第1話:悪役令嬢、追放。そしてカフェ開業宣言
「エリザベート・フロレンティーナ。君との婚約を、ここに破棄する」
──それが、私の断罪だった。
美しいドレス姿で、玉座の前にひざまずかされる。
私はうつむきもせず、堂々と王太子の顔を見返してやった。
「ふぅん。で、それだけ?」
「っ……君は、マリア嬢をいじめ、貴族としての品位を──」
「いいえ。いじめてなどいないわ。ただ、ちょっと“現実を教えて”差し上げただけよ。頭の中がお花畑だったから」
「……反省の色がないようだな」
「もちろん反省なんてしないわ。私は私のやり方でずっとやってきたし、間違っていたとは思っていないもの。
──それに、貴方の見る目のなさは筋金入りみたいね」
「っっ!」
王子が言葉を詰まらせた。ざわめく廷臣たち。
それも当然。だって私は“悪役令嬢”という役を、きっちり最後まで演じ切ったのだから。
「追放処分とする。王都には二度と足を踏み入れるな」
「どうぞご勝手に。ちょうど空気のいい場所でのんびりしたいと思っていたのよ。
……王都の空気、あなたとマリア様のせいで、ちょっと臭ってたし?」
「っっっっっ!!!」
──というわけで、私は笑顔で追放されました。
そして、数週間後。
私は辺境のとある村、フィルヴェルにいた。
「ここが……私の新天地ね。あらまあ、見事にボロいわね」
さすが辺境。舗装もされてないし、店なんて一軒もない。
でも逆に言えば、競争相手もいない。
「いいわ。ここにカフェを作りましょう。
王子に婚約破棄されようが、断罪されようが──」
私は、白いエプロンを腰に巻き、手に持った銀のポットを掲げて言った。
「コーヒーは裏切らないから」
毒舌で、皮肉屋で、嫌われ者だった私が最後に選んだのは──
“辺境でカフェを開く”という、第二の人生。
「……さて、やるわよ。村一番どころか、王国一のカフェをね。」