表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

-さいしょのおはなしの、つづきの2-

オリジナルのファンタジーノベル、挿し絵がいい加減で放置されてたものを、まんまで移植ですねw

この後は徐々に良くなるはずなので、乞うご期待です!

挿絵(By みてみん)


 すぐ目の前で、そのぼさぼさの頭に金の輪っかをはめた青年――。


 それなりに見知ったはずのお笑い芸人だ。

 それがなぜだか真顔になって何やら()()()()()()と口ずさみはじめるのを、言えばこの同業者である坊主頭のお笑いタレントは、はじめただ不可思議に見つめるばかりだった。

 怪訝なさまで相手の様子をうかがうのに、みずからの腰のあたりに添えたその右手、おそらくは利き手なのだろう、その手のひらを軽く握るようなそぶりを見せる若手の芸人は、どうやらそこに彼自身の意識を集中しているのらしい……?

 傍目(はため)にはまったくもって意味不明なありさまながら。

 片や、これをいかにも怪しい手品でも見ているかの気分の坊主だが、ふと気が付けば何もないはずのそこに、果たして()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()を感じているのには、我ながら戸惑いが隠せない。


「え、なに、やってんの? おい、()()()っ……()っ……!?」


 次の瞬間、チラとだけこちらを見るむさ苦しいぼさ髪の男は、()()()()()()()()()()()()()()()、そのみずからの右手に()()と力を込める。


 するとまさにその瞬間だった……!


「……()()()っ、()()()……!!」


「へ? にょ、にょいぼ、うっ? て、()っ、()()()()()()()()()っ!??」


 その不意に発した()()()、にょいぼうのかけ声と共に、刹那(せつな)、相手の手元から()()()()()()が、こちらめがけて走ったのか? 


 ()()()()()()()()()()()()()()()ッ……!!


 低いうなりと共に、何かしら不可視の物体が、突如としてこのみずからの身体を貫いた!

 もとい、思い切りに押しのける勢いでこの身体ごと、背後の壁へと突き飛ばされた!?

 結果、完全に両足が畳から浮いて、おまけこの背中をしたたかに楽屋の壁に打ち付ける丸坊主のタレントだった。

挿絵(By みてみん)

「なあっ、なんだっ! これ!? いたたたたたっ、やめろっ、やめろよっ! おいっ、誰かあ!! 助けてくれっ……!!」


 思わずボサボサ頭越しに見える、閉ざされたままの出入り口の扉に向けて助けを求める鬼沢だが、あいにくとそこから反応らしきはとんと返らない。

 これに苛立(いらだ)たしげに歪めた顔つきでわめき散らす。


「ちくしょうっ、なんだよ! ひとがこんな目に()ってるのに、どうして誰も来てくれないんだよっ、()()()()()!?」


 がなって目の前の後輩芸人、日下部(くさかべ)に怒りの矛先(ほこさき)を向ける。


()()っ、()()()! おまえっ、こんなことしてただで済むと思っているのか!? ()()()()()()だかなんだか知らないが、やっていいことと悪いことがあるだろう!! この、このくそっ……なんだよこれ!?」


 それは()()()()()とでも言えばいいのか?

 とにかくみずからの腹部を強烈に圧迫するもの、どうにかこれを振り払おうとこの両手を身体の前で振り乱そうとも、虚しく虚空をかすめるばかりだ。

 何ひとつとしてそこには手応えがない。

 真っ赤な顔でいまだ目の前で冴えない表情の青年をにらみつけるのに、平然としたさまの後輩芸人は、覚めたまなざしでこれを見返すばかりだ。

 すかしているにもほどがあるが、肩の力が抜けきって、いっそのこと無気力とすら見える相手は、挙げ句の果てにはみじんも悪びれたそぶりもないままに淡々と言ってのけた。


「あ、すみません。言うよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……! もちろん危害を加えるつもりなんてないですから。おれたち世間から〝ゾンビ〟って言われるヤツらのちからの一端(いったん)てヤツをわかってもらえれば。今はこの人間の見た目のままですけど、本来は、まあ、()()()も見てもらったほうがいいんですかね? おれも見たいし、()()()()()……()


「な、なにわけのわかんないこと言ってんだよっ、()()()()()()()()()っ! おまえだって人間の姿のままじゃないか!? なにがゾンビだっ、てかこのちからなんなんだっ、ほんとにわけがわからないっ、あとなんでこんなに騒いでるのに誰も来てくれないんだよっ!! おおいっ、スタッフ、誰もいないのかあっ!?」


「ああ、()()()()()()()()()()()? ()()?? そういう風に()()()を出させてもらっていますから。オフィシャル・ゾンビの()()()()()()()()()()()をもってですね? 今このフロアにいるの、たぶんこのおれと鬼沢さんだけですよ。余計な邪魔が入らないようにあらかじめに制限と特別な配置、配慮をしてもらっているんです。何よりも他の演者さんとか、どこにもいなかったでしょう?」


 平然としたさまでどこまでもぬけぬけと言ってくれるのに、なおさら仰天して顔が赤くなったり青くなったりする坊主頭だ。

 もはやなんだか丘につり上げられたタコみたいなありさまだった。


「なっ、なんだよそれっ! おまえいつからそんなに偉くなったんだ!? あとこのちからなんだ!! なんでなんにもないのにこんなにからだを押さえつけられるんだよっ、どんな手品なんだっ、日下部っ、いい加減にしろよ!!」


「ああ、はい。お気を悪くしたのなら謝ります。それではちからを解除しますから、()()()、ちゃんと取ってくださいね?」


「は? あ、わわわわわっ!? ()()っ、()()()()っ!!」


 ()()ッ!


 この身体ごと背後の壁に()()()()と押さえつけていた不可視の力が不意に消失するのに、いきなりでろくな受け身も取れないままにしたたかに尻を畳に打ち付ける鬼沢だ。

 だから言ったでしょうと言わんばかりのしらけた後輩芸人の顔を見上げて泣きそうな声を出す。


「いっ、いきなりなんだよ! ケガしちゃうよ、もうちょっとやりようがあっただろう!? ゾンビもへったくれもありゃしない、ただのあやしい奇術じゃないかっ! くそ、俺は認めないぞ、こんなのただの嘘っぱちのまやかしだっ!!」


「はあ。いえ、まやかしも何も、これって()()()()()()()()()()()()()()()()()。やっばりゾンビって言い方が悪いんですかね? でも何を隠そう、おれはこのゾンビの力、わざわざゾンビの姿にならなくてもこうして行使ができるんです。それこそがこの特殊な『輪っか』のおかげでですね……!」


()()()……。それがあればさっきみたいなことができるのか? いわゆる超能力みたいなのが使えるようになる、みたいな??」


「はい。まあ、もちろん誰でもってわけではないし、基本はこのおれ固有の能力ですよね。この輪っかもおれ専用のアイテムだし。ただしおれが認めれば貸与することもできますけど? あと、相手を拘束、捕まえたりする目的でも使えるし。とっても便利なんですよ、この輪っか、そうです、その名も『金魂環(キンコンカン)』!ってヤツは」


()()()()……()()? ひょっとしてふざけてる??」


 頭から取り外して改めて利き手でつまんで示してみせる金色の輪っかを、方やきょとんとしたさまで見上げるばかりの芸人だ。

 それにもまた平然としたさまの後輩芸人の日下部は、またしてもぬけぬけと言ってくれる。


「あ、()()()()()()()()()なんじゃないですか? ここでお待ちしていますから、どうぞ行って来てください。あ、遠慮しないで、遅刻しちゃいますから。おおよそ()()()くらいですかね? それまでこちらはこちらでいいお返事を期待しながら待機していますので……!」


「え、()()()()()()()? なんだよっ、まだ心の準備がっ、てか、ここで待ってるの? ひとの楽屋で?? なんかヤだな! 貴重品とかマネージャーに預けておきたいんだけど」


「ああ、だったらこのおれが預かっておきましょうか?」


「結構だよ! おい、ふざけんなよ、おまえが信用できないって言ってるんだからな!!」


「はあ、そうなんですか? でもあいにくとマネージャーさんは来ないですよ? さっきも言ったとおり、この現場に関係者以外は一切、出入り禁止の()()()()()()()()かかってますから」


「なんだよそれっ! マネージャーは関係者だろうっ、ほんとに頭にくるな!! だからおまえにどうしてそんな権限あるんだよ!? あと何よりおまえがそんな関係者ヅラしてるのが腹立つわっ!!」


「ですからさっきも言ったとおり、()()()()()()ですから。()()()()の? あ、()()()()()()って意味、ひょっとして知らないんですか??」


「知らないよ!! いや知ってるけど! ええいもういい、おまえ、あっち行けよっ、やっぱり納得がいかない、俺の視界に入らないところでじっとしてろ! もう話しかけてくんなっ、できたら隣の楽屋でくたばってろっ、営業妨害だぞっ、ああ、ほんとにイライラする!! なんかまだ大事なことがあったはずなのに、すっかり忘れちまったじゃねえか!!」


「あ、ひょっとして()()()()のことですか? その普段着の格好じゃアレですものね? でも当然、衣装やメイクさんも来ないですよ。制限かかってるんだから? さっきからそう言ってますけど」


「ほんとに()()()()じゃないか!! わああっ、どうしてくれるんだよっ、もう時間ないぞ、てか、スタッフも誰も迎えに来ないじゃないか! なんだよっ、おかしいよっ、俺の人権おびやかされてるじゃんっ、さっきからずっと!!」


「大げさじゃないですか? いいえ、ちゃんと守られてますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今月の末までは有効期限がありますから。その後はどうだかわかりませんけど? でもオフィシャルのカミングアウトをしてアンバサダーになれば、ご家族ともども安泰(あんたい)ですよ。その点については、このおれが保証しますから」


「なんだよその保証!? いいや絶対に信用できないっ! あと報道規制ってなんだ!! マスコミって、うそだろっ、この俺の人権、マジでおびやかされちゃってるの!?」


 しばしの口論の後にしまいには顔面蒼白で口をパクパクさせる鬼沢に、やや苦笑いの日下部がゆっくとりこの道を空ける。

 左手で出入り口の閉ざされたドアを指し示して言うのだった。


「どうぞ、はりきって行って来てください。応援してますから。何かあったらすぐに駆けつけるし。あとさっきの()()()、捨てないでくださいね。転売は最悪、()()()()()とかになるんで、くれぐれもなしで。あと元が()()()だから、このおれが怒られちゃいます」


「誰に?」


()()です。まだ。詳しくは晴れて鬼沢さんがアンバサダーの肩書きを手に入れてからですね」


「もう()()じゃん。おまえ、俺に何の恨みがあってこんなひどい仕打ちを? 背後にどんな組織があるって言うんだよ。こんなあからさまなひどい人権侵害っ……」


 もはやぼやきが絶えない鬼沢だ。

 がっくり左右の肩を落としてどん底まで落ち込む。

 それを前にしてくすりと笑う後輩芸人は、腐る先輩のコメディアンにしたり顔して言うのだ。


()()ですよ。はい。こんなにでかい担保はないでしょう? やればわかります。やらなきゃ……それもまたわかります。おれは鬼沢さんが正しい判断をしてくれると信じてますよ。仮にもプロなんだから大事な収録をすっぽかして逃げるだなんてしないですよね? それだからどうかこのおれを……」


「ちっ、なんだよ……!!」


 衣装やメイクはもう諦めて、その場をズカズカと後にする鬼沢は振り向きもせずに出口へと向かっていく。

 荒々しい手つきでドアを開いては力任せに閉じる怒った背中に、これをその場で見送る日下部だ。

 ちょっとだけ切なげな視線を投げかけて、ぼそり、と言葉の続きを述べるのだった。

 さながら祈るかのように……。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」


 ぱったりと人気の絶えた狭い部屋で、うつむく青年はゆっくりとその場にしゃがみ込む。

 そのまま静かに時は過ぎていくのだった。

 かくしてそう。

 またこの後に幕を開ける、ドタバタ悲喜劇の続きまでは――。


            次回に続く……!

はじめはふたりしか登場人物がいないのですが、徐々にひろがってくるので、出てくるキャラの元ネタの芸人さんが誰なのか、想像して見ていただけると幸いです。ぶっちゃけ似てないのでwww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ