其の一 有る筈の無い棚番号・・・
「1-301-012・・・って、どこだ?」
右手にハンディを持ち、使い古して、くたびれ果てた小型の折り畳み式のダンボール箱を左の小脇に抱え、
商品がひしめき合ってる鉄製の棚の間を、大人一人がやっと通れそうなスペースを、まるで今年の干支の
巳の如く、俺と同じ様に、ハンディのスマホよか小さな画面を見ては、首を傾げて悩む白髪が
混じった長身の、Z世代には分からんと思うが、小学校時代に何故か運動場の体育道具置き場のプレハブ
小屋の端にポツンと立っていた、トーテム・ポールみたいに細いオッサン(自分も60に手が届く歳なのだが)の後ろを、
「失礼」と短く言って、棒切れみたいなオッサンの背後を擦り抜けた後、
「あ、ココかよ・・・」
とひとりごち、画面を見直して、棚の商品を取った俺は、軽く舌打ちを。
「・・・・・ったく」
バーコードをスキャンし、その ”アダルトDVD"を箱に入れ、次のエントリーの棚へ。
経験者はご存じだが、知らない輩に説明すれば、俺は今、ピッキングの単発
バイトをしており、この倉庫には主に、発売間近のCDやDVD等の商品を取り扱ってて、
ハンディの画面に記された、棚版と、よくよく目を凝らさなければ読めないカナ表示の
商品名を頼りに、細長の台車をあちこち移動させ、その棚番に近い場所に、白枠で囲った
ラインに台車を止め、後はひたすら棚番目指して商品をゲットし、全ての商品を取り終えたら、
その数に合う規定の配送用のダンボールに詰め込み、総数を確認後、各配送業者のレーンへ。
説明が簡単もしくは単純過ぎて理解出来なければ、一度 ”黄色いワンちゃんマーク”のバイト
アプリで経験すべし。
さて、次の棚番へ向かう為、俺はハンディの画面を見る。
「・・・・・!?」
ハンディ片手に、台車を右往左往に無言で移動し続けてる、バイトと派遣さん達には目もくれず、
俺は画面を見て
(故障・・・・・バグったのか?」
その画面には数字の棚番もカナ表示の品名も出ておらず、
「XXX-Z-THE-END-www」
としか記されてなかった。
「あの、すみません」
丁度、俺の前を通り掛かった、赤いブルゾンの茶色でセミロングの若い責任者に声を掛けた。
が、かなりハッキリとした声を出したにも関わらず、俺の方も見もせずに急ぎ足で通り過ぎて
行った。
(スルー・・・いや、シカトかよ!!)
かれこれ、この現場には応募してから10回は来ており、俺にとっては言わば ”宝物の宝庫”と
言っても過言ではない、このバイトにすっかりハマってしまい、それ故にかなりの人気で、お気に入り
登録をしてもすぐ締め切られ、数週間振りにようやっとリクエストが来たので、即申し込んだ。
但し、誰でも出来る単純作業の部類のせいか、初心者と俺みたいな ”ベテラン”が入り混じってるので、
久々に来た俺の顔など覚えてないのかと。
(・・・・・行ってみるか)
そう思いつつ、再びハンディのちっこい画面に、やはりアルファベットしか出ていない文字を確認
してから、その ”有りもしない謎の棚番”へ。
(けど、どう行ったら・・・)
そんな事を思った途端、宝探しに夢中になって、同業の連中が駆け回ってる最中の現場に立っている
俺の身体を、突然持っていたハンディの画面から飛び出した(という表現で良いのか?)、
まるでオーロラみたいな光に包まれ、助けを呼ぶまでもなく、かろうじて
(この光景、皆んなには見えて・・・)
頭ン中でおぼろげに思っていたが、段々と意識が薄れていって・・・
不定期で連載中