表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

オフィシャル・ゾンビ 08

 これまでのおおざっぱないきさつw――

 通称・ゾンビと呼ばれる人外の亜人種が陰でうごめく世界で、期せずしてゾンビの認定を受けてしまったお笑い芸人、鬼沢。

 おなじくゾンビにして政府公認のアンバサダーを名乗る後輩のお笑い芸人、日下部によってその本性であるタヌキの姿に変身させられ、あまつさえ屋外に追い出されてしまうのだった。

 クマのバケモノと化した日下部とタヌキの鬼沢、呆然と立ちすくむお笑い芸人のもとに、果ては思いもよらぬ人物が現れて…!

挿絵(By みてみん)


 はじめの平和な家族連れでにぎわう都心の公園から、今現在は、()()()とこの場所が変わって、ここは先の(いこ)い広場からは徒歩でほどなくした同じ街中の一画――。


 ()()()()()()()()()


 ただし人の気配がどこにも感じられない、言うなればとうの昔に放棄されたのであろう、()()()()()()()()()()()()()()()

 見た感じ、元はそれなり大きな企業のオフィスビルだったとおぼしきものである。建物それ自体がすでに遺棄されてひさしく、ほこりっぽいフロアにひとつもものがないがらんどうなさまは、そこに一抹(いちまつ)のわびしさと不穏な気配のごときものをじっとりと(かも)し出していた。

 ひとつも人工の明かりがない空間は実際はさぞかし広いのだろうに、天井から床までびっしりと暗がりで()りつぶされている。

 そのためまるで見渡しが効かない。

 ただの人間の目であれば……。

 その雑草だらけですっかり(さび)れた玄関口には〝立ち入り禁止〟の大きな立て看板があり、建物自体はしっかりと封鎖されていた。

 だがそんなもの、まるで意に介すこともなくこの正面口から堂々と中に踏み入る()()()()の背中に続いて、()()()()()()とでかい足を踏み入れる、ふたりの亜人種(ゾンビ)たちだ。


 当然にして内部(なか)は暗い――。


 よって、ひとの目を気にしないで済むぶんに、これまでよりずっと落ち着いていられた。それでこの見通しが悪く薄暗い建物の中に、見知ったはずの人影を探して怪訝な顔つきをせずにはいられない、現在絶賛()()()()()()()に変身中の鬼沢(おにざわ)だ。

 隣で息を潜める日下部(くさかべ)、見た目はいかつい()()()()()()()にちらと視線をくれるが、後輩の芸人にしてオフィシャル・ゾンビの政府公認アンバサダーめは憎らしいこと。何食わぬ顔でおなじくその()()()()()()()をぼんやりと眺めている。

 これに何か文句のひとつでも言ってやろうとしたところ、いきなりこのあたりの景色が、()()と明るく開けた。

 およそ出し抜けのタイミングだ。

 するとこれには、ただちに()()っと背後に垂らした太いシッポを逆立てる、しっかりとメタボ体型のタヌキである。

 内心で平静を装っていても、いざこういうところに出てしまうのは、もはや致し方がないことなのだろうか。

 ここは廃ビルなのだから、電源などはとうに落ちているはずなのだが……?

 それにも関わらず、天井の明かりが煌々(こうこう)と灯って、その廃墟のありさまをはっきりと照らし出すのに目をまん丸くしてしまう。

 白っぽい人工の照明は、その広いエントランスのほぼ真ん中に立つ人影――。

 それはけっこう昔から見知った男の姿も、そこにはっきりと照らし出した。

挿絵(By みてみん)

 不敵な笑みをこの満面に浮かべてこちらを見ている、ひとりのおやじ……!

 男は自分たちと同業の業界人で、〝お笑い芸人〟だった。

 おまけに()()()()()()()()()()()()()

 きっとこの中でもタレント・ランキングだとか言ったものでは、ダントツの認知度と人気があるのではないか?と素直に認めてしまう鬼沢だ。

 ()()()、と息を飲んでその年配の先輩芸能人の言葉を待った。

 男は見た目で言えばいわゆる中年のおっさんである。

 だいぶ中年太りしたいかつめの身体に、街中ではあまり見慣れないような、いかにも芸能人ふうなちょい奇抜なファッションなのだが、かろうじてこの全体を渋くまとめた色使いで、ギリOKっぽい衣服をその身にまとっている。

 世間的にはかなり個性的なキャラで知られる、おまけ芸歴が長いベテラン芸人にはいかにも似つかわしいのだろう。

 でもじぶんにはちょっとハードルが高いなと内心、やたらに覚めた目つきで眺めてしまう後輩芸人のタヌキだった。

 このあたり、隣の若手くんの目にはどう映っているか?

 何はともあれ口元に男らしい口ひげを蓄えたそのオヤジさんだ。

 それがまた低くて渋い、そのくせによく通るバリトンの美声で乾いた廃ビルの空気をビリビリと震わせてくれる。


「フッ…………おう、よう来たな、後輩のゾンビども! もとい、芸人ども! ああそうや、ここは見てのとおりで余計な人目を気にせんでええさかい、せいぜい楽にしときや。ちなみに政府公認の廃ビルで、()()()()()()()()()()()()()()()やからなおさら遠慮はいらへん! このわいのお気に入りの〝秘密基地〟や。ちゅうても実際はみんなのものやさかい、おのれらも自由に使(つこ)うてかまへんのやからの?」


「…………へ?」


 二匹の化け物を前にしても、いささかもビビることなくした鷹揚(おうよう)な態度のおやじだ。おまけその()かした言いように、なおさら怪訝にその太い首を傾げるタヌキだが、この横のクマがしれっと言うのだった。

 ありがたいことにわかりやすく説明してくれる。


「はい。いわゆる街中の()()()()()()を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ちなみにこの都内にも()()()()()がいくつも存在したりします。見た目はボロボロでも、こうしてちゃんとライフラインは生きているから、身を潜めるにはうってつけですよ。ここはその規模としてはかなり大きいものですし。この裏手の広い裏庭だとかも含めたら、()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「へえ、そうなんだ? てか()宿()って、なに? 特訓なんて俺しないよ。タレント業で忙しいんだから? で、目の前にいるあのまさかの先輩さんは、俺、ちょっとマジでビックリしちゃっているんだけど??」


 感心するよりも半ば呆れた感じで思わず見入ってしまう……!

 大きな頭を頷かせるタヌキが横のクマから目の前のおじさん芸能人へと視線を泳がせるのに、当の本人がニヤリとした意味深な笑みでぬかしてくれる。


「あん? なんや、クサカベ、まだゆうてへんのか、このわいのこと? オニザワに? あー、ちゅうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? なるほど立派なゾンビっぷりやが、まだちんちんに毛ぇが生えたての新人くんやろ、シッポの落ちつかない揺れかたがかわいいてしゃあないわ! ほなはよ慣れえよ。傍で見ててあぶなっかしいてしゃあない、ヘタすりゃ収()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ほんまにの!!」


 関西芸人さんならではの豪快な語り口で、明るく茶化した言いようでありながら、最後のあたり聞き捨てならないぶっちゃけ発言があっただろう。

 これにはまたしてもシッポがビクン!と跳ね上がる鬼沢だ。

 気を抜けば今も()()()()と背中にぶち当たる、このみずからの身体のいまだ慣れない一部に困惑しながら声を荒げる。


「は? ()()()()()()()()って、そんなわけないじゃないか! 俺こんな姿で収録に参加したおぼえなんて一度もないもん!! それこそ騒ぎになっちゃうじゃん!!?」

挿絵(By みてみん)

 これにはやはり平然と横に突っ立つクマが、すぐさまに納得してしたり顔でうんうんと同意。


「ああ、確かに()()()()()()()()()()()()()()()、鬼沢さん? あいにく本人自覚してないし普通のひとには見えないから問題ないんですけど、この業界、実はゾンビのシッポがはみ出ちゃってる放送事故は結構な()()()()です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? かと言ってその場じゃ注意もしずらいし……!」


「ああ、ヘタに言うて意識してもうたら、最悪、見えんはずの人間にまで見えることになりかねん。カメラに抜かれでもしたら即アウトやろ! そのいかついシッポの形状からさぞかし年季の入った古だぬきなんやろうと思ってたんが、ずばり的中しよったな! その姿はかなりもんで()()()()()どこぞやの〝氏神さま〟みたいなもんなんちゃうか? 鬼沢、さてはおまえ、そないなもんにたたられるような()()()()()()()()をしよったんか、どこぞのロケ先で??」


 しったふうなことをずけずけと言ってくれる先輩に、心底狼狽(ろうばい)せずにはいられない鬼沢だ。おかげ口から泡が出る勢いでわめき散らす。


「し、知らないよ! 俺は身に覚えなんか何もない!! こんなの何かの間違いに決まってるよ。そうとも俺はただの被害者だ! 無実なんだって! いいや、そう言うコバヤさんだって、俺、ちっとも知らなかったけど、その、ゾンビ、だったの? でもそうなるんだよね? コバヤさんはいつものコバヤさんの姿のままだけど、でも…………」


 ここまでの道中のことをそれと思い出す鬼沢だ。

 困惑の色を深めるタヌキは目を寄り目にして深く考え込む。

 コバヤと呼ばれたオヤジのベテラン芸人は何食わぬ顔で大きく頷いた。


「そや! これまでの経緯を見てもうわかったんやろ? ひとには不可視のゾンビ! そないなおまえらを率いてここまで来よる道すがら、こないなカッコの有名人さまを指さす人間がひとりもおらへんかったっちゅうあたり! ふふん、もはや不自然に過ぎるっちゅうもんやw」


「やっぱり、見えてないんだ? 俺たち同様、みんなにはコバヤさんのことが?? でもいたって普通の人間のカッコしてて、今のコバヤさんはどこもゾンビっぽくはないんだけど……おかしくない?」


 やや納得しかけてそれでも何か心に引っかかる鬼沢だったか。

 これにおすまし顔の日下部が、横からさらなる注釈を付け加える。


「まあ、ある程度の経験値を積んでゾンビとしてのレベルが上がれば、わざわざその姿に変身しなくても()()()()をかけることはできるようになりますよ。ひとにもよりますが。あと何を隠そう、このコバヤさんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ふん。あいにくと()()()()()()()()()()()()()とはちごうて、ただの野良の一匹狼のロンリーゾンビやがな! いいや、そもそもがわしらみたいなゾンビなんちゅうもんに、()()()()()もあらへんのやろっ……」


「まあ、できたらコバヤさんもオフィシャルになって欲しいんですけど? 世間に潜伏するナチュラルのゾンビたちを見つけ出して、野放しなんかにしてはおかないのがおれたちの仕事でもあるわけだし」


()()()()()? なにそれ? ゾンビってそんないくつも種類があったりするの?? 俺が、なんだっけ、えっと、オフィシャルで、コバヤさんはまた違うんだ? いわゆるカテゴリー??」


 もはや初めて聞くことだらけ!

 何をどう理解していいやらさっぱりわからない鬼沢が視線を右往左往させるのに、何やらひどいしかめ面する熟年芸人が途端にこの語気を荒げた。

 キビシイ目線を目の前のクマに投げかける。


「あほう、()()()! ただおのおのに主義主張が異なるだけで、区別する必要なんてどこにもあらへん。しょせんは国のお偉いさんがたの都合やろ? せやからわいはオフィシャルになんぞなられへんのやっ、この首に首輪をはめようなんぞまっぴらごめんやからの! クサカベ、よう覚えておけよ、この(おとこ)、ジュードーコバヤカワ、おのれの道はおのれで決める! せやかてや、おのれらの守りたいものとこのわいの守るべきもの、そないに違いはあらへんのやろ? いかに世間からバケモノのとそしられても、決して人としての道は(たが)えんのがあるべきゾンビの姿やからの……!!」


「はあ……! 残念です。でもおれも諦めませんよ。それもまたオフィシャルの公式アンバサダーとしての勤めですから。今日からは鬼沢さんと二人がかりでコバヤさんの説得にかかります」


「え、()? まだ何も納得していないんだけど??」


 毛だらけのタヌキがきょとんとした顔で真っ黒い鼻先をヒクつかせるのに、苦笑いの先輩芸人が意味深な目つきでそれを見返しながらにのど仏を鳴らしてくれる。

 その含むところがある言葉に、なおさらにきょとんとした顔でこの鼻先をひくつかせる鬼沢なのであった。


「クック! まあ、好きにするがええわ。だが今はこの右も左もちんぷんかんぷんのゾンビ一年生のタヌキの世話が先やろ? そやからこのわいが呼ばれたわけでもあるんやし。()()()()()()?」


「はい? えっと……」


「ええから任せとき。まずは()()()()、ほんまもんの実戦のバトルを体験するところからやろ! ゾンビには必須(ひっす)のスキルや。まあ、優しくしたるさかい、遠慮せんでかかってこい。あいにくでギャラリーはそこののんきなクマ助だけだが、あっつい熱いエキシビション・マッチのはじまりや! さぞかし見物やで。まっじで動画に撮っておきたいくらいやわ……!」


「は??」


 事態はまさしく急転直下!

 何か思わぬ流れになりかけているのにひたすらきょとんとなる鬼沢だが、横からクマ、もとい日下部が真顔で言ってくれる。

 これまた急な物の言いだった。


「では、鬼沢さん、まずは慣れるところからです。これまでの通りに。おれたちゾンビたる者、それは戦ってなんぼの世界でもありますから、頑張ってあのコバヤさんに食らいついてください。ちなみに強いですよ、コバヤさん? あのままの姿でも……!」


「はあ? おまえ、何言ってんの??」


「せやから相手をしてやるっちゅうてんのや、このわいがの! おうタヌキ、ちんたらしとらんでさっさと来いや! この大先輩がいっちょもんだる、せやからおまえは気張っておのれの力を出せる限りひねり出して、どないなもんができるのかはよう慣れてものにせい。まずはおのれを知ることからや!!」


「は? コバヤさんも何言ってんの?? こんなわけわかんない状態でひとなんか(なぐ)れるわけないじゃん、おっかない! 普通の人間よりもずっと力があるんでしょ? 今だって大人と子供くらいも体格差あるし、先輩の芸人さんをケガさせちゃうわけにはいかないじゃん! 俺、そういうの嫌いだし」


「それは相手がただの人間だったらの話ですよ。今回はまったくの別で、むしろ通らなければならない道です。それこそがおれたちゾンビにとってのある意味、()()()()みたいなものですから。あとあのコバヤさんは、ほんとに()()ですよ?」


「もうええ、()()()()()()()()()()。習うよりも慣れよ! おいオニザワ、ごたくはええからさっさとその力を見せてみい、そしておのれの限界を知れ、このわいが教えたる。先輩の芸人として、ガチのゾンビとして、おのれの身体にきっちりとたたき込んだるわ!!」


「わ、わけがわからないよ! 俺、ケンカなんて兄弟以外としたことないし、ましてや本気の殴り合いだなんて考えたこともない! プロレスだって怖くてまともに見たことないんだから!!」


「うっさいわ、ボケ! ええから、うらぁっ、かかってこいやあ!!」


 怒号と悲鳴が交錯する。


〝人間〟対〝バケモノ〟……!


 ギャラリーがただのひとりだけの異種格闘技戦が、たった今、この幕を開けた。


        次回に続く……!

やっと出てきた三人目! おまけにかなりクセありのなですが、誰だか丸わかりなんですかね?

名前が……w ともかく強敵の登場で、以降、ヒートアップする予定ですwww

人気の芸人さんがガチバトルしたら面白い、変身したらなお面白い!なんて小学生みたいな発想でやらかしたバカチンファンタジー、よろしければ応援よろしくお願いします♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ