第70話「見ている前」
誤字報告ありがとうございます
"今度転生するんだけど、どの種族を選んだらいいか分からない……"。
なんて事ありませんか?
今回はそんな皆様の為に~! 来世の貴方にピッタリな種族が分かる! 質問に答えるだけで、簡単にお薦め種族が分かっちゃうQ&Aをご用意しました!
早速やってみましょう!
Q:自然が好き
A:はい → 自然との調和……『ローディエル』がお勧め
Q:戦うのが好きだ
A:はい → 戦い続ける喜びを……『ヤウーシュ』がお勧め
Q:哲学が好きだ
A:はい → 終わりなき思索の旅へ……『アルタコ』がお勧め
Q:何か作るのが好き
A:はい → 生まれついてのエンジニア……『シャルカーズ』がお勧め
転生先の種族は決まって……え? ガショメズの紹介が無い?
……止めておきなさい。
あれを選んではいけない。これは貴方の為に言っています。
え、それでもガショメズが良い……?
そうですか……。
私は止めましたからね。
それでもガショメズが良いと言うのなら、貴方の希望です。
それを叶えましょう――
――――――
――――
――
――光が見える。
『あなた』はガショメズへと転生した。
だがミミズめいたガショメズは碌な記憶細胞を持っていない。
『あなた』は前世の記憶、そのほぼ全てを失った。
もう何も覚えていない。
何も分からない。
きょうから、いっぴきのガショメズとして いきていく
ひかりがまぶしいよ つちにもぐる
つちをたべよう おいしいね うんちをするよ
いっぱいでたね
わーい
まい
に
ち たの
し い
な
――おや?
突然、『あなた』は知性を得た。
何とも運が良い。
どうやら『あなた』は拾われ、体を得て活動している『ガショメズ』の内部、その一部として神経ネットワークに参加させてもらえたようだ。
だが残念ながら、これはゴールではなくスタートに過ぎない。
『あなた』は3万体のガショメズによって構成される『統合グリッド知性』の一部でしかなく、自由に思考したり体を動かしたりする事は出来ない。例えるならば企業に入社したばかりの平社員であり、とても"経営方針"に口出しできる立場では無いのだ。
だが『あなた』は頑張って出世競争を勝ち抜き、何とか『社長』にまで上り詰めた。
これでようやく主体的に"経営方針"に口を出せるので、思ったことを口に出したり、体を動かして何処かへ移動する事が出来る。
さぁ、やっと準備は整った。
『ひとり』のガショメズとして経済活動をしなくてはならない。
交易種族として会社を立ち上げ、他の企業を出し抜き、時にヤウーシュを騙し、だがアルタコにはペコペコし、或いはシャルカーズと鎬を削って、頑張ってお金を稼ぐのだ!
いっぱい稼ごう。
稼がなくてはならない。
『あなた』は常に狙われている。
2万9999匹のライバルが、常に『あなた』から体の主導権を奪い取ろうと虎視眈々と狙っている。
だがある日、『あなた』はミスをしてしまう。
交渉を有利に進めようと吐いた嘘を、相手に録音されてしまったのだ。
確たる証拠を押さえられては反論も出来ない。
これでは稼げない――
――その瞬間。
『あなた』は体の感覚を失った。
体の中に居る2万9999匹に"損"をさせたとして、彼らの総意により神経ネットワークから切り離されてしまったのだ。
「かーーーー、ぺっ!」
『あなた』は体外に吐き出されてしまった。
――光が見える。
1匹に戻ってしまった『あなた』は、記憶を留めておく事が出来ない。
『あなた』は今までの記憶全てと、そして思考力を失った。
何も分からない
かんがえられない
ひかりがまぶしい
つちにもぐろう
もぐれない
ここはかたい
まぶしい
まぶ(ムシャ
どうやら小動物が近くにいたらしい。
『あなた』は抵抗する間もなく、一口で食べられてしまった。
『死』である。
――って事になるよ!
正直無理ゲーだね! 神頼みってレベルじゃないよ!
だからこれを読んでいる皆は、転生先の種族にガショメズを……選ばないようにしようね!
◇
サトゥーは考える。
(まぁ……分かる)
ガショメズはガショメズで大変なのだろう。
常に体の主導権を奪い合いながら生活し、その上で他の同族ともビジネス上で競い合わなければならない。なるほど、大変である。
(――だから何じゃい!)
しかしそれは、他の種族を騙して良い理由にはならない。
サトゥーは心の中で改めて誓う。こんな詐欺になんて……負けない!
≪あんさんが食べた50コム、早く払ってくれるか?≫
「は? 一向に払いませぬが?」
≪はぁーー……。ヤウーシュの旦那、それは通りませんわ。商品食べといてそれは無いやろ?≫
「はぁ? し、しょ、く。分かる? 試食って言ったのはそっち。それともまた『言ってない』っていうつもりか? また録音データ聞く? ん?」
≪はぁ~。あんさん――≫
座り込んでいるガショメズが、脚部を指先でコンコンと叩き始める。
≪――言葉遊びは止めましょうや。
ウチはもう商品を提供したんや。そんであんさんは受け取った。試しかどうかは関係ないねん。もう契約は成立しとるんや≫
「なにっ、契約が成立してるだと? では辞書で調べてみよう。え~『契約』とは、"当事者間の合意によって法律上の権利義務を発生させる制度"の事だってさ。ん? 合意? いつ合意したっけ?」
ガショメズの叩く指の音が強くなり始める。
≪……あんさん。ウダウダ言ってないで、早く払おか≫
「払わねーよ。っていうか消費期限切れ食わしやがって。慰謝料払うのそっちだろ」
≪……≫
「……」
睨んでくるガショメズ。
負けじと睨み返すサトゥー。
緊迫した雰囲気の中、遠くから足音が聞こえ始めた。
◇
≪なにっ、契約が成立してるだと? では辞書で調べてみよう。え~『契約』とは――≫
ヤウーシュが反論してくる。
それを聞きながら、ゼロバッドは内心苛立っていた。
本来、種族としてヤウーシュは頭の悪い個体が多い。
知能こそ低くないが、母星の外を出歩いている個体は若年である傾向が強く、その社会性故か殆どの場合『教養』というものを持ち合わせていない。だから大抵は理屈で攻めれば簡単に丸め込める……筈なのだが、どうしてか目の前の個体は妙に頭が回るらしい。
だが問題は無かった。
そろそろ引っ越し業務も終わる頃だろう。『親衛隊』を呼び戻せば"勝ち"である。
「……あんさん。ウダウダ言ってないで、早く払おか」
≪払わねーよ。っていうか消費期限切れ食わしやがって。慰謝料払うのそっちだろ≫
会話で時間を稼ぎながら、ゼロバッドは体内の通信ネットワークを経由して親衛隊へと指令を飛ばす。
(お、来たな)
存外近くに居たらしく親衛隊は直ぐ様到着した。
同時にゼロバッドは考える。
目の前にいるヤウーシュは小柄なので、恐らくは『パワー至上主義』が横行しているヤウーシュ社会において碌な成功体験――望みを遂げたり、我儘を貫いたりといった――を積んでいないだろう。そういった個体の性格は臆病かつ卑屈なのが常なので、武力で脅してしまえば簡単に屈服させられる筈である。
(……せやけど慌てたらアカン)
だが妙に頭の回るこの個体を直接的に脅すのは悪手だった。後でアルタコにでも泣きつかれた場合、面倒な事に成りかねない。
勿論、脅す。
脅しはするが、それはあくまでヤウーシュが『勝手にそう受け取った』と強弁出来る形でなければ成らなかった。
(いつもの手や。頼むで)
ゼロバッドは体内通信で、親衛隊の隊長へと指示を出した。
◇
(いつもの手や。頼むで)
(了解いたしました)
体内通信で雇い主から指示が来た。
返信した『隊長』は、手早く隊員たちを所定の場所へ配置していく。
目標のヤウーシュを直接取り囲むと『脅迫』になってしまうので、しっかりと逃げ道は塞ぎつつ、しかし距離を取って、だが通路の角などから此方の姿だけはチラ見せする。大事なのは『お前囲まれてるけど分かってる?』『言う事聞かないと……分かるよね?』という雰囲気の演出だった。
隊長は元傭兵である。
残念ながら商才が無かったので戦場で日銭を稼いでいたところ、幸運にもルンブルク商会会長から直接雇われる事となり現在へと至る。そして今の境遇は結構、気に入っていた。だから失わない為、真面目に職務に励まなくてはならない。
隊長は通路の角から頭部だけ出すと、ヤウーシュを威嚇――単眼を赤黒くビカビカと点滅させて――しながら経緯を見守る。
「ヤウーシュの旦那……優しく言ってる内に、聞いといた方がええんちゃうか?」
丁度、ゼロバッド会長が仕上げに取り掛かるところだった。既に包囲は完了しており、合図があれば一斉攻撃が可能。愚鈍なヤウーシュでも、その『不利』に気付いた頃合いだろう。後は"自発的"に支払いが行われ、無事に『恐喝』不成立でミッション完了である。
だが隊長が見ている前で、ヤウーシュが答えた。
≪――あ゛?≫
お前の商売に誠はあるか
決して揺るがない、ズシンと響く重たいやつさ
そんな脅しじゃ、何をされてもサトゥーには効かねぇなぁ
拳の教科書『シフードのサトゥー』
嘘つきの参考書『ルンブルクのゼロバッド』
詐欺師なミミズはサトゥーに土下座! 俺を無礼るなよ!
次回! 『示談成立』でまた会おう!




