-さいしょのおはなしの、つづき-
自前のブログで人知れず連載していたオリジナル・ファンタジー、このふたつめです!
あいにく挿し絵がテキトーで終わっているのですが、たぶんこちらは更新されることもなく放置ですねw
シーン……!
しばしの沈黙の後、ついにはがっくりとその肩を落とす、先輩のテレビタレントだ。
表情の悲壮な鬼沢は言葉もない。
その彼は、今やすっかり観念したかのさまで、手にしていたスポーツ紙の紙面を破れるくらいにグッと強く握りしめる。
ぐしゃぐしゃになった紙面には、そこにぽたぽたと水滴らしきが落ちていた。
泣いているのか?
それだからそのすぐそばに膝を落とす、ぼさぼさ頭の後輩芸人。
日下部は、とかく落ち着いた落とした声色で、ささやくように言うのだ。
だがそれは決して、慰めなどのたぐいではなくた、むしろ冷静にして冷酷な〝最後通告〟だった……!
「そうです。だから、鬼沢さんもなってくださいよ……この俺とおんなじ、アンバサダーに……! オフィシャル・ゾンビ、『公式アンバサダー』の採用認定に今日はお伺いしました。鬼沢さんは間違いなくその資格がありますから。はい、この俺が保証します」
「公式、アンバサ、ダー……? よくわかんないよ、おれ、それに家族に何て言えば? みんなごめん、パパ、今日からゾンビになっちゃいましたって、そんなの誰も笑えないだろ? いきなり一家の主がさ? そうだよ、というか、そもそもゾンビってなんなんだよ! あとなんでお前が保証とかできんの??」
絶望と困惑のない交ぜになった表情でみずからの視線をさまよわせる。
それは哀れな妻子持ちの著名人に、対してあいまいな笑みを浮かべるばかりのこちらは若手の独身芸人だ。
じぶんにはいかんともしがたいと、わずかにこの肩をすくめる。
「ああ……まあ、いろいろと整理しないといけませんよね? 基本的には口頭での説明で、何かしらの書類にハンコとか押す必要とかはないから、なるだけ手短に。ここらへん、法的にまだろくすっぽ整備がされてないらしいんですよ。鬼沢さん、これから収録ですもんね?」
ともすればどこか拍子抜けするような、いっそのこと天然じみたものの言いだ。
対してこの内心では複雑な感情が渦巻くのだろう。
とかく苦い顔つきの鬼沢は、さも恨めしげな視線で冷めきった表情の日下部を見返す。自然と泣き言みたいなのが漏れ出た。
「…………うん。でもそんなのちっとも集中できないと思う。はあ、できたらいっそのことドタキャンしてやりたい気分だよ、こんなのはじめてだ。おい、お前のせいだからな? ひとさまのことをいたずらに〝ゾンビ〟呼ばわりしてくれやがって……!」
だが相手からの悲痛な訴えも何のその!
どころかまるで動じたそぶりがない当の日下部は、抑揚のないセリフをまたしてもぬけぬけと吐いてくれる。
「ものは言いようですよねぇ? ほんと、ここらへん、ひとによって意見がえらく分かれるし、だからこそ今時じゃ一般的で、かつ一番わかりやすくって、おまけシンプルな呼び方ってヤツに、とりあえずの便宜上で定まったって、そういうことなんでしょうけど……!」
「はあっ、てか、なんでゾンビなんだよ? 他にも言い方あるだろうっ……!!」
「ああ、まあ、確かに? ……えっと、憑依霊、ツキモノツキ、背後霊、あるいは、あやかしとか妖怪、精霊、悪魔、邪気、悪霊、未確認生物、その他いろいろありますけど、でもやっぱり最近じゃこれが一番ポップでポピュラーなんじゃないですか? すっかり市民権を得ているっていうか、取っつきやすさにかけたらば! それにつき政府が公式に発表している、後天性・遺伝子突然変異型・異形亜人種……だなんて、そんなの誰も覚えられやしないでしょ。ちなみに新聞だとかじゃ亜人種と書いて、〝ゾンビ〟ってルビが振られてたりしますよね! もう一般化しちゃったんですよ。気がつきゃ広辞苑とかにも載ってたりして、ね?」
「だからって……ゾンビはあんまりだろ。おれ違うし。絶対に。おれのどこが腐った死体だって言うんだよ、この身体のどこか腐っているように見えるってのか?」
沈んださまで身をすくめる先輩を間近でぼんやり眺める後輩くんは、やがてその口元に意味深な笑みを浮かべて続ける。
「ふふ……まあ、一口にゾンビって言っても、世間一般でイメージされるものとはだいぶかけ離れてたりしますよね、この実際の俺たちは? 鬼沢さん、確かにどこも腐っているようには見えないけど、ほんとは身体、ところどころ痛かったりするんじゃないですか? 顔にも出てるし」
「んっ、何が? どこにも怪我なんてしてやしないだろ? なんだよその目? お前に何がわかるんだよっ!!」
不機嫌なさまで、そのくせ今も左の肩のあたりを利き手でしきりとさする鬼沢は、不安げな顔でみずからの身体をしげしげと見回したりする。
どうにもウソはつけない性分なのらしい。
これに何故か訳知り顔でうなずく日下部は、おっとりしたさまでひょうひょうと続けるのだ。
そしてそれがまた、けっこうなぶっちゃけ発言だったりした。
「俺、見てましたから。いやはや、身体中を盛大に噛みつかれてましたもんね、鬼沢さん! あれは完全な致命傷でしたよ。あの場に俺がいなかったらもうとっくにあの世行きでした。まあ、結果こんなことになったのは、俺の責任もちょっとはあるってもので、反省はしてます。結果、取り憑かれちゃったわけですからね、見事に……!」
「??? ……は? なに言ってんの??」
ひどく困惑したさまでその身体ごとこちらに向き直る鬼沢に、これと臆面もなく見つめ合う日下部は、テンションの低いままでのたまう。
「あの日のこと、何も覚えてないんですか? 結構ショックな出来事に見舞われて、あげく命まで失いかけたのに。身体の違和感はその後遺症みたいなもので、言わば動かぬ証拠でもあるんですよ。あなたがめでたく政府公認の認定ゾンビになったっていう?」
「その言い方やめろ! おれはまだ認めてないんだからっ!! それよりもお前、見ていたってどういうことなんだ? いや、記憶があいまいでぼんやりとしか思い出せないんだけど、おれはお前なんか見た覚えないぞ! いい加減なこと言うなよな、ひとをおちょくって……んっ、んん!」
語気を荒げるなり途端に表情を歪めてその場にうずくまる鬼沢だ。
おまけ身体の自由がきかないのか、それきり固まってしまう。
これを平然と見つめる後輩芸人は、おまけ何食わぬ顔でそそくさとみずからの懐から取り出したる何かしらを、相手の眼前に突きつける。
「はい。それじゃ収録にも差し支えるでしょう? アンバサダー、なるしかありませんね。それじゃとりあえず〝回復アイテム〟を渡しておきますよ。これ、しばらく肌身離さず持っていてください。傷ついたあなたの魂魄を、ゆっくりと癒やしてくれますから……!」
「……は? なに、コレ??」
差し出されたものを反射的に受け取ってしまって、そこで困惑することしきりの芸人さんだ。
みずからが手にした、それは小ぶりな長方形の水晶石、クリスタルみたいなものをひどく怪しげに見つめる。
見かけ半透明のガラス片は、その内側から緑色の光をぼうっと放つ、それは不可思議な発光体でもあった。
そう……!
一言で言えば、なんか怪しい。
「いいから持っていてください。魂魄結晶石(クリスタル)なんて一級のレア・アイテムなんですからね! 回復が得意な芸人さん、もとい、知り合いの認定ゾンビ、あ、じゃなくて、公式アンバサダーのおじさんの念が、たっぷりこもっているんですから。そのぶん効果は絶大ですよ」
「は? だから、なに言ってんの、さっきから??」
相手の言っていること、もはやすっかりちんぷんかんぷんで手元の怪しい水晶持てあます鬼沢だ。
ぼさぼさ頭をぽりぽりと掻く日下部は、ちょっとめんどくさげな顔つきして言葉を濁す。
「ああ、だからその、ここから先は、正式にアンバサダーに就任してもらってからですね? でないと機密事項が多すぎて説明のしようがないんですよ。その水晶は特例ですから、他人には決して見せないでくださいね! 魂魄顕現化ブロック・チェーン錬金技術を実現、実装化した〝X・NFT〟だなんて、それこそが国家機密の最たるものなんだから!」
「こ、こんぱく、ぶろっ……? えっくす、えぬ、なんだって???」
いよいよ目が点になるそろそろ中堅どころのベテラン漫才師に、こちらはおなじく若手の漫才師のはしくれの青年は、そこでまた別の何かしらをみずからの利き手に取り出して見せた。
「この際、理論や技術的なところはこのぼくらがどうこう言っても仕方がないことですよ。どうせ理解だなんてできないんだから。それでもアンバサダーになった暁には、その特典として付与されるものでもあるんです。たとえばこの俺のこの輪っかも、そのひとつですから……!」
「え、なにそれ? てか、今どこから出したんだ、そんな大きな金属の輪っかみたいなの?? でもなんかどこかで見覚えあるような……」
およそ頭にはめるヘアバンドくらいの大きさはあるだろう金色の輪っかを、まさしく手品みたいに虚空から取り出した日下部である。
おまけにそれを実際にそのみずからの頭にすっぽりとはめてみせたりもした。
その、イメージ的に中国の有名な昔話にあっただろう、妖怪の主人公が頭にはめていたのとやけに酷似したカタチと色合いには、これにただちに納得顔して大きくうなずく鬼沢だ。
「あ、そっか、それって西遊記のアレじゃん! やたらに毛深いおサルの主人公が頭にはめてたヤツ!! あれって何て名前だったっけ? てか、それじゃお前ってば、サルのお化けに取り憑かれてるの? すごいじゃん! まさしく孫悟空じゃんっ!!」
「え、いえいえ、違いますよ。あいにくでサルじゃないです。でも、アレとほぼおんなじことができたりするんですよ? そう、この頭の輪っかは、この姿のままで亜人種が持つ力を顕在化させることができるんです。つまりは……」
そうしておもむろに、この利き手を目の前にスッと構える日下部だ。
はじめ怪訝にこれを見る鬼沢だが、何もないはずのその手が、そこに何かしらを持っているかの錯覚を覚える。
そこにあたかも透明の物体みたいなものを……?
直後、その瞳が驚きにまじまじと見開かれることになる。
それは真昼の〝怪奇現象〟とでも呼べばいいのか?
結構なことがみずからの身に巻き起こり、ただちに魂消る悲鳴を上げてしまう、それは悲しきリアクション芸人だった。
かくしていまだ、あたりにひとの気配は見当たらず……!
次回に続く――
今にして見返してみると、それなりに面白いように思えるのはやっぱり本人の手前味噌なのか?
カクヨムかどこかで出してさっぱりだったようなw
このなろうで再起するべくがんばりますので、よければご支援おねがいします♡
モデルになった元ネタの芸人さんが誰だかわかればなおさら楽しめるのか?
ここらへんも忌憚のない意見を伺いたいです(^o^)




