一話
過去作にブクマ、評価を沢山いただき、ありがとうございます。今回は、不遇な立場の少女が幸せを掴む話をテーマに書いてみました。
主人公は、今にも折れそうな可哀想なご令嬢として、表現したかったのですが、何故こうなった?
拙い話ですが、温かい目で見て頂ければ幸いです。
こんにちは。私はミランダ・ハーレイル。ハーレイル伯爵家の長女にして、ただいま5歳です。
なんで5歳で、こんなに流暢に自分の事を説明出来るかって? それは、ついさっき唐突に前世の記憶が戻ったから。
私の前世は日本の普通のOLだった。多少、恋愛小説や漫画が好きだったくらいで、これといって特筆するような事もない、平々凡々な人間。そんな私が、なぜ、いきなり異世界に幼女として転生しているかは不明だ。
ただ、この状況はよろしくない事はわかる。なぜなら、私、誰も居ない部屋で一人放置されてる……。
いや、私まだ5歳だよね? しかも記憶が確かなら伯爵令嬢よね? なんで、放置されてるの??
ミランダとしての記憶を必死に辿ると、この状態は今日だけじゃなく、物心ついた時からのようだった。最低限の衣食住は世話をされているようだが、メイドが来るのは世話をする短い間だけ。食事も目の前にドン! と置いたら出ていき、暫くしたら回収に来るだけ、話も殆どしない。
両親に至っては、ほぼ見た事すらない。たまに来る執事や家庭教師だけが、数少ない話し相手のようだった。うっそでしょう? どうなってるの??
とりあえず、情報収集をしたいが、ドアノブまで手が届かない。これは、メイドが来るまで待つしかないな。
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暫くして、メイドが昼食を持ってきた。その際に、声をかけてみた。
「ねぇ? お母様は?」
「はぁ? いきなり何ですか? 奥様ならアンジェラ様のご看病をされてるに決まっているでしょう? ほら、さっさと食べてください。片付けに来るまで食べていなかったら、そのまま下げますからね!」
そう言って、ドアをバタンっと閉めて出て行ってしまった。
あれが仕えている家の令嬢に対する態度? 私が知ってるメイドって、基本的にお仕え先の家族には敬意を払っているものでは? あれ、良いの??
しかも、アンジェラ様だって? なんか聞き覚えがあるぞ? アンジェラ・ハーレイル? あっ! 恋愛小説「甘い恋は突然に」のヒロインの名前では?!
前世で読んだ恋愛小説「甘い恋は突然に」。確かかなり人気で、私も大好きだった。小説の中に当時の一番の推しも居た。今度マンガ化する話が出ていて、テンションが上がりまくっていたものだ。確か、詳しい内容は……
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ヒロイン、アンジェラ・ハーレイルは、ハーレイル伯爵家の次女として産まれた。しかし、幼い頃から病弱で、少し動いただけでも熱を出してしまう。
アンジェラは、ずっとベッドの上で、寂しく窓の外を見つめるしかなかった。
幸い、両親は優しく、アンジェラが寂しい思いをしない様にと、様々な物を買ったり、話したりしてくれる。お医者様も頻繁に呼んでくれて、熱を出したら、ずっとそばに居て看病してくれていた。
そんな治療や看病が功を奏したのか、18歳のデビュタントの歳になると、どうにか短時間なら歩ける様になった。
そして出かけた運命のデビュタント。
同じく社交界デビューを迎えた王太子殿下にアンジェラは見そめられる。そして、王太子の伝手で希少な治癒魔法使いを派遣してもらい、遂に完治する。
初めて自由に外を歩く喜びを知ったアンジェラ。優しい王太子と陽の光当たる場所で逢瀬を繰り返し、少しずつ距離を縮め、最後には幸せな結婚式を迎える。素晴らしいハッピーエンド!
* * *
……これが、小説の大まかな内容だ。さっきメイドがアンジェラの看病を母がしていると言っていたし、多分、今いるのが小説の舞台で間違いないだろう。
ただ、ミランダなんてキャラいたっけ? まあ、ヒロインが次女なんだから、長女はいるのか。でも、小説内でミランダの名前や存在は書かれてなかった気がする。
え? まさか、小説でぞんざいな扱いだったから、この世界でもぞんざいなの? まっさかー?
……マジ?