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第68話「百点満点」

誤字報告ありがとうございます

「――つまりこのVOBの登場により、もう待つばかりで退屈だったドッキング完了までの待機時間がゼロに!」


キュイーンの説明は続いていた。


「ですがこのVOBの真髄とは単なる兵器を超えた我らヤウーシュの敢闘精神を表す不撓不屈の精神性を象徴したその方向性でもはや芸術作品と言っても過言ではなく旧来の伝統的な艦隊戦闘の退屈な戦闘形式に一石を投じながらも我らヤウーシュ戦士の勇気が最大限に発揮されるこの革新的な兵器はまさに闘争という場での最も純粋な形での自己表現として全ての戦闘員は戦艦などという巨大で冷たい金属の内部から解放されてまさに燃え上がる闘志めいた炎を抱えながら推進器に直接寄り添った形で敵艦への直接的突入手段とは単なる攻撃システムを超越した究極のヤウーシュ美学に基づいたまさしく生命そのものを武器へと昇華させる崇高なメソッドはやがて全ての種族に闘争とは機械と機械を使った知恵比べではなく血と肉をぶつけ合う魂が発露する場所である事を広く蒙を拓かせる事で彼らもやがて純粋な闘争へと身を投じる事で全ての生命が更なる高みへ至ったそこは闘争が煌めく新世界でその理想郷に先鞭をつけるその礎たらんとするならばたとえ敵の装甲が厚かろうと防空システムが堅牢だろうとだからどうした構っていられるかブチかませ!!VOBに跨る時戦士はただ己の身と槍だけを武器に熱き闘志を携えて壱に突撃弐に突撃三四も突撃伍も突撃で対空砲火が何ぼのもんじゃいチェストVOB!!たとえこの体が撃ち落とされようと誇りある戦士の心までは撃ち落とせませんくっコロ!!」

「あ、そっかぁ」


説明を聞きながらサトゥー、ふと思いつく。


「でも……お高いんでしょう?」

突撃()ってみせ、掴んで引きずりさせてみせ、誉めてや――あ、お値段ですか? 価格は1基あたり250万コムとなっております!」

「財布壊れる」


――高い。

具体的に言うと、それだけ有ればサトゥーは余生を悠々と遊んで暮らせてしまうだろう。


「い、一回突撃するだけで高くない?」

「何を仰います! しっかり本体を回収していただければ、推進剤の補充で何度でも利用可能! とても環境に配慮した持続可能(サステナブル)な突撃になっているんです! しかも今なら何と~~?」

「な……何と……?」


キュイーンが突然、駆け足でエリアの奥へと引っ込む。

そして新たな棚をガラガラと押しながら戻って来た。その棚には何やら、色とりどりのVOBが並べられている。


「――青いVOBに緑のVOB、それに紫VOBも! 何と7色から選べちゃう! お気に入りのカラーでお洒落に突撃しよう!!」

「わ~い! ボクは青が好き!」

「それだけではありません! 今ご契約いただければ特別に~~?」

「と……特別に……?」


キュイーンは再度エリアの奥に引っ込むと、また別の棚をガラガラと押しながら戻って来る。それには通常の2倍の長さと太さを持った、真紅のVOBが乗せられている。


「試験開発したこの"通常の3倍推力"を誇る特別仕様VOB『ザ・クリムゾン』に無料アップデートできちゃうんです!」

「な、なんだってェ~~!?」

「しかもお値段は半額の125万コム、はキリが悪いので120万コムでご奉仕!! 今なら月1万コムの120回払いも出来て分割手数料はYMCAが負担!!」

「Oh! My!」


サトゥーが目元を抑えながら天を仰ぐ。

そして返した。


「おいおいキャサリン――」

「キュイーンです」

「――君はどこまで僕を興奮させる気だい? だけど君の事だ……お得情報はそれだけじゃあ無いんだろう?」

「それは勿論! 今ご契約いただけるお客様限定で、何と何と――」

「何と……?」


キュイーンがエリアの奥へと走る。

そして持ってきたそれを『ザ・クリムゾン』の横へバーーン、と置きながら続けた。


「――黄金に輝く、この『ゴールデン・イヤーペイド(※通常版』が無料で付いてきちゃうんです!!」

「えっ!!? この黄金に輝く『ゴールデン・イヤーペイド(※通常版』が無料で!?」

「そうです無料で付いてきちゃうんです! 宇宙に輝くこの『ゴールデン・イヤーペイド(※通常版』でライバルに差を付けちゃおう! こんなお得なチャンス滅多にありません! さぁ今すぐご契約を!!」

「(契約はし)ないです」

「しないんかい!!」





「ご契約ありがとうございました~♡」

「……」


ヤウーシュの出展エリアを後にするサトゥー。


サトゥーは結局、キュイーンの営業トークに負けて通常の3倍推力VOB『ザ・クリムゾン』と、それに無料で付いて来る『ゴールデン・イヤーペイド』を購入させられていた。とは言え、流石に120万コムも支払っていない。そんなお金があったらサトゥーは隠居して暮らす。


キュイーンの営業努力により、本体価格をキャンペーン増し増し特典ダブル特約カラメにより『1コム』にまで圧縮。更に『使用する"その時"が来るまでYMCA側の倉庫で責任を持って保管する』という条件まで提示された上、『お願いします販売実績を作らないとマズイんです助けると思ってェ~』という泣き落としまでされた為、『まぁ1コム程度なら……』とサトゥー側も妥協。正式に契約を交わし、『ザ・クリムゾン』と『ゴールデン・イヤーペイド』は晴れてサトゥーの所有物になっていた。

これだけ見るとYMCAは120万コムの売り上げを逃した様に見えるが――


(ぬぅ、YMCAめ……存外に侮れぬ!)


――前世ジャパニーズ・サラリマンのサトゥーは、恐らくその裏にあるであろうカラクリを何となく推測出来ていた。


確かに120万の売り上げは消えてしまったが、1コムとは言え実績は実績。

超絶値下げ無くしてサトゥーが購入しなかった事を考えれば、そもそも倉庫に死蔵させておくよりかはマシだろう。さらにサトゥーという『生きた広告塔』がVOBを使ってくれるのなら、どこぞの宇宙ステーションで下手な広告を打つより高い宣伝効果も期待出来る。


例えば――


『やぁ戦士サトゥー! 何やら情熱的な兵器を持っているね。それは何だい?』

『あぁ、これかい? これは軌道偏向突入体――VOBと言って、YMCAが開発した非常に先進的な兵器さ! 君は今すぐにYMCAのホームページをチェックするべきだよ!』

『分かった、すぐにチェックしよう。どれどれ……あぁ、何て素晴らしいんだ! 今なら7色から選べてしまうなんて! 僕はこのキャンペーンを見逃す事が出来ないよ!』


――なんてやり取りから、売り上げに繋がるかも知れない!


そもそもこういったマーケティングは、本来なら拡散者(インフルエンサー)に対して報酬を支払って『依頼』する案件である。それをYMCAは、何とたったの1コムで『カラーテのサトゥー』にお願いしてしまった――という見方をする事だって出来る。等々を考えれば、驚異の99.9999%オフだって決して無駄とは言えないだろう。

仮にそういった目論見が裏にあったのなら、頭ヤウーシュとは言えヤウーシュインテリ層も意外と頭脳明晰なのかも知れない。知性バンザイ。


ただし、ひとつ計算違いがあるとすれば……


(確かに俺は3倍VOBとゴールデン拡声器を購入した。

 そして『使う時』が来るまで、YMCAの倉庫に預けるという約束もしている。このサトゥー……嘘は言わない。確かに使う……! 使うが……まだ『その時』と場所の指定まではしていない……! つまり……! 俺がその気になれば、使うのは30年後40年後という事も可能……! そういう事……!)


何たる悪魔の智謀か。

サトゥーは知恵比べにおいてヤウーシュインテリ層、その上を行ったのである。知性バンザイ。


(って言うか、誰が使うかあんなモン……!

 あんなバカの兵器……! 何が悲しくて戦場で自分の位置を知らせなきゃいけないんだ……! 能動的な自殺じゃないか……! 冗談じゃない……! いや、ゴールデン拡声器の方はまだ良い……! いや良くは無いけど、まだマシ……! VOB……! あれはダメ……! 完全なるバカ……! 圧倒的クリムゾン……! 使わない……! 勿論、当然使わない……! 圧倒的永年不使用……! 永遠にNo……! )


サトゥーは拳を握りしめながら誓った。


(俺は使わないぞ……! ぜーーーーったいに、使わないんだーーーー!!)






………………。



…………。



……。



――さて。


ここまでお読みの読者諸賢におかれては、薄々お気づきの事と思われるが……。


……『使う』。


サトゥーは"通常の3倍推力"を誇る特別仕様VOB『ザ・クリムゾン』と、黄金に輝く『ゴールデン・イヤーペイド』を……『使う』。

ここまで丁寧に紹介しといて、使わないなんて事有る訳ないよなぁ?


『ほげぇぇぇぇぇ!!』と言いながら、最前線。

猛烈な対空砲火を撃ちだす敵戦艦目掛け、VOBによる総攻撃を仕掛けんとするヤウーシュ戦士団、その最前列でサトゥーは、金色のイヤーペイドを背負い、深紅の3倍VOBに跨って、栄誉ある一番手として突撃を敢行するハメになるのだが――


――そんな少し先の未来を、今のサトゥーは知る由もない。





「ふー、何か疲れたわ」


展示会を見て回ったサトゥー。

そろそろ良い頃合いだろう。そう思ってV-TECHの試乗エリアに戻ってみれば、ちょうどサメちゃんの『フェルムネブラ』が帰還したところだった。片膝を突く駐機姿勢になり、うなじの部分が開放されるとサメちゃんが降りて来る。


『流石だな戦友』

『やるじゃねぇか!』

『けっ、調子付くんじゃねぇぞ』


周囲に居た野次馬たち――戦況モニターを眺めていた――から、一斉に賞賛の言葉が投げかけられる。照れながらもそれに応えていたサメちゃんだったが、サトゥーの姿を認めると一礼してから切り上げ、てててーっとサトゥーの方へ駆け寄って来た。


その表情を見れば聞くまでも無い事ではあったが、サトゥーは尋ねてみる。


「お帰りサメちゃん。楽しかった?」


サメちゃんが答えた。


≪――はいっ!!!!!≫


元気いっぱい二重丸のお返事だった。百点満点。

展示会終わり

バリア装置買いいくどー!

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― 新着の感想 ―
VOBはともかくイヤーペイドもいるんだ...
まぁ買うだろうなと思ったが、YMCAからしたら今をときめくサトゥーに使って貰えれば十分って感じだろうなぁ。 そして、実際一番槍として使うみたいだしw サメちゃんは楽しめたか。なら良かったねぇ。
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