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第71話「現実は非常」

これはまだ、銀河同盟が設立されて間も無い頃。

とある怪音が宇宙全域に響き渡っていた。それは――



『かーーーー、ぺっ! そんな話、ワイは約束してないで?』


『かーーーー、ぺっ! アイツが勝手にした約束やな!』


『かーーーー、ぺっ! だから知らんわ、そんな話』


『かーーーー、ぺっ! 済んだやろ。終わりや』



――ガショメズお得意の『オアシス論法』だった。

当時、ガショメズはこのオアシス論法を他種族(アルタコを除く)に仕掛けまくっていたのである。これでは勿論、取引はおろか会話すらままならない。


ついにシャルカーズ、ローディエル、ヤウーシュの種族長達(当時)はブチ切れた。


『いい加減にしてください!』

『このような無体が(まか)り通るか!』

『ブチ殺すぞ(取引は公正であるべきだ)』


種族長3人は肩で風を切りながら、ガショメズの本星へと赴くと十人委員会に対して抗議する。

対応した窓口は言った。


『いま担当に回すで』


そして3人は別のフロアへと案内される。

なのでそこの窓口に抗議した。


『すいませんここが窓口だって聞いたんですけど!』

『いま担当に回すでおーじゃ』


また3人は別のフロアに案内された。

だからそこの窓口に抗議する。


『あのーすいません! 担当は――』

『いま担当に回すであんとす』


また別のフロアに案内される3人。


『すいません! 担当って――』

『担゛当゛に回ずど』


何たる事か……。

これはガショメズの得意技『タラ(タライ)(・ゴー・)回し(ラウンド)』ではないか!


タラ(タライ)(・ゴー・)回し(ラウンド)

宇宙開拓前よりガショメズに伝わる故事成語のひとつ。

かつて存在した(フレーム)製造の『タライ社』は108ものアフターサービス部署を持ち、創業以来『クレーム0件』を達成する優良企業として知られていた。しかしその実態はユーザーからの苦情を108の部署で回し続けた『受理が0件』であり、SNSで真相が曝露されると翌日に倒産したと言う。

(ミンメーン出版『ガショメズの安心サポート列伝』より抜粋)



閑話休題。

種族長3人に対するまさかの対応に、ヤウーシュ種族長が『スンッ……』と無表情になると、抗議を取りやめてヤウーシュ母星へと帰還してしまう。しかも何やら全氏族に召集を掛け始めたらしい。このままではヤウーシュvsガショメズの種族間戦争勃発である。

シャルカーズとローディエルの種族長は『あわわわ……』と慌てて、アルタコの本星へと向かい、アルタコに『助けてタコえもん!』と助けを求めた。


アルタコの種族長は言いました。


『あわわわ……』


――とは言え、何とかしなくてはならない。

急遽、『銀河公正取引恒星法』に新たな条項の追加が検討された。

第213条『メタニューラル責任継承性保全星律』である。



『メタニューラル責任継承性保全星律』

<前略>

第2条『責任の帰属』

・統合グリッド知性によってなされた決定および契約は、その後の部分的分離に関わらず、分離前の全体構成に対して遡及的かつ不可分に帰属するものとする。

第3条『禁止行為』

・統合グリッド知性は、なされた意思決定に対する責任を回避する目的で、決定に関与した構成要素を意図的に分離、排除、または放棄してはならない。

<後略>



簡単に言えば、ガショメズの『かーーーー、ぺっ!』を禁止する条項だった。


だがこれを聞きつけたガショメズが動く。

十人委員会の全員がアルタコの本星に乗り込んでくると、抗議をした。


『嫌やーーーーー!!!』


床の上でジタバタしながら、十人委員会が叫ぶ。


『禁止なんて嫌やーーーー!! オアシス論法はガショメズの伝統なんや! 禁止なんてあんまりやーーー!』


地団太のあまりヘッドスピンまで始めるガショメズ。

しかも10人が同時に行い、それは見事なシンクロナイズド・ブレイクダンスだったと伝わる。


『ぎ、銀河同盟では当事者間の合意は遵守(じゅんしゅ)される必要があります……』

『ぐぬぬ……!』


しかし結局、アルタコを説得するには至らず。

するとガショメズは――


『そっちがその気なら、こっちにも考えがあるで……!』


――何やら不穏な捨て台詞と共に、本星へと帰還していった。

直後、ガショメズ宇宙艦隊に動きあり。


何と十人委員会隷下の最精鋭戦力が、アルタコ本星へ向けて進軍を開始。

慌てたのはシャルカーズだった。


『――何と愚かな!』


動きの鈍いアルタコ常備軍に代わり、シャルカーズは少数ながら即応戦力をアルタコ本星へと派遣する。だが即応部隊が現地に到着した時には、既にガショメズの陸戦兵器や歩兵部隊がアルタコの主要都市に降下した後だった。


――救えるだけ救わねば。

大急ぎで駆けつけるシャルカーズ兵士。

そして目撃したのは、ガショメズ兵士達がアルタコの一般市民に向けて――


『お願いしまーす!』

『ガショメズ伝統文化の保護にご協力お願いしまーす!』


――ビラを配っている姿だった。


何たる事か……これは街宣活動!

アルタコ世論を操作して、オアシス論法の規制を回避しようというガショメズのキャンペーン戦略だった。降下していた陸戦兵器――ではなく街宣車が、大音量でキャンペーンソングを流し始める。


『オアシス♪ オアシス♪ ガショメズ、伝統♪ オアシス、ガショメズ、伝統芸~♪』


議論大好きアルタコ社会はすぐさまこれに反応。

『ガショメズの伝統文化保護について考える会』や『ガショメズ文化の法令適合性を検証する会』などが立ち上げられ、活発な議論が始まった。そんな様子を見ながら『これなら規制されないやろなぁ……』と、単眼(モノアイ)を『ピカァ……』と粘着質に光らせるガショメズ(※笑顔)。


だが予想とは裏腹に、アルタコ世論は規制回避の方向へは向かわなかった。ガショメズが『何でや!?』と原因を調べると、主にシャルカーズのせいだった。

シャルカーズもアルタコ本星へと大規模な部隊を送り込んでおり、彼女らが――


『約束守って明るい社会!』

『公正な取引を守ろう! 基本的価値観の遵守!』


――といったプラカードを掲げながら、各地の主要都市でデモ行進を繰り返していたのである。


このシュプレヒコールにより、アルタコ社会でもオアシス論法規制派だった市民が『信頼崩壊のコスト分析をする会』や『社会的信頼の毀損とその代償について考える会』などを立ち上げ、その活動によりガショメズの世論操作が相殺された結果だった。

そもそもがアルタコ自体『約束は守るべき派』の種族なので、ガショメズは不利だったと言える。


これにガショメズは怒りました。

そしてシャルカーズに言いました。


『何してくれてんねん、この魚ァ!』

『さ、魚!? うるさいこのワーム団子! オアシス論法なんか絶対に規制してやるからなバーカ!!』

『はいバカ~! バカって言った方がバカ~!』

『むっきゃー!』


もともと技術力において拮抗しており、ライバルの様な関係だったガショメズとシャルカーズ。

今回の件でますます仲は悪くなり、ガショメズが丸めたビラを投げつけたり、それをシャルカーズがプラカードで打ち返したりと(※アルタコに怒られるので、互いに決して暴力行為は行わない)、オアシス論法を取り巻く状況は混迷を深めていった。

(ちなみにローディエルは『母星でトラブル(※第54話参照)』との事で議論不参加)


だが解決の糸口は意外なところから(もたら)される。


『……伝統ならば一定の配慮も必要だろう』


ヤウーシュの種族長が規制反対に回ったのだ。


『ヤウーシュさん!?』

『流石は旦那!? ヤウーシュは話が分かるって、前から思っとったんや!!』


このヤウーシュの翻意が決め手となり、オアシス論法の完全規制は回避される流れとなった。とは言え、オアシス論法自体を野放しにする事も出来ない。折衷案として『メタニューラル責任継承性保全星律』に以下の文言が追加される事となった。



例外条項7-β:「統合グリッド知性間相互交流伝統尊重条項」

・本法第7条の規定にかかわらず、統合グリッド知性体同士の交流および取引においては以下に定める条件下において、特定の責任分散行為を歴史的・文化的なものとして認め、これを例外的に許容するものとする。

第1項『適用範囲』

・本例外条項は、取引の全当事者が統合グリッド知性体であり、かつ全当事者が本条項の適用を明示的に事前合意した場合にのみ適用される。

<後略>



つまり、オアシス論法をガショメズの『伝統文化』と認め、『ガショメズ同士』の場合に限りやっても良いよ、というルールが追加されたのである。


目的を達したガショメズ、ひとまず『ヒャッホウ!』。

自分達が被害に遭わないのであれば……とシャルカーズも納得。

ローディエルはアルタコから事後報告され、『はい』と特に異論無し。


そしてヤウーシュは――


余談となるが、どうしてヤウーシュは規制に反対したのか。

これはヤウーシュ自体が『途上惑星保護条約』で禁止されているアルカル星人狩りを"特例"として破っている側であり、『ヤウーシュの伝統は許されて何故ガショメズの伝統はダメなのか』といった具合に、自分達への飛び火を恐れた『政治的判断』であったとされている。

ただし当時のヤウーシュ種族長が胸中を記した一次資料を残していない為、真相は不明だった。





――という歴史的経緯を、ゼロバッドは知っている。


つまり今回の場合、ゼロバッドはヤウーシュ相手にオアシス論法を仕掛けたので『銀河公正取引恒星法』に違反していた。しかもその様子――どこから撮影されていたか不明だが――を、目の前に浮かんでいる浮遊ドローンは外部に生中継していたらしい。


これは非常にマズい。

特にアルタコが見ていた場合、物凄くヤバイ。


ゼロバッドは考える。


(そ、そこで問題や!

 あのドローンに撮られながら、どうやってこの状況を解決するか?)


3択――ひとつだけ選びなさい。


(答え①、天才商人のワイは突如、反撃のアイデアが閃く。

 答え②、親衛隊が何とかしてくれる。

 答え③、どうにもならん。現実は非情や)

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①29999体がフュージョンしてスーパーガショメズ0になりスーパー論破波で仲直りする。 まぁ冗談はさておき④明後日の方から新しい問題が襲ってきて有耶無耶に一票 ヤウーシュも上の方は意外と理性的なのか…
>シャルカーズとローディエルの種族長は『あわわわ……』 >アルタコの種族長は言いました。『あわわわ……』 ヤウーシュとガショメズ以外の種族は胃が痛いw >自分達への飛び火を恐れた『政治的判断』であっ…
正解は①しかないと思わせて実は②なんだよね いなくなってはじめてわかるんだよね、親衛隊のことを好きだってことが… そしてサトゥーの敗因は自身が吸血鬼化したことに気づかなかったこと… 皮肉にもアヴドゥル…
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