に奉公しているんじゃないよ。なんとかしておくれでないかい」
「ああ、お前たちの気持ちも、非常にわかる。だが、もう少しの間だけ我慢してくれないか」
このように、屋敷で働いてくれている女中陣も、もはや我慢の限界であった。それはそうだ。毎晩、謎の足の化け物が「足を洗え」と天井を踏み抜いてくるのである。
不思議なことに屋根には被害はなく、天井のみなのだが、不気味であることには変わりはない。
それから数カ月が経ったのだが、状況は何も変わっていない。さすがに女中たちのみならず、家中のものたちも我慢の限界だ。
「旦那様、もう無理でございます。なんらかの対策をお講じなされませ」
「いや。実は俺もな、足に対して言ったことがあるのだ。『お前がこの家に固執する意味はわからんが、旅にでも行ってきたらどうだ。もしかしたら、なにか見つかるかもしれん』とな」
驚いた奥方は、旗本に聞いた。
「そんなことが? それで、どうしたのです?」
「足は、『そうしたいが、裸足ではどこにも行けない』と言ったのだ」
「では、わらじなり下駄なり、繕ってはいかがですか」
旗本はため息まじりで言う。
「下駄を履かせたから、こうなったのだ」




