第72話「幻でない事」
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ゼロバッドの目の前で、金属の球体――撮影ドローンがふわふわと浮かんでいる。兎にも角にも、先ずは配信を止める必要があった。
一番手っ取り早いのはドローンの破壊だったが――
(――アカン!
自分で恒星法違反が事実だって証明するようなもんや!)
破壊はNG。
だとすれば、ドローン本体をハッキングしての配信停止が次善になるものの――
(――これもアカン!
ドローンの形状からして、恐らく相手はシャルカーズや! あん魚相手に電子戦とか、証券も冷え冷えになるで!)
どうやら、即座に配信を止められる手段は無いらしい。
このままでは違法行為の現場を押さえられた上、ドローンによる質疑応答が始まってしまうだろう。
青目のドローンから、スピーカー越しに声が聞こえ始める……
――じゃあまず、シリアルナンバーを教えてくれるかな?――
――【0BAD】です――
――【0BAD】? もう働いているの? じゃ……――
――会長です――
――会長? あっ……ふ~ん。え、今なんか詐欺やってんの? すごいガッチリ違反してるけど――
――特にはやってないんすけど、恒星法は遵守してます――
――儲けとかある? 今――
――今は無いです――
――営業許可とかは取るの?――
――取った事ありますよ――
――どういう系統が好きなの?――
――そぉ~ですねぇ……やっぱりワイは、王道を征く『放射性廃棄物処理業許可』ですか――
――あぁ放射性処理? でも放射性処理高いでしょ(設備投資)――
――ピンキリですよね(不法投棄)――
――じゃあ、他種族にオアシス論法とかっていうのは?――
―― や り ま す ね ぇ ! (大声)――
――やるんだ?――
――やりますやります――
――ふーん。え、じゃあ例外条項7-β違反――
――ファ!? しもうた誘導尋問!!――
……なんて展開になっても困る。
何とかこの場を切り抜けなくてはならない。
(つまり……答えは①や!
天才商人のワイには、ズバっと反撃のアイデアが閃いたで! それは……『足』や!)
『足』とは――
この絶体絶命の状況で、この天才商人は何をしようと言うのか?
ゼロバッドは謳い上げる様に、浮遊ドローンとヤウーシュに向けて『啖呵売り』を再開した。
「はい、ひとつ聞いてや!
筐体ひとつ用意して、電源ケーブル2本差したらベイに3つのストレージ! ラッチでしっかり止めたらばメモリを4つ差すけれど、5個も冷却ファンは入らない! スロット6つ用意して、だけど手元にゃ拡張カードが7枚だ! 足りぬ足りぬは工夫が足りぬで最後に外部ポートが八 王 子。高周波信号のインピーダンス50よりも、あたしゃビニル絶縁電線が良い! あなたノイズ耐性、わたしゃ高速データ伝送、共にチャタリングを語るまでってやつ! どう、ね? ほら、これで買い手が無かったら、あたし、ヒラグモじゃないけど自爆するつもり! え、ダメか!? チキショウ! ったくねえ今日はしょうがねえ! 貧乏人の行列だあ! まあいいよ、いいっていいって帰んなさい帰んなさい。商売上がったりだ今日はお終いてんてこ舞い――」
ゼロバッドは床の上に広げていた布の四方を摘まみ上げると、乗っている商品を包み込むようにして縛った。そしてそれを『よっこらせ』と肩に担ぎ――
「――という事で閉店ガラガラほなサイナラ」
シャッターを下ろす様な動作をしてから、その場から逃げ出す。
ガショメズの格言にもこう有る。
株価が下落した時はあれこれ思案するよりも、売ってしまうのが一番良い……『三十六計、売り逃げに如かず』と。
◇
≪――という事で閉店ガラガラほなサイナラ≫
それだけ言うと、商品を回収したガショメズが走り出した。
≪ゼ、ゼロバッド会長どちらへ!?≫
≪逃げるんや、って言うか今その名前出すなボケ!!≫
≪お、お待ちくださいゼロバッド会長ォぉ~~!≫
≪だから名前出すなボケェェェ……――――≫
薄暗いメンテナンス通路にそんな声を響かせながら、詐欺ガショメズと、その取り巻きだろう連中が去っていく。
「……」
サトゥーも別段、追跡はしない。
残心しながらガショメズの背中を見送り、通路の角を越えて十分に気配が遠ざかったのを確認してから、肩の力を抜くと息を吐いた。
「フゥーー…………」
どうやら血を見ずに済んだらしい。どちらの血かはさて置き。
近くに浮いていた浮遊ドローンがふわふわとサトゥーに近づいて来ると、スピーカーから声が聞こえた。
≪大丈夫でしたか?≫
「あぁ、大丈夫。一応確認するけど……サメちゃんだよね?」
≪はいっ! あ……あの、思わず乱入しちゃったんですけど、もしかして余計な事しちゃったでしょうか……?≫
「あぁ、それなんだけどね――」
≪はい……≫
深く息を吐いてから、サトゥーが続けた。
「――正直困ってたから助かったよ~~!」
≪良かったです~~!≫
「……そう言えば」
≪はい?≫
サトゥーは目の前に浮かんでいるドローンを見つめながら、ふと思った。
もしこのドローンが『配信中』であれば、配信先に今『自分の顔面』がドアップで映ってしまっているのではあるまいか?
恐る恐る聞いてみる。
「……このドローンって今、もしかして配信してる?」
≪あぁ、さっきのブラフですか?≫
「脅し?」
≪はい! 配信してるってのは嘘で、ただドローン飛ばしただけなんですけど、上手く騙せたみたいで良かったです!≫
「なるほど~! その機転に助けられたよ~!」
≪えへへへ……あ、えっと……今、そっち行きますね……?≫
「うん? うん」
暫くして通路の角、その向こうからテクテクと歩く気配がひとつ。
ドローンもそちらに飛ぶと、角から姿を現した青目のシャルカーズ――サメちゃんの手の平へと収まった。サトゥーもそちらを向いて、サメちゃんの姿を視界に収める。
そして――
「あぁサメちゃ……ヌゥ!?」
――思わず唸った。
サメちゃんの服装が変わっている。
先ほど別れるまでは宇宙港で働いている時の『ツナギ姿』だったが、今は『青いワンピース』姿になっていた。
単色ではなく、首回りの天色――澄んだ空を思わせる鮮やかな青――から、裾へ向かうにつれ深い青であるネイビーブルーへと変化していく。そのグラデーションはまるで深い海へと潜っていくかの様であり、ならば袖や裾の白いフリルは波しぶきがモチーフだろうか。
サメちゃんの眼からトロトロと出ている電弧の青と、天井の乏しい光源を受けてそれでも輝いている銀髪に、その青と白のコントラストは何ともマッチしていた。
そんなサメちゃんを見て、新たに挑む『恋の名探偵』サトゥー。
今こそ放ってみるがいい、乙女を射抜く"正解"の一矢を!
『サメちゃん、どうして服が変わっているんだい?
君はその青いワンピースではなく、保存食を買うべきだったよ!』
――と、言わないだけの。
常識(?)がサトゥーにも残っていました。
サトゥーは言いました。
「良いじゃん! カワイイね!」
◇
『ああああああステーション』の、エリアとエリアを繋いでいる通路。
その風景をサトゥーが見たならば『地下鉄の通路みたい』と言うかも知れない。
そこをテクテクと歩いている各種族の通行人たち。
特に店もなく、立ち止まる用事もない。誰もが無関心に歩き、すれ違う中――
≪~♪≫
――何やら一人の少女が走って来た。
そのシャルカーズの少女――青いワンピースを着ている――は突然、通路の真ん中に鎮座していた細い鉄柱に右手を引っ掛けると、勢いそのままに遠心力でグルグル回り始める。
かと思えば突然ピタッ!っと停止して、何故か自分が走って来た方向へ向けて『ニコォ(◜◡◝)』と笑顔を作った。
「「「……!?」」」
突然の奇行に周囲が呆気に取られる中、やや遅れて次の闖入者が現れる。
≪……!≫
ドドドドド、と走って来たのはヤウーシュ。
そのヤウーシュは、鉄柱に掴まってポーズを決めている少女の手前10m当たりで突然、膝を突くと慣性でニースライドを開始。硬質な床の上を外骨格の膝部分で『ズサー!』と滑りながら――
≪あ、イイヨイイヨイイヨイイヨー!! カワイイヤッター!≫
――と叫びながら、着用しているマスクの目の部分を『ピピピピピ!』と連続で発光させる。写真撮影機能だった。
やがてニースライドが速度を失い、少女の近くで停止する。
目を光らせ続ける怪しいヤウーシュは立ち上がり、角度と位置を変えながら撮影を続行。
≪あ、イイネイイネイイネー! ちょっと横に流し目してみようか! あ、イイヨイイヨイイヨー! よっ、同盟小町!!≫
≪~♪≫
撮影されている少女もポーズを変え、表情を変え、被写体として振る舞い続ける。
暫くすると少女が再び走り出した。
そしてやや離れた位置の壁に両手を突くと、後ろにクイっと腰を突き出し、シャルカーズ自慢の尾をフリフリと左右に動かし始める。
(ちなみにワンピースには尾を通す穴が空いている)
ドドドド、とそれを走って追いかけるヤウーシュ。
少女の手前で今度は『トゥ!』と言いながら跳躍し、天井の配管を掴むと昆虫めいて張り付く。そして上下逆さになりながら、上からの視点で目をビカビカさせ始めた。
≪ヤッターカワイイーー!!
はい笑顔こっち頂戴! あ、イイヨイイヨイイヨー! いいね~今の感じでもう1回! そしたら視線なしの自然な感じで、そうそうイイヨー! 白いフリルがフリフリフリルの陽気!≫
≪~♪≫
暫く撮影されると少女が再び走り出し、ポーズを決めてそれをヤウーシュが撮影して――
そんな事を繰り返しながら、その謎のコンビは通路を駆け抜けていった。
思わず足を止め、その様子を眺め、取り残されてしまった通行人たち。
ようやく我に返ると、徐に目をゴシゴシ擦り、たった今自分が見たものが幻でない事を確認して、思わず呟いてしまった。
「「「何やってんだアイツら……」」」




