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三話


 あれから月日は経ち、私は18歳になった。この日までに、出来るだけ勉強もマナーもダンスも必死に身につけた。魔法の訓練だって、通常の令嬢の範囲を超えて訓練した。


 それは、全てこの日のため!


 デビュタントのドレスは、白のシンプルなドレス。これは、私に無関心で出来るだけお金を使いたく無い父親に執事さんが必死に頼み込んでなんとか用意してもらえた物。


 目の前にいる、久方振りに目を合わせる父親は、渋々と言った風に私のエスコートをしている。


 ちなみにさっきからぶつぶつと「早くアンジェラと一緒に来月の誕生日会の打ち合わせをしたいのに、こんなどうでも良い事で手を煩わせおって、全く1人でも良いだろうに、執事のやつめ小煩い……」とか呟いてますけど、全部聞こえてますよー。


 普通、実子でしかも長女のデビュタントをエスコートしない貴族とか居ないですから。1人で行けとか馬鹿じゃないの? そんな事したら、家そのものの評価が下がりますよ? あと、来月のアンジェラの誕生日会ねぇ? 私の誕生日は毎回忘れて何もしないのに、アンジェラのだけは、毎回盛大にやるもんねー。早く行きたいよねー。わかるわかるー。


 私も早く目的を達して、こんな苦行はさっさと終わらせてやんよ。



 デビュタントで一通り踊ったあと、私はターゲットがテラスに移動したのを確認した。


 疲れたので少し休んできますと、周りに言い訳をして、私も同じテラスにこっそり移動する。


 テラスに居たのは……




 月の光に照らされて眩く煌めいている、顔を覆い隠すくらい長いプラチナブロンド。髪の間から微かに見える、理知的な金色の瞳。身体に羽織るは、国一番の魔術師の証である紫のローブ。


 ハイル・アランケル魔法伯だった。



* * *



ハイル・アランケル魔法伯


 恋愛小説「甘い恋は突然に」のサブヒーロー。


 フォンテル辺境伯家の次男として産まれたが、その際に母親が亡くなり、父親や兄とは不仲。更には、王族をも凌ぐ魔力を持っており、成人前から魔法師団に入り、魔物討伐などで戦果をあげる。


 陛下からその功績を称えられ、魔法伯の称号とアランケルの姓を賜る。


 しかしながら、生まれやその強大な魔力が災いし、周りからは畏れられて、忌避される。


 ずっと孤独に生きていたが、病が治ったアンジェラが王太子の誘いで城に来る様になると、アンジェラと交流する様になる。天真爛漫なアンジェラに癒され、初めての恋をするが、アンジェラと王太子の為に身を引く。


 最後は王太子を狙った他国の刺客から、2人を庇って亡くなってしまう可哀想なキャラだ。


 ぶっちゃけ、前世の私の推しだった。ビジュアルが好みだったのもあるが、余りにも切なく、あまりに悲しい過去と最期に何度涙したか。



* * *



 さて、この人こそが私の今日の目的にして、私の家出ができるかどうかのキーマンだ!



「誰だ?」


 彼が声をかける。うっわ、声もイケメンだ!!


「申し訳ありません。まさか、アランケル魔法伯閣下がいらっしゃったとは気づかず、失礼いたしました」


「ふんっ。下手な言い訳はよせ。パーティ中、ずっと私の方を見ていただろう? 私の使った認識阻害も人避けの術も解除してくるとは、相当な腕前だな。一体何の用だ? 私を殺しにでも来たか?」


 おっと、流石国一番の魔術師。私の浅はかな誤魔化しは通用しないか。なら、直球勝負だ!!



「いいえ、閣下を害そうなどと恐ろしい事は、考えておりません。恥ずかしながら、閣下に一つお願いがございまして」


「お願いだと?」


「はい。……どうか、どうか私と契約結婚していただけませんか!!」


「はあ?!」


 ポカンと間抜け顔になったハイル様。あー、そんな顔も尊い!




「なるほど、纏めるとお前の家では病弱な妹のみが優先され、お前はほぼ放置状態だと。そんな家を出ていきたいから、俺と契約結婚したいと?」


「はい、そうですわ。聞けば、閣下も最近縁談を大量に押し付けられていて、大層迷惑されているとか? しかも、仕方なく会ってみれば、相手のご令嬢は閣下を拒否して自殺未遂までする始末。色々お噂はお聞きしておりますわ」


「ちっ、王家が色々うるさいだけだ。そこまで分かってて、どうして俺みたいないつ魔力暴走しかねない、冷酷無慈悲な奴を契約結婚相手に選ぶんだ。伯爵令嬢なら、もっと良い相手が釣れるだろう?」


 少し悲しそうな顔をして、冷たい言葉ながら私を気遣って下さるハイル様。優しくて、素敵!!



「私、誰でも良いわけではありませんわ。救国の英雄にして、お優しい閣下だからこそのご提案です! もちろん、閣下の名を悪用したりはしないですし、閣下に愛する方が出来ましたら、キッパリ離縁してくださって結構ですわ! 如何でしょう?」


 そう言って、ハイル様の目を決死の覚悟で見つめる。ここでなんとか契約してもらわないと、将来の王太子妃になるアンジェラに対抗できないのよ!


 この歳まで色々学んで考えたけど、マジでハイル様くらいのビッグネームじゃなければ、例え別の家に嫁いでも、連れ戻されるか、アンジェラの尻拭いを押し付けられる可能性があるのよ! 


 修道女や平民になることも考えたけど、あの家とアンジェラの為にそこまで私が自分の地位や権利を捨てたく無い。それは最後の手段だ。


 果たしてハイル様の返答は……?


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…エスコートなしで家の評判を下げても良かったような?
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