第59話「しかも早口」
文章量の割に話進んでませんゴメンチャイ
しびびびびびびっ。
眼から大量の電弧で、サメちゃん絶好調。
「――元々、大型艦艇には装甲の補修や物資運搬目的でモジュール式軌道建設用外骨格スーツ(Modular Orbital Construction Exosuit)通称MOCEと呼ばれる作業用ロボットが搭載されていたんですが要はこのモースに砲台担がせれば良いよねという話から始まって突撃する為の機動力やら対空砲火から身を守る為の防御システムやらが拡張されて現在のV-TECHの形になったんですそして運用母体となる戦艦の方も砲撃戦の為の区画を小さくしてV-TECH搭載機数を増やす方向にシフトしていくんですがこの流れ見覚えがありませんか? そうです重力世紀のあぁ"重力世紀"というのは宇宙開発が始まった"宇宙世紀"と対比する為に本格的な宇宙進出が始まる以前の時代をひっくるめて重力世紀と呼ぶんですがこの重力世紀の母星における水上戦闘ではかつて『大艦巨砲主義』という考え方があったんですけどこれはまだ大量破壊兵器が登場する以前の国家間において『戦艦』が戦略兵器だった時代の話なんですけど各国が戦艦の開発競争を進める中『メトゥヌラ級』という革新的な設計の戦艦が就役したんですこのメトゥヌラ級は当時の最新技術だった蒸気タービンを搭載していたので機動性が高くて更に従来の"副砲"を沢山乗せて火力を稼ぐスタイルから艦の中心線に大型の"主砲"を乗せる事で両舷に対して一撃必殺の高火力を投射出来るように変更した革新的な設計なんです! 更にそれまでは砲塔毎に好き勝手撃つ"独立撃ち"をやってたんですけど艦橋で着弾観測と射撃指令を一元化する"斉射"に切り替える事で命中率を上げる事にも成功していてとにかく全てが革新的だったのでメトゥヌラ級以前に設計された戦艦が全て『前メ級』として役立たず扱いされる程の衝撃でした現在でもシャルカーズ語では革新的なものを『メ級の衝撃』とか『超メ級の何々』とか言うんですけどこの"メ"って何かというとメトゥヌラ級戦艦の事なんですねあぁすいません話が逸れちゃいました何の話でしたっけ――」
――しびっ。
サメちゃん一呼吸。終わったかな?
「――あぁそうです大艦巨砲主義の話でしたという訳でメトゥヌラ級の登場を皮切りに世界中で開発競争が加速していくんですけど単純に大きい船に大きい砲を積んだら強いっていう大艦巨砲主義の時代を迎えるんですね――」
サメの夢が!! 終わらねェ!!!
「――ただ並行してこの頃『航空機』が実用化されて兵器として戦場に投入される様になったんですけどそうすると飛行甲板を備えて艦上機を運用できる『航空母艦』が登場したんですそうすると海軍の中でも従来通りに戦艦を推す大艦巨砲主義者と新型兵器である航空機を推す『航空主兵論者』とに分かれて推しバトルが始まったんですけどまぁ自国兵器をぶつけ合う訳にもいかず水掛け論に終始して中々答えは出なかったんですね一応航空機の攻撃で戦艦が撃沈された例はあったんですけど何れも湾内に停泊している状態だったので戦艦推しに言わせれば"ノーカン"で『航空攻撃で作戦行動中の戦艦は沈まない』とまで言われてました一応フォローするとこの頃の航空機はまだ発展途上だったので信頼性が低く確かに兵器としては未完成だったんですよでも技術とは日々進み続けるので艦上機は進化を続けていて遂にその日が来るんです作戦行動中だった戦艦『プリンスオブウェリントン』が新興国の航空攻撃によって撃沈されてしまうんですその後に続く大戦の中でも戦略兵器だった筈の戦艦は性能が向上し続けた航空機の波状攻撃に耐える事が出来ず次々と撃沈されていき結局大艦巨砲主義は終わりを迎えましたあぁすいませんちょっと長くなっちゃいましたねとにかく重力世紀ではこういう事があったので宇宙世紀でも同じ結末を迎えると考えた軍関係者は多かったんですけどガショメズ内での企業間抗争で大事件が起こったんです十人委員会にも名を連ねていた大企業『ミクロカエトス』が何があったかは諸説あるんですけど傘下の企業『ルンブルク商会』に対して懲罰攻撃に踏み切った事があったんですミクロカエトス社はルンブルク商会に対してV-TECH母艦『V母』を中核とした最新鋭の大規模艦隊『V母打撃群』を派遣しました対してルンブルク商会は旧来の宇宙戦艦で構成された中規模艦隊しか保有していなかったので勝利するのはミクロ側だと思われていたんですが――
――はッ!!?」
サメちゃん、漸く我に返る。
目の前には腕を組み、ふむふむと顎を触っているサトゥー。
例えば自分が興味のない分野について、急にペラペラ得意げな様子で説明されたところで普通の人はどう思うだろうか。
そこに有るのは博識を自慢したい己のエゴだけで、相手が本当にそれを必要としているのか、気遣う配慮が存在していない。
早口であればある程、熱意を込めれば込める程に『え……キモッ』と相手の気持ちは離れていくに違いない。
(あわわわ……!)
これはノット大丈夫。
やらかしに気づいたサメちゃん、思わずあわわわ。
だがサトゥー、ここで意外!!
≪その口振りからするともしかして……V母打撃群を揃えたのに、ミクロカエトスニキは負けたんか?≫
か、会話について来たァ!?
しかもコイツ、内容を理解しているぞ!?
これはつまり……サメちゃんの得意分野ペラペラドゥフフコポォを『え……キモッ』と聞き流さずにしっかりと耳を傾けていたァ!!
(……えっ!?)
これにはサメちゃん、思わずニッコリ。
だから――
「――そうなんですいざ蓋を開けてみればそうじゃなかったんです! 何と勝利したのはルンブルク側だったんです! どうしてか説明すると主砲の届かない超遠距離からミクロ艦隊はV-TECHを発艦させて俗に言うアウトレンジ攻撃を仕掛けたんですけどルンブルク側の主砲攻撃で次々と撃ち落とされちゃったんですこれは単純に宇宙戦艦の主砲は超高出力レーザーでV-TECHが運用出来るバリアでは防ぎきれなかったんですが勿論V-TECH側も多重の防御システムを構築していたんですけど結局はジェネレーター出力の差で押し切られちゃったんですそれでV-TECH隊はルンブルク艦隊に辿り着く前に半数以上が撃墜されてしかもルンブルク側でも直掩機としてV-TECHを運用していたので戦艦の対空砲火と連携した弾幕の前に目的を達成する事が出来ずに殆どやられちゃったんですルンブルク艦隊はその後ミクロ艦隊に突撃を仕掛けてミクロ艦隊も応戦したんですが艦隊規模では優ってても戦艦の数では劣っていたので前面に押し出した戦艦を殆ど沈められてミクロ艦隊は結局は敗走する事になりましたV母艦隊自体に被害は無かったんですけどV-TECHをほぼ全数やられて継戦能力を喪失したので実質的にミクロカエトス側の敗北ですね実のところ戦闘シミュレーション上においてはV-TECH隊単独で宇宙戦艦の弾幕を突破する事は困難だとある程度事前に判明はしていたんですが新兵器であるV-TECHとそれを運用するV母を導入したいミクロカエトス上層部の意向で意図的に無視されたみたいで艦隊編成の際に恣意的な意思決定があったみたいなんです結局この敗戦が決定打になって株価が急落したミクロカエトス社は凋落して十人委員会から除名されちゃったんですけど代わりに加盟したのがこの展示会をやってるルンブルク商会ですねただこの戦訓でV-TECHが不要になったかと言うとそうではなくて戦艦の数が拮抗している状態ではV-TECHの攻撃で敵艦の外装破壊に成功すれば優位に立てるし敵艦の主砲がV-TECHに向けばその分砲撃戦で有利に立てるので結局V-TECHは必要なんですよちなみに現在では戦艦の主砲を最低限防御出来る快速の『軽V母』が別動隊として敵艦隊に接近してからV-TECHを突入させる戦術がトレンドなんですけどそうすると今度は軽V母を接近させない為の軽V母迎撃を目的とした軽戦艦が開発されたりして結局は宇宙戦艦もV-TECHも両方必要だなって感じで――」
――しびびびびびびっ!!
サメちゃん、眼から電弧の大瀑布。
絶好調だぜェ!
≪非常に興味深いですね――≫
ここでサトゥーからまさかの返球。
≪――特に機動兵器によるアウトレンジ攻撃が登場したのに重力世紀と宇宙世紀とでまるで結果が異なったのはやはり惑星上という大気と何より重力の影響が大きかったと言わざるを得ないでしょうまた恐らくですが当時のシャルカーズ戦艦は時代的に考えて火薬による投射システムの筈でありならば熱と衝撃の問題が口径の安易な大型化を阻んでいたと考えられます万難を排して大口径化を実現したとしても数十キロの射程を誇る砲弾は惑星表面を飛翔する以上自転の影響つまりコリオリの力から逃れる事は出来ず命中率が低くなるという難点がありまた防御力に関しても重力圏にある以上は重量の問題で施せる装甲に限界があるのは言うまでもありませんとある惑星ではかつて地上に覇を唱えた大型の生命体がいたんですけど大型であるが故に気候変動に適応できずより小型の種との生存競争に負けてしまった例があって戦艦もまさにそんな感じで哺乳類に負けた恐竜って言うか巨大化にも限度があるから性能もどっかで絶対に頭打ちになっただろうし袋小路の進化ツリーって言うかそれ以上の発展性がない言うなれば歴史の徒花みたいな存在で後年で絶対にあれは無駄だったとか後だしジャンケンする奴がいると思うんだけどそもそも歴史ってのは当時の天才たちが最善を尽くした結果の積み重ねなのであってそれに対して現代の凡人が結果をカンニングしながらあーだこーだ言うのは卑怯っていうかじゃあお前今から未来の事を的確に予知してみろって話であってというか最強の決戦兵力つまり国家の命運を左右する戦略兵器だった時代は確かに存在していた訳でただひたすらに艦を大きくして巨大な砲を積まなきゃいけなかった宿命ってのは何かこう歴史の悲哀を感じちゃうで何の話だっけそう今度は宇宙世紀だけどやっぱり重力の縛りが無くなったのは大きいと思う何より重量の制約が無くなったからサイズの問題はクリアできるし技術の進歩で攻撃システム自体が進化したから対V-TECHにおいて重力世紀の再現にならなかったと思うんだけどサメちゃんはどう思う?≫
――何たる事か。
目の前のヤウーシュ、サメちゃんのフヒヒトークに応じたばかりか適切な推測を交えた上、ロマン回路を互角以上にブン回してきたァ!
ならばサメちゃん、こちらもブン回さねば不作法というもの……。
「――そうなんですよぉ!!!」
眼から電弧。
しびびのしびびの、しびびのび!
「火薬の爆発で砲弾を投射していた重力世紀と違って宇宙戦艦の主砲はレーザーなので正しく光の速さで命中するんですつまり照準さえ合っていれば目標を必ず撃ち抜けるんですなので基本的にV-TECH側は機動力による回避は不可能なんですねなのでミクロカエトスのV-TECH隊も密集形態による多重バリア防御なんかを実施していた様なんですがまぁ正面からの殴り合いを想定している宇宙戦艦のレーザー照射には対抗できなかったみたいで――
◇
ここは『ああああああ総合展示会』の兵器ブース。
勿論、様々な来場者が行きかっており人目は多い。
その中に謎のコンビが居た。
ヤウーシュと青目のシャルカーズ。
何やら向き合い、やいのやいのと言葉を交わしている。
どうやら口論をしている様子ではない。両者は笑顔だった。
近くを通りかかれば、会話の内容が聞こえて来る。
――当初はAI制御の無人機もいたんですけど思考制御が量子妨害を排除出来なくて――
――交戦距離の関係で実体の剣とシールドが選択肢として用意されてるのアツ過ぎィ!――
――MOCEの頃から艦内を移動したり甲板上に立つ為の脚があったんですけど――
――つまり運用目的上、大型の武器が不要だから胴体から生やさずに腕に持たせる事で――
――最初は外部カメラだったんですけど、ついでにセンサー類を集約してカバーで覆ったら――
――まぁそれぞれ細かい理由があって、何より兵士に対する視覚的な士気の向上っていう――
どうやらV-TECHについて話をしているらしい。
妙に情熱的で、しかも早口だった。
行きかう人々(?)は内心『え……キモッ』と思いながらさり気なく距離を取る。
とその時、不意に兵器ブースの天井にある赤色の回転灯が光り始めた。
前話に【特異点エンジン】の説明を追加しました




