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第51話「稀有な事例」

誤字報告ありがとうございます

「僕の名前はサトゥー!」


穴の中から顔だけ出し、サトゥーは美少女(予定)のローディエルへと声を掛ける。

ヒーローは遅れてやって来ると言う。つまり今、サトゥーはヒーローなのだ(暴論)。

しかし返って来た言葉は――


≪聞いていません≫

≪次の相手は貴方ですか? かかって来なさい!≫


――めっちゃ警戒されとる。

おまけに周囲を見回せば、引き立て役になる筈だったガショメズの皆さんの姿は既に無かった。どうやら自力で撃退してしまったらしい。強い(確信)。

一先ず、敵ではない事を説明してなくてはならない。サトゥーはローディエルちゃんの、そのガスマスクを見つめながら続けた。


「落ち着いて! 僕は敵じゃないよ! 一般通過無害ヤウーシュだよ!」

≪一般通過無害ヤウーシュ≫

「君が不審なガショメズの一団に追われているのを目撃したから、助けに来たんだよ!」

≪そうですか。それはご丁寧にありがとうございます。ですが――≫


ローディエルちゃんが両手を広げ、状況を誇示するかの様に宣言する。


≪――御覧の通り問題は解決しました。それで、他に何か御用でも?≫

「無いです」

≪あ、無い。でしたら私は、これで失礼します≫


ローディエルちゃんはそれだけ言うと、くるりと振り返って立ち去ろうとする。

サトゥーは穴から這い上がり、思わず声を掛けた。


「あ、待ってね! そっちは――」

≪言っておきますが!≫


しかしそれを制する様に、顔だけ振り返ってローディエルちゃんが続ける。


≪付いて来ない事を強くお奨めします≫

「あ、はい」

≪それでは≫


カツカツとヒール音を響かせながら、今度こそローディエルちゃんが遠ざかっていく。

広場から出ていく複数の路地、そのひとつへ入っていく深緑色のローブの背を見つめながら、サトゥーは小さく呟いた。


「……そっち行き止まりなのに」





サトゥーが閲覧した現在地の地図、2B9S地区のマップデータは新旧入り混じる『更新確認ヨシ!』状態だった。

しかし改版が繰り返されていたのは往来の激しい大通り位なもので、人気の少ないエリア――例えば現在地周辺など――の変更は少ない。

お陰でサトゥーは周辺の地理をほぼ正確に把握できていた。細い路地が入り組んでいる上に行き止まりが多いこの区画は、入るに(やす)く出るに(かた)い迷路めいたエリア。

ローディエルちゃんが選んだのは行き止まりのハズレ道だったので、広場に戻って来るしかない。


「よっこらせ」


サトゥーは広場の隅に打ち捨てられている金属箱に腰を掛けると、足をブラブラさせて待つ。

やがて暗闇の中からカツカツというヒール音が聞こえ始め、街灯の照らす範囲にローディエルちゃんがその姿を現した。

そして広場の中ほどまで進むと、足を止め――


≪……何ですか!?≫


――何故か『キッ!』とサトゥーの方に視線を寄越しながら、声を張り上げた。

サトゥー、思わず反論。


「何も言ってないよね!?」

≪付いて来ないでくださいね!!?≫

「行かねーし!!」


ローディエルちゃんは別の道を選択すると、再びカツカツと速足で広場から出ていく。

その背を見送りながら、サトゥーは再び呟いた。


「そっちも行き止まりなんだよなァ……」





待つ事しばし。


やはりローディエルちゃんは広場に戻って来た。

そして何故か再び、サトゥーの方を睨みながら叫ぶ。


≪……だから何ですか!?≫

「だから何も言ってねェだろ!?」

≪付いて来ないように!≫

「だから行かねーよ!!」


三度、新たな道を選んで広場から出ていくローディエルちゃん。

その背を見ながら、サトゥーが呟く。


「だからそこも行き止まりなんだよなァ……」





行き止まりなので、ローディエルちゃんは当然戻って来た。


≪……言いたい事があるなら言えばいいでしょう!?≫

「だから何も言ってないでしょぉぉぉ!?」


そしてサトゥーにクレーム。


≪ひとりで帰れます!!≫

「勝手に帰れや!!」


四度目の正直。

ローディエルちゃんが広場から出ていく。

見送るサトゥーがボヤいた。


「ハズレ選ぶ天才かな?」





「おかえり」

≪……≫


ローディエルちゃんは広場に戻ってきました。勿論です。(ハズレを選ぶ)プロですから。

しかし今度はクレームを入れる事なく、何故かツカツカとサトゥーへと歩み寄って来る。

そしてサトゥーの事を『ズビシ!』と指さしながら、告げた。


≪わ、私を案内しなさい。ヤウーシュ≫

「案内だぁ?」

≪そうです。私はト……トラ……虎公むしゃあキィエー? に戻らなくてはなりません≫

「トラム降車駅」

≪それです。トラムこうしゃえき、の場所は知っていますか?≫

「あぁ、分かるぜ。この辺りは詳しいんだ。最新のマップだって持ってる。最新……最新ってどれ? これ?」


『最新』というワードのせいで、頭の中に黄色いヘルメットを被った猫が現れて『何を見て最新って言ったんですか?』と疑問符を浮かべているサトゥーに、回答を聞いて嬉しそうなローディエルちゃんが続けた。


≪そうですか!

 それなら私を案内してください。あぁ勿論、無料(タダ)でとは言いません。

 こう見えて本国ではそれなりの地位なのです。確か我が国の輸出品目に、ヤウーシュ向けの鉱物資源があった筈です。それの輸出枠の拡大を上に掛け合って――≫

「いや、タダでいい」

≪――えっ≫


見返りなんて、要りはしない。

何故なら――


「俺が……」


――ヒーローだから。

ヒーローが誰かを助けるのは、見返りの為じゃない。


「俺が欲しいのは、ただひとつ」


お金が欲しくてやるんじゃない。

見返りが欲しくてやるんじゃない。


≪……それは何ですか? ヤウーシュ≫

「たったひとつの、簡単なモノさ」


それの為ならば。

ただ一つ、それが得られるのならば。

ヒーローは戦って見せるのだ。たとえ、どんな巨悪が相手であろうとも。


「――『言葉』だ」

≪コトバ……?≫

「お願いします……と、言ってみろ!」

≪……≫


流れ変わったな。

何だこのヒーローは。たまげたなぁ。


「ホラホラどうした! さ、上手に"おねだり"出来るかな……?」 

≪……お願いします≫

「あんだって~~!? 耳が遠くて聞こえねーよー!!」」


耳元に手を当て、聞こえない仕草をするサトゥー。

調子乗ってんなコイツな。


≪……私は今、道に迷って困っています。ヤウーシュさん、トラムこうしゃえきまで案内していただけないでしょうか、お願いします≫

「違うだろ~~?」

≪な、何がですか!? ちゃんとお願いしたでしょう!?≫

「ローちゃんは今、道に迷って困ってるワン!

 強くて優しいヤウーシュ様、ドジっ子ローちゃんの道案内をして欲しいピョン! お願いしますニャーー! だるるォ~!?」

≪も゛う゛い゛い゛で゛す゛!゛!゛!゛≫


ローディエルちゃん……キレた!!





「ウッス、ここを右折です」

≪はい≫


数分後、薄暗い裏路地を歩くサトゥーとローディエルちゃんの姿があった。

先頭を行くのが、調子乗り過ぎたサトゥー。


サトゥーが調子ブっこき過ぎて、ローディエルちゃんを怒らせてしまった。

激怒しながら広場から出て行こうとする――しかも、やはり間違った道を選んで――ので、慌ててこれを引き留め、サトゥーの方から『ウッス案内させていただきますセンセンシャル!』と謝罪。

何とかご寛恕いただき、今は道案内をしている最中だった。


「ウッス、ここを左折です」

≪……はい≫


元々はガショメズと一戦交えてでも助けるつもりだったので、道案内程度をどうして断るだろう。

でも、頼み方だってあるよね。


「ウッス、ここを真っすぐです」

≪……≫

「ん?」


返事がない。

どうしたのかと振り向くと、何故かローディエルちゃんが足を止めていた。


「ウッス、何かありましたか」

≪貴方は……≫

「ウッス?」

≪貴方はどうして親切なんですか、ヤウーシュ≫


急に親切さの理由を問われたサトゥー。

困惑しながら聞き返した。


「いや……どうしてって聞かれても……」

≪この旅の最初に、アルタコからはこう説明されました。ガショメズはとても親切で、友好的な種族だと≫

「あっ、スゥー……」

≪逆にヤウーシュは非常に好戦的で、凶暴な種族だから注意する様にと≫

「それは、はい」

≪ですが私はガショメズに襲われ、そして今。

 貴方に道案内をしてもらっています。たまたま短期間に、私は稀有な事例と……連続して遭遇したのでしょうか?≫

「うーん……それは……」

長いので一旦区切り

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― 新着の感想 ―
迷子ローディエルちゃんw。そしてそれを煽るかの如く言葉を要求するサトュー! ガショメズは絶対勝てないアルタコにはそら媚びまくってるだろうからなぁ。ヤウーシュ評は正解かな…。
更新嬉しいです。いつも楽しみにしてます✨ 親切さの理由何て返すんでしょうか。楽しみですね✨
まあ喧嘩売っても勝てない相手には媚びるよなガショメズ……サトゥー以外のヤウーシュは凶暴で分別が無いか凶暴で分別があるかのどちらかで無い方が圧倒的多数だからなー
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