五話
その後は、ハイル様の屋敷で1年間の婚約期間を経て、無事に結婚した。
打算から始まった契約だったけど、現実のハイル様は小説の何倍も素敵で、しかも少しずつ私にも心を開いてくれた。結婚する時には、なんと押しも押されもせぬ相思相愛の仲になってしまった!
自分が一番びっくりしてるよ。あのハイル様が私に甘い言葉を吐いてくるんだよ? 推しが!! 私の心臓が持たないよ!
一番決定打になったのは、ハイル様の父親とお兄さんとハイル様が和解できた事かな?
お義父様とお義兄様に初めて会った際に、何だかハイル様への態度が引っかかったのよねー。なんか、何とかハイル様に接したいけど出来ないみたいなもどかしさ?
それで3人に腹を割って話す様に仕向けたら、なんと父親は当時愛する妻が亡くなったショックで、数年間ほぼ惰性で動いていたみたい。あんまり当時の記憶も無いんだって。
気づいたら、ハイル様は既に10歳で魔法師団に入ってた。それまでは、自分が完全にハイル様どころか兄の方も無視して、機械みたいに動いてたって聞かされてびっくりしたみたい。
気づいたところで、もうどうしようもなくて、2人にどう謝れば良いかみたいな感じだったそうな。
兄は兄で、ハイル様が産まれて母親は居なくなるし、父親はおかしくなるしで、ハイル様に八つ当たり。成長して、ハイル様が悪く無いって分かってからは罪悪感でマトモに話せなくなってた。
ハイル様は、全部自分が悪いと思い込んで、父親と兄が自分を恨むのも当然だと抱え込んで、閉じこもってしまってた。
こんなバックボーン小説に書いてなかったよ?! マジでびっくりした。
とにかく、互いに互いの気持ちを話し合ってもらったら、いつの間にか和解してた。
後で私のおかげで長年のしこりがなくなったと、ハイル様にハグしてもらっちゃった!! 嬉しすぎてつい、失神してしまったよ。ハイル様お手数をおかけしました。
更には、アンジェラについても、私達が結婚した少し後に治療が完了した。元気になったとたん、アンジェラがハイル様に会いにアポ無し訪問してきたけど、うちの使用人に追い返されてた。
いや、身分差わかってる? いくら、ハイル様の妻である私の家族だと言っても、公爵相当の身分である魔法伯の家に、伯爵家の令嬢がアポ無し訪問できるはずないじゃん。
体調が良くなっても、頭が一気に良くなるわけないかー。今まで、体調悪いからって言って、勉強もマナーもサボってたもんねー。ワロスワロス。
というか、貴女の運命の相手は王太子でしょう? 幾らサブヒーローとは言え、私の旦那様に手を出さないでくれます?
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更に一年が過ぎ、物語の転換期、アンジェラのデビュタントの日がやってきた。私はとある事情から、このパーティに参加できなかったが、参加したハイル様から当日の話を聞いた。
アンジェラは確かに美しく、人目を引いていたが、物語の通りに王太子は一目惚れしなかった。
何故かと聞いたら、師弟の関係だった王太子とハイル様、ハイル様の電撃婚約に興味を示さない訳がなく……。
私の事情を知った王太子は、我が家の両親と使用人、ついでに病弱とはいえ、あんな偏った状況に疑問を抱かず、利益だけを享受し続けたアンジェラにドン引きしていたそう。
そのため、幾ら見かけが綺麗でも、アンジェラに惹かれるわけもなく、順当に同じくデビュタントを迎えた公爵令嬢とファーストダンスを踊った。
その後、王太子と公爵令嬢が談笑している所に、マナーを知らないアンジェラが突撃。公爵令嬢をバカにするような発言をした上で、王太子に話しかけようとした。
王太子は、なんて無礼な! と大激怒。アンジェラは両親と一緒に連れ出されたそうな。
うっわ、何してんのあの人達。小説の中のアンジェラってそんなにバカだっけ? あー、だいぶお花畑な頭ではあったかな? 他の令嬢に嫌味を言われても何のことかわかって無かった感じだったし。
あと、家ではここぞとばかりに甘やかされてたからなあ。小説だと、最初から王太子が自分を甘やかしてくれたから、騒がなかったけど、自分が一番じゃ無い状況になったら、暴走したのかなあ。
……治療は1年ほど前に終わってるはずだけど、教育はどうしたのさ。
まあ、もうそんな事考えなくて良いか! 私には私を大切にしてくれる、ハイル様、私を大切にお世話してくれるララ(こちらも魔法伯家の庭師と良い仲になってるみたい!)、そして優しい魔法伯家の使用人の皆さん!
みんなに囲まれて幸せだ!
それに、これからは……
「ミランダ、こんな所にいたのか、あまり身体を冷やすな。もう、お前だけの身体じゃないんだぞ」
「ごめんなさい、ハイル様。ちょっと物思いにふけっておりましたの。いま、中に入りますわ」
「全く。ほら、ケープだ、肩に掛けておけ。それにしても、いまだに信じられないな、こんな俺に愛する人どころか、子まで出来るなんてな……」
「あらあら、また暗くなってますの? ハイル様は素敵な方だって、最初から言っておりますのに。そんな調子では、お腹の子供が産まれたら、どうなるのやら。情けない姿は見せないでくださいましね。愛しい閣下?」
「ふふっ、手厳しいな。仕方ない、愛しい君のためだ、カッコいい父親になってみせるよ」
そう、私がパーティに参加出来なかったのは、妊娠中だったから。もう、来月には産まれる予定だ。
もうすぐ3人家族になるんだ。推しのハイル様とこの子と、絶対に幸せになってみせる! もう、小説のストーリーは無くなってるんだから!
* * *
拝啓、前世の自分へ
信じられないかもしれないけど
私は、今、推しと結婚して
子供までいるよ!
幸せいっぱいだから心配しないで!
モブのミランダより