サブヒーロー ハイルの場合
俺は産まれた時からの罪人だ。
魔力が異常な俺が産まれてきたせいで、母は死に、父は誰も目に映らなくなり、兄はいつも泣いている。
だから、ある程度魔力が制御できる様になったら、国の魔法師団に入り、戦場に出た。
いつこの身が滅びても、誰にも迷惑がかからない様に。少しでも、家に償いができる様に……。
だが、しかし、数年経ってもこの忌まわしい身は、滅びなかった。陛下から魔法伯の身分と新しい姓まで賜りそうになったので、過分だと断ろうとしたが、逆に王太子殿下の魔法教師の栄誉まで追加されてしまった。
陛下は本気か? いつ魔力暴走するかもしれないと、魔法師団内でも遠巻きにされてる自分に大切な殿下をまかせるなんて。
殿下も、こんな災いしか産まない身に何故か懐いて下さる。意味がわからない。
その内、陛下からそろそろ嫁を貰ったほうが良いと、縁談を次から次へと押し付けられた。
せっかく陛下が用意してくれたからと、とりあえず1人と会う事にした。この時は、もしかしたら自分にも、陛下達みたいな互いに大切にしあう家族ができるかもしれないと僅かながら期待していた。
まあ、そんな思いを抱いた俺がバカだったんだ。見合い相手は、自分が屋敷を訪れる日の朝にベランダから身を投げようとしたらしい。冷酷非道な俺なんかの嫁になりたくないからと……。
陛下は、その娘と家に罰を与えようとしていたが、やめてもらった。こうなったのも俺が罪人だからだ。俺が悪い。
* * *
悲惨なお見合いから暫くして、王家主催のデビュタントパーティが開かれた。
俺も形式上少しは出ないといけなかったから、顔だけ見せて帰るつもりだった。しかし、何やら視線を感じる。曲の切れ目に、咄嗟に認識阻害の術を発動し、テラスに退避した。そして、テラスには人避けの術をかける。
さあ? これで誘い出せるか??
やって来たのは、白いデビュタントのドレスを着た若い娘。貴族令嬢に化けた刺客か?
だが、彼女が発言した内容は耳を疑う内容だった。契約結婚? この俺と? まさかと疑ったが、彼女の目は本気だった。それに、殿下と同じく自分への嫌悪も感じない。
こんなご令嬢が存在するなんてな。しかも、自分の術を打ち破るくらい魔術が巧みだ。そこらの魔術師団員より、腕が良いんじゃないか?
なんだか、愉快になって、つい馬鹿みたいな要望を許可してしまった。自分は罪人で、誰にも愛されないはずなのに、おかしいな、彼女の熱い瞳から目が離せないんだ……。
* * *
それから、彼女との生活が始まった。最初は契約の間柄だと遠慮していたが、こちらから色々けしかけると、いつも被っている令嬢の仮面を剥がして、あの熱い瞳でこちらを見てくれる。
つい嬉しくなって、悪ふざけをし過ぎてしまうと、彼女のメイドのララに怒られてしまった。俺を恐れずに、意見してくるなんて、彼女の周りは変な人ばかりだな。
驚く事に彼女は、伯爵令嬢だったというのに、まともなアクセサリーもドレスも殆ど持っていなかった。だから、俺の縁談避けとして働いているから、その褒美と称して、色々買ってあげた。こうでも言わないと受け取ってくれないからな。
最初はかなり恐縮して、恐る恐るだったけど。瞳の奥では嬉しがっていたから、良かった。上手く甘えられないのは、境遇のせいなんだろうが、そんな所が可愛い。
また、彼女のおかげで、長年亀裂が入っていた、父上と兄上とも和解できた。まさか、2人があんな思いを持っていたなんて。俺は、産まれて来て良かった存在だったんだな……。
そして、遂には彼女のお腹の中に俺の子供まで授かった。まさか、自分が父親になるなんて、数年前までは考えられなかった。
俺との子を心から愛おしそうにする彼女を見て、天国の母上に、彼女と子供と幸せになる事を誓った。
ああ、彼女と出会えた運命に感謝を!!
* * *
あ? あのクソ義妹がまた手紙をよこして来たって? そんなもの燃やしておけ。今は大事な時なんだ、そんな汚い身勝手な魔力が篭ってる手紙なんぞ、愛しい彼女に近づけるな!
クソデカ感情持ちのヤンデレ気味サブヒーロー、ハイルさん。
実はあの時設定だと言っていた一目惚れは、真実でした。
色々和解できたし、これからはミランダと一緒に幸せになってください。
ただ、加減は覚えてね? ミランダに手を出す輩は、全部抹殺してはダメですよー。




