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第69話「オアシス」

誤字報告ありがとうございます

保存食を購入する為、サメちゃんと別行動を始めたサトゥー。

急ぐ旅ではないが、この宇宙ステーションに立ち寄ったのはバリア装置購入の為であり、既に『ああああああ総合展示会』という寄り道をしているので、あまり時間を掛けるのも宜しくないだろう。


「さて……何を買ったものか……」

≪ヤウーシュの旦那! 新鮮なグ ㇷ゚ジヮ入ってるよ!≫

「(要ら)ないです」


時折、客引きが声を掛けてくるもののサトゥーは見た目がヤウーシュなので、つまり見た目がヤウーシュだと言う事は種族がヤウーシュなので(KIZM)、残念ながらヤウーシュ向けの商品しか紹介されない。これがルッキズムか。


「う~~保存食保存食」


そして今、保存食を求めて薄暗い客引きストリートをウロウロしているサトゥーは、アルカルⅢを目指している小柄なヤウーシュの男の子。

強いて違うところを挙げるとすれば、前世が日本人ってとこかナー。そんな訳で少し脇道に入ったアングラな露天商通りにやって来たのだ。ふと見れば、目立つ場所に独りのガショメズが座っていた。


(うほっ……じゃない、バランス栄養食『カプリーメイト』!)


そのガショメズが売ってる商品の中に、サトゥーは自分でも食べられる保存食を発見した。視線に気づいたガショメズがサトゥーに声を掛けて来る。


≪そこのヤウーシュの旦那!

 あんさん運が良いでぇ、今日は特別にお得な一品があるんや!≫

「ほう、特別にお得な一品と……?」


ガショメズの言う『お得』とは大抵の場合、信用ならない。

例えば定価1000円の商品を急に1万円に値上げしてから、それを『90%OFFでお得だよ!』と言いながら販売してくるのだ。殺すぞ。

銀河公正取引恒星法(Galactic Fair Trade Stellar Codex)の『有利誤認表示』を禁じた『性質スペクトル戒律第5条-Ⅱ』違反である。殺すぞ。


≪せやせや、例えばこれ『カプリーメイト』!

 あんさんらが"美食"に拘ってるのは勿論知っとる……せやかて、戦地で必要なのは携行性や保存性やろ? その点、この商品ならバッチリや! 今ならこの量を何と『5コム』の大特価でご奉仕するで!≫

(5コム……!?)


サトゥーは心の中で唸った。

売られている『カプリーメイト』は数食分がパックになったお徳用サイズで、通常なら25コム程度はするだろう。それが5コムという事は市場価格の1/5である。確かに安い。

しかしここで安易に飛びつくほど、前世のジャパニーズ=サラリマン歴は浅くない。


サトゥーは訝しんだ様子で尋ねてみた。


「でもぉ……それだけ安いなら"訳有り品"なんでしょお~?」

≪訳有りだなんてとんでもない! ウチの商品、良品ばかりで結構毛だらけミアキス灰だらけ、皮膚の上にはシリアゲムシってね! ピルセラいぼいぼ、ラプトル20歳(はたち)、イモ虫19歳(じゅうく)で嫁に行くときた! 一度生まれりゃ容易く消えぬ――≫


口上を再開したガショメズが、バリバリと『カプリーメイト』の包装を破き始める。


≪――全部焼いて雇い手なけりゃ、山のレイヴン独立傭兵! さぁ今なら試食も出来ちゃう、どうぞどうぞお一つどうぞ!≫

「む……ではひとつ」


包装を破いて取り出した『カプリーメイト』の欠片がひとつ、サトゥーの前に差し出される。サトゥーはそれを受け取り、口に含んでみた。


『カプリーメイト』は咬合力が500kgを超えるシャルカーズ向け商品なので、レンガ並みの硬さがある。ヤウーシュはそれ以上の咬合力があるので噛み砕ける――のだが、何だが歯応えがおかしい。モニョモニョしている。味も何だかおかしい。


「……消費期限切れてない? これ何味?」

≪消費期限は……ちょっと待ったってな。あー、包装破けてちょっと分からんわ。味は……『ツォペラトル味』ってなっとるな≫

(ツォペラトル味……チョコ風味のやつか)


サトゥーは以前に『ツォペラトル味』を食べた事があった。

端的に言えばチョコレートフレーバーだが、今食べているものは何だか……土の味がする。


(これ絶対、消費期限切れてるだろ……包装破ったのはその為か? やっぱ訳有り商品じゃねーか)


どうやら値段相応の粗悪品らしい。

本来なら別の商品を探したいところだが、そろそろ10分経ってしまう。時間切れでグ ㇷ゚ジヮを選ぶよりかは、この『カプリーメイト』を買った方がマシだろう。ぽんぽんペインならナノマシンで対応出来るし、最悪『やっぱり食えん!』となってもビュッフェ形式ジビエという最終手段がある。


サトゥーは妥協してこの『カプリーメイト』を買う事にした。


「まぁいいや……これにする。電子決済で」

≪毎度ありやで!≫


ガショメズが差し出した端末に、サトゥーも左腕に装着しているウェアラブルデバイスを差し出す。そして支払いを行おうとして――



――左腕をひっこめた。


≪……?

 ヤウーシュの旦那、どうしたんや? まだ支払い出来てないで?≫

「はぁーーーーーーー」


サトゥー、クソデカため息。

そしてガショメズの端末を指さしながら言った。


「何それ」

≪……? 何って、商品代金やで?≫

「そんな事知ってるよ。何で引き落とし額が50コムなんだよ」


ガショメズ当人(?)も端末へと視線を落とす。

金額の表示部分に、確かに『50コム』と表示されていた。

首を傾げながらガショメズが答える。


≪何もおかしないで? この『カプリーメイト』の代金は50コムや≫

「……さっきの"大特価5コム"ってのはどこ行ったんだよ」

≪言ってないで? 最初っから50コムや≫

「あのさぁ……」


サトゥーは内心『まーた始まった!』とイライラしながら、ガントレットを操作する。


ガショメズは、これが多かった。

とにかく直ぐに嘘を吐く。約束は守らないし、条件は後出しにするし、前提を簡単に崩してくる。そしてこうなると『ごねモード』に突入するので、話がまったく進まなくなってしまう。


しかしサトゥーとて、ガショメズとの付き合いの中で対策を学ばなかった訳ではない。裏で動かしていた情報収集機能から、先ほどの音声データを再生させた。


『――らバッチリや! 今ならこの量を何と『5コム』の大特価でご奉仕するで! でもぉ、それだけ安い――』

「はいこれさっきの録音データね。誰が言ってないって? ん? それとも道行くアルタコの誰かに判定お願いするか? お? きっと喜んで『三十六法全書』の電子データ片手に仲裁してくれるぞ? うん?」

≪……≫

「ねぇ今どんな気持ち? 万全の対策取られて今どんな気持ち? インタビューの時間だ、テルミーハウユーフィール!!」

≪……っ!≫


突然、ガショメズが片手を顔面に当てた。

そして単眼(モノアイ)だけしかない『のっぺりとした(フェイス)』パーツを、まるでバイザーをそうする様に上へとスライドさせる。


≪……≫

「……」


至近距離で、『内側』を曝け出したガショメズと、サトゥーが相対する。


サトゥーはガショメズの『中身』を知っているので、今更驚きはない。

だが毎回、見る度に思う事はあった。


(何度見ても……キモイな~)


――大量のミミズ。

ガショメズの『顔面』にあたる部分で、数えきれない程のミミズが(うごめ)きながら絡み合っていた。


『顔面』だけではない。

ガショメズは機械で覆っている体、その内側の空洞全てを『ミミズ』で満たしている。その全てがガショメズであり、つまり歩いているガショメズが1人居れば、その内側には平均で2万から3万匹のミミズがウネウネしている計算になる。


アルタコもヤウーシュもシャルカーズも、進化の果てに知性を獲得した『単一』の生物だが、ガショメズは違う。

ガショメズという種族はミミズめいた『1匹のワーム』に過ぎず、それが集まる事で神経回路を共有して高度な知能を獲得する『統合グリッド知性 (Integrated Grid Intelligence) 』だった。


そしてこの統合グリッド知性――ガショメズは、とある悪癖を持っている。


≪かーーーー、ぺっ!≫


突然、中年のオヤジめいた音を出しながら、内面を曝け出していたガショメズが『淡を吐く』ような動作をする。だが通路脇に吐き出されたのは、痰ではない。


≪ミ、ミー!?≫


それは1匹のミミズだった。

ウネウネとしながら、光を嫌うように排水溝の中へと逃げ込んでいく。

ミミズを吐き出し終えると、スライドさせていたフェイスパーツを元に位置に戻しながら、ガショメズが言った。


≪いやー大変失礼いたしました。

 先ほどは神経個体番号25番がご迷惑をお掛けしたみたいで……。あぁそうそう、お値段の話でしたっけ? 5コムをお約束したのは先ほどの25番なので、値段交渉の続きはアイツとお願い……お願いするで。私……ワイは無関係や。とりあえず、あんさんが食べたカプリーメイトの料金50コム。払ったってくれるか?≫


これぞガショメズの伝統にして必殺技。

数万匹のミミズからなる統合グリッド知性とは言え『統率する1匹』は存在する為、そいつを追放する事で、次に選ばれた『新たな1匹』が『おれは約束してない』『あいつが勝手にやった』『しらない』『すんだこと』というロジックを展開する、頭文字をとった通称『オアシス論法』である。


サトゥーは言いました。


「ころすぞ」

合体した商人みたいなミミズ……ガショメズ!

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― 新着の感想 ―
で、出たー!!ガジョメズのお家芸、ミミズの尻尾切りだあぁぁーっ!!
感想返し見て思ったんですけど >約束守る個体は「かー、ぺっ!」されて淘汰される方向に…… これでぺっされて追放されたミミズ達を三万匹集めたらキレイなガショメズになったりは… もしくは「好みのミミズを集…
前から食事や1体見たら詐欺師が3万匹とか描写はあったけどまさかミミズなのに集まるとナチュラルボーン詐欺師なのか…やったねサトーあと数万回詐欺にあえるよ怒 ミミズ人間みたいなの予想してました。
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