-さいしょのおはなしの、つづきの4-
自前のブログではいいところで飽きて(需要が見いだせなくてw)ほったらかしの異能バトルものなのですが、やっとそれっぽくなってきたのか? こちらで少しでも見てもらえたらモチベアップにつながるのではないかと期待しています。復活なるか?www
カ、ポッ……!
目の前にほうらね?と示されたのは、例のあの金色の輪っかだ。
これをそのまんま、このみずからのまあるい坊主頭にスポン!とはめられた中堅どころのテレビタレントさんは、はじめぽかんとしたさまでしばしの硬直――。
その後には目の前の何食わぬさまのバケモノ、その実は後輩のお笑い芸人である日下部らしきを見上げる。
すると見れば見るほどにいかつい異形のバケモノめは、もはや当たり前みたいにその場にいてくれるのだが、内心でモヤモヤしたものが渦巻く鬼沢は困惑したさまでもようやく聞いた。
「はっ……なに、コレ?」
断る間もなく勝手にはめられてた謎のブツだ。
サイズがまさしくピッタリで、もはや計ったみたいにシンデレラ・フィットする冷たい感触……! 状況はそれと理解ができるが、この意味がまったくもって理解ができないと目でも訴えかける。
すると相手のクマもどきは、知った風な顔してうなずいてくれた。
「はい。特典のX-NFT、説明するのは難しいので今はあえて省きますけど、その検出作業です。このおれの輪っか、通称「金魂環」はひとの、もといゾンビの隠された能力を現実に導き出すちからがあるんです。はは、便利ですよね? このおれ自身に限らず、こうして他人に対しても効果があるってあたり……!」
「は? さっぱりわかんないんだけど?? おまえが言ってることちんぷんかんぷんで、こんなんじゃ俺どうにもできやしないよ。なあ、あと何より今のこの俺のありさまって、傍から見たらかなりお間抜けなんじゃないのか?」
怪訝も怪訝の顔つきで見上げてくる鬼沢に、対するクマの日下部はちょっとだけ左右の肩をすくめておいて、そのくせこれもまた平然と受け答える。
「え、ああ、まあ、大丈夫ですよ。隠しカメラなんてどこにもありませんから。あとお間抜けな姿の鬼沢さんより、まずはこのおれに視線が釘付けになるんじゃないですか? それが見えるひとならば? だから制限かけてるわけでもあって、機密はちゃんと保持されてますから。いかに鬼沢さんがお間抜けなカッコしててもですね」
「どの口が言うんだよ? で、だからこれで何がどうなるんだ? そもそも特典だ特典だって、俺、別にそんなのちっとも欲しくないんだけど」
完全に覚めたまなざしで言うのに、こちらも覚めた目で見返すクマはマイペースなさまをいっかなに崩さない。
「欲しい、欲しくないに関わらずに、およそゾンビたる者、ひとつは持っていてしかるべきものですよ。特にオフィシャルに限っては、それが何よりの証明になるものですから? 個人個人でまるで違うものですから、どんなものかはそれこそが"ガチャ"でピンからキリまでさまざまなんですけど……ちょっとドキドキしますね!」
「全然。俺はまったくときめかない。まず意味がわらいないし、そのエックス、えー、なんちゃら、だったっけか?」
「んーと、あー、そうそう、"魂魄霊子顕現化錬金合成物質"……だったかな? とにかく"X-NFT"とだけ覚えておいてくれれば問題ありません。そろそろかな? 頭のキンコンカン、輪っかが点滅してるでしょう。それってアイテムの錬金合成ができてるサインですよ。ちなみにこのぼくらの業界用語、いわゆる隠語ってヤツではこれらを総じて"神具羅"、カグラとも言うんですけど……」
「おい、ほんとにさっぱりわからないぞ。でも確かに、この俺の頭、ピカピカなってるのか? でもできてるって、どこにも何もないじゃないか? まさかどっかから宅配なんかで送られてきたりするのか、それってのは??」
「いいえ、無理です。たとえ完全武装したアマゾンやウーバーイーツでも入って来られないくらいに厳重な警戒態勢下ですから、ここって。それよりも身体のどこかしらに異変とか、感じないんですか、鬼沢さん? おれは感じてますけど、ほのかな気配、みたいな?」
「武装したアマゾンの配達員なんて見たことあるのか? 異変て、頭がピカピカなってる以外は何も変わらないだろう? うざいな! ならもう取ってもいいか、この頭の輪っか、ん……!」
頭の上のコブでも見るかのように険しくした視線を上向けていた鬼沢は、そこから不意にこの足下へと、みずからの目線を急降下させる。
はたと小首を傾げながら、そこで何かしらの変化らしきに気が付いたらしい。
それだからこの足下から徐々に視線を上げていき、みずからの腰回りでピタリと目線とこの身動きが止まる。
怪訝なさまで、自身の地味な灰色のスラックスの尻の部分、おそらくは後ろポケットへとこの手を潜らせるのだ。
片や、ただ無言でそのさまを見守る日下部、今はクマのバケモノが、ちょっと緊張したさまでごくりと息を飲むのが伝わる。
だがそんなに注目されてしまうと、このみずからの挙動もやや緊張してぎこちなくなる見た目よりメンタルの繊細な坊主は、途中からやや困惑顔しておのれの利き手でつまみ出したものを目の前にかざす。
直後、かすかな沈黙が、その場を支配した――。
「…………あれ、これって…………??」
何だろう、何の変哲もない白い無地のハンカチが、そこにはあった。
きれいにアイロンがかけられて、きちんと折り畳まれたものが、だ。
「それは……鬼沢さんの私物、ですか?」
全身モサモサとした剛毛の毛だらけのクマのバケモノが聞いてくるのに、さっぱりした丸坊主のこやじが答える。
「そうだよ。当たり前だろう、ひとの物のはずがないじゃん。て言うか、なんだよ、コレ! まさかこんなのが特典だなんて言いやしないよな?? あと頭のこの邪魔っけなの、いい加減さっさと取ってくれ!」
「ああ、まだそのままにしておいてください。その輪っかの反応からしたら、たぶんそれに間違いないですから。と言うことは鬼沢さんのそれって、おれみたいに疑似物体を現出させる具現化型なんかではなくて、もとからあるものを変化変質させる、変化型なんですかね? いいからもっとよく見てくださいよ、それってほんとにただのハンカチですか?」
なにやらひとりでしきりと納得しているさまのクマに、まるで納得がいかないおじさん芸人は憮然としたさまだ。
そんなものだから手元のハンカチをぞんざいに振り乱してくれる。
良く見るも何も、こんなのただのハンカチだろう?と言いかけたその口が、それきり唖然と開かれたままになっていた。
「だからっ、見たまんまだろうっ……! え、あ、あれ、れれ??」
サイズで言ったらたかが知れているはずのハンカチだろう。
だがいざこれをぱらりと開いてみたらそれは結構な大きさで、胸の高さから腰を超えて足下までも届くのに、ギョッと目を見開いてしまう。
それはハンカチと言うよりは、いっそシーツに近いくらいの布面積だ。
「な、なんだコレ!? ハンカチだったよな? シーツになってる?? でもこんなの、俺のうちにないぞ、あれ、まだ大きくなってる? なんだこれ??」
ひどい困惑顔で見上げるのに、見下ろすクマはやはり何食わぬさまで思案顔だ。
「……はい。鬼沢さんの特典ですね。それってまぎれもなく。ただしその効果や使い方については自分で研究、これを会得していってください。願わくば実戦的な能力だったらいいですね。ちなみ、特典はこのひとつとは限らないし、希に変わることもありますから。それにつき相談には乗りますが、あくまで自己責任です。あと必ずしも申請する義務はありません。ここらへん、適当なウソでも誰もわかりませんからね?」
「え、いや、だって? なにがなんだか、ほんとにシーツになっちゃったじゃん! こんなのがズボンのポッケに入ってたのか? なんか気持ち悪いな!! いらないよこんなのっ……あれ?」
気味悪がって手放した途端に、畳の上でシュルシュルとそれ本来の、元のサイズにもどるハンカチだ。
目がひたすら点になるお笑い芸人に、同じく芸人にして今は正体不明のクマのバケモノが納得顔で言った。
「はい。やっぱり鬼沢さんの能力ですね。ハンカチ自体が特典なのではなくて、鬼沢さんが身につけたものが特典化、つまりはX-NFT化するってことです。まさしく変化型かと。もちろんなんでもってわけではなくて、この場合はうすっぺらい布状のものなんですかね、おそらくは? 手放すとただちにこの効果がなくなるあたりは、ひょっとしたら術者本人の唾液や血液を付けることでより効果を持続、強化させることができるかも知れないです。このおれの経験値からした憶測では……!」
「は? は?? は??? いや、悪いけどさっぱりわかんない……! 俺、一体全体、どうなっちゃったの??」
「心中お察ししますが、慣れてもらうしかないです。あと、これからが本番ですから、いよいよ本日のメインイベントですよ?」
真顔で言ってくれるクマに、内心の焦燥があらわな中堅タレントはこの表情が血の気の失せた紫から興奮した赤へと変わる。
「はっ、なにが? ……は、あれ、なんだ、なんだか身体がっ……あっつくなってきてる? ぼうっと熱があるみたいな、あ、頭だけじゃなくて、ほんとに身体全体がっ、なんだこれ? コワイコワイコワイっ!!」
「ああ、まあ、落ち着いてください。あんまりパニクった状態でゾンビ化しちゃうとそのまま闇落ちしちゃうかも知れないので……! 熱いのはそれすなわち身体が変化しているためで、ごく自然な反応ですから。すぐに元に戻りますよ。その代わりに見た目がすっかり変わってしまうんですけど、まあそれもまた自然の流れですから……」
「あっ、頭が痛い! と、取ってくれコレ!! みんなコイツのせいなんだろうっ、おおいっ、日下部!!」
「よくわかってらっしゃいますね? 隠されたゾンビのちからを導き出すってのは、姿そのものを顕現化させることでもあるんです。このおれがアンバサダーの仲介役を任命されている一番の理由ですね! 変化したら自然と外れますよ。もう用がないですから」
「おお、おいっ、うお、あ、あああああっ、ああああああっっ!!」
苦しげなうめきを上げて身もだえする鬼沢は、ついにはその場にがっくりと両膝を付いてしまう。
がくんと畳に突っ伏すかたちで、頭を垂れた頭頂部から金色の輪っかがすっぽりと抜け落ちるが、その瞬間にひときわに強い輝きを放って畳に落ちる直前に、それ自体は空気中へと溶けていくのだった。
そのまばゆい輝きに働き盛りのおじさん芸人が包まれて、光りが消えた後に残されていのは、それはそれまでとは似ても似つかないまったく別の何者かだった。
一言で言ってしまえば、もはや人間などではない……!
かくてここ一番の沈黙がその場を長らく支配するのだが、目をまん丸くしてまじまじと見つめるクマのバケモノに、おそるおそるにこの顔を上げる毛むくじゃらの何者かは、このみずからの異変にしばし理解が追い付かなかったのだろう。
まず人間のそれとは明らかに違った、みずからの両手の異様なありさまに絶句して、すぐ目の前で固唾を飲んで見守るクマと互いの目線を見合わせる。
ぼんやりしたさまのクマは、言葉を失うその元先輩芸人の何者か、この場に出現したまた新たなるバケモノに当たり障りのない感じで言ってくれた。
「ようこそ、鬼沢さん。こちら側の世界に……!」
これに全身を小刻みに震わせる鬼沢らしきは、ただちに全身の毛を逆立てて喉から干上がった悲鳴を発していた。
「な、なっ、な、なな、なあんだ、これぇええええええっっ!?」
果たして日常を粉みじんに吹き飛ばす混迷と混乱は、めでたくその絶頂へと達したのだった。
次回に続く……!
すっかりこのお話で変身するのかと思ったら、まさかの次回におあずけw
そんな大したことになるわけでもないのにwww
まだふたりしか出てきてないし(^_^;)
ちなみに芸人さんを元ネタにしたキャラクター、ちゃんと面白味があったりするんですかね?




