表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/104

第57話「あんな奴」

新年明けましておめでとうございます。

今年も佐藤以下略をよろしくお願いいたします。


誤字報告もありがとうございます

『ああああああ総合展示会』の会場。

科目ごとに区分けされている各ブースの隙間は通路を兼ねており、来場者が行きかっている。

その中に――


「てっんじかい! てっんじかい!」

≪てっんじかい! てっんじかい!≫


――奇妙なコンビが居た。


先頭を行くのはヤウーシュで、何が嬉しいのかピョンピョンとスキップしている。

さらに不可解なのが、その後ろに続く青目のシャルカーズだった。何が楽しいのか尾を左右にプンプン振りながら、同じステップを踏みつつヤウーシュの後に続いている。

中々他所ではお目に掛かれない珍しいそのコンビは、通路の分岐に差し掛かると先頭のヤウーシュが右へ、そして後ろのシャルカーズが左へと曲がった。


≪――あれ?≫


後ろのシャルカーズは足を止めると、右に曲がってしまったヤウーシュの背へと声を掛ける。


≪サトゥーさん! 武器のブースこっちですよ?≫

「……ん? あぁ、こっちで合ってるよ」

≪あれ、そうなんですか?≫


振り返り、そう答えるヤウーシュ。

問い掛けたシャルカーズは、己の曲がった通路の先――武器ブースの方へと目を向ける。

そこでは多くのヤウーシュが――


「ノコギリだぁ? 何で木工用具が……ヒャア! 変形して鉈ァ!」

「暗い井戸から発掘された片刃の実体剣だぁ? ふーん、エッチじゃん」

「えーとこの武器……トルトニス? トルニトス? トトニルス? え、何?」


――楽しそうにワイワイとやっていたが、どうやら目的のブースでは無いらしい。

キラキラとした目で、説明するヤウーシュは己の進行方向を指し示す。


「見たいのはあっちのブースなのぉぉぉ!!」





『ああああああ総合展示会』の兵器ブース。

会場のかなりのスペースを占有しているそこでは、主に宇宙空間で運用される各種『機動兵器』が展示されている。

その中でも特に目を引くのが、全高が5mから10m前後の『人型兵器』だった。


それら展示物の前で今まさに、ゼロバッド会長から案内を任された【4A07】がナルテクスにセールスを掛けていた。


≪Vテックはガショメズで生まれました。

 アルタコの発明品じゃありません。我が種族のオリジナルです。しばし後れを取りましたが、今や巻き返しの時です≫

「ふむ……興味深い……」


説明を受けているナルテクスが、下から照明で照らされている金属製の巨人達を見上げる。

基本的な造形は『人間(ヒューマノイド)(タイプ)』ではあるものの、ガショメズのそれは左右非対称であったり、体の各所から大型の増設物が生えていたりと何とも異形感が強い。

この場にサトゥーが居れば『某バイオのクリーチャーみたい!』と小学生並みの感想を漏らしただろう。


【4A07】がセールスを続ける。


≪Vテックがお好き? ではますます好きになりますよ! さぁどうぞ――≫


展示されている内の1機は片膝を突いた『駐機姿勢』を取っており、下腹部に位置する操縦席が開放されている。

【4A07】はタラップを用意して、ナルテクスを操縦席へと誘導した。

折角の機会だからと、ナルテクスはVテックとやらの操縦席に座ってみる。


≪――我が商会のニューモデルです! 快適でしょう?≫

「……」


操縦席へと納まったナルテクス。

目の前には数えきれない程の計器類と、見た事も無いインターフェース群が並んでいる。


そして悟ってしまった。


――己に問いかけてみる。

ローディエルは、()()を作れるかと。


不可能だった。


見ただけで分かる。

精度が違う。根本的な技術が違う。

自分たちは精巧な機械式時計を創り出せるが、全くそんな事は役に立たない。

()()は当然として、今のローディエルでは見掛け倒しの外側(ガワ)すら造る事が出来ないだろう。


「……」


目の前の光景が、どこまでも無慈悲な『文明格差』を突きつけて来る。

呻き声を堪えたのは、種族長としてのせめてもの意地であろうか。


≪――んあぁ、仰らないで!≫


だがその沈黙を、【4A07】は別の意味で捉えた。


≪確かに動力が核融合……でも反物質エンジンなんて見かけだけで夏は熱いし、よく漏れるわすぐヒビ割れるわ、ろくな事は無い!

 積載量(ペイロード)もたっぷりありますよ! どんな大型兵装でも大丈夫! どうぞご覧になってください!≫


【4A07】がナルテクスに紙媒体を渡してくる。カタログ表だった。

だがそれに目を通しても、視線が滑ってナルテクスの頭に入ってこない。


(……カクユウゴウ? ……ハンブシツ?)


未知の単語で今、ナルテクスの頭はパンクしている最中。

それに気づかない【4A07】は一生懸命に説明を続ける。


≪良いスペックでしょう。余裕の数値だ、設計が違いますよ!≫

「一番気になるのは……」

≪何です?≫


再起動したナルテクスが、辛うじて疑問点を絞り出す。


「……建造費だろうか。如何ほどであろうか」

≪そうですね……あぁ勿論、まとめて発注いただければ価格の方は()()させてもらいますが……標準で、この程度でしょうか≫

「……」


ナルテクスの目の前に示された、電卓めいた計算機。

その値段表示の小窓には『1億コム』と表示されていた。

思わず意識が飛びそうになるナルテクス。


(1億コム……1億コム……1億コム……)


比較として脳内に浮かび上がったのは、昨年竣工したばかりの最新鋭の宇宙船。

栄えあるローディエル宇宙艦隊の旗艦にして、今回の視察で自分が乗っている座乗艦『グローリア・ヴィリディアエ』の建造費だった。


銀河同盟の通貨に換算して、その額……約『200万コム』。


無論、ガショメズとローディエルで貨幣価値や経済規模などが異なる為、単純な比較は出来ない。

しかしシュンネペイア教のお財布を相当に痛めつけてくれた『グローリア・ヴィリディアエ』を、自分が今座っている『Vテック』1機の値段で果たして、何隻造れるだろう。


「好奇心で尋ねるのだが――」


声が震えない様に、気を強く持ちながらナルテクスは問いかける。


「――ガショメズでは、『Vテック』をどの程度保有されているのかな?」

≪そーですねぇ……。

 ガショメズ全体となると、統計が出ていないので推測となるのですが……各企業や商会を全部足して、それでも100万は超えない程度でしょうか≫

「……」


ナルテクス、再度絶句。

文字通り桁が違う。

ローディエル宇宙艦隊は、練習艦や戦力外の旧型艦を全部足しても200隻に及ばない。


勢力圏に惑星1つしかないローディエルと、銀河を跨いで活動しているガショメズ。

文明とは『質』において、上も下も有りはしない。しかし『数』という点においては、両者を隔てている溝はこの上なく深かった。


「ふぅー……」


思わず溜息をつくナルテクス。

ガスマスクを着用していなければ、強張った目元を解きほぐしたい気分だった。

と、その時――


≪おほーー!!≫

「ん?」


――突然、奇声が聞こえてきた。


何事かと視線を向ければ、隣にあるシャルカーズ企業の展示エリアで何やら騒いでいる輩が居る。

それはヤウーシュだった。


≪すげぇ! モビルフォート・ガンガムだぁ!≫

(ヤウーシュか……)


何と無しにその様子を眺めているナルテクスの脳裏に、『ヤウーシュ』という単語で、ふと朝の会話が蘇る。

ニューフェから説明された『迷子の間に何があったのか』についてだった。


どうやらニューフェは迷子になっている最中、ガラの悪いガショメズから何と『喝上(かつあ)げ』にあってしまったらしい。

しかし既のところで『正義感溢れるヤウーシュ』が割って入ってくれたらしく、難を逃れたとの事。

だとすれば『野蛮で不潔』なヤウーシュなる種族にも、中には開明的な個体だって居るのかも知れない。


≪やったー、本物だ格好良いゾーーーー!! ヒト型ロボット見れるとかテンション上がりますねェ!≫

(まぁ、だとしても……)


騒がしくピョンピョンと飛び跳ねているヤウーシュを見ながら、ナルテクスは思った。


(あんな奴じゃあ……無いだろうな)

【核融合エンジン】

ガショメズが好んで利用している動力源。

重水素等の軽い原子核を超高温・高圧下で融合させエネルギーを取り出す技術。

簡単に言えば小さい太陽を作り出す技術であり、SFで有名な某ガンダムもこの原理で動いている。


【反物質エンジン】

シャルカーズが一般的に採用している動力源。

物質(陽子)と反物質(反陽子)の消滅反応からエネルギーを取り出す技術。

極めて高効率のエネルギー源ではあるものの、反物質の生成と保存に高い技術を必要とする。

地球人類も反物質の生成には成功しているが、極めて少量かつ極短時間の為に具体的な利用には至っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今年も宜しくお願いします! 人型ロボットか、ロマン有るなぁ。 あんな奴であるw
そんな奴です(笑 そもそも人型ロボットでアガるヤウーシュなんて、こいつしかいないと思われ・・・。 でもメカ好きってところがまた、サメちゃんと相性よさそうですよねぇ。もう齧られちゃいなヨ!
ああっ駄目ですよここで動かしちゃ! 待って!止まれ!ウワァ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ