第49話「異常な現象」
【設定変更のお詫び】
ガショメズの腕部兵装を「レーザーガン」から「ビームガン」に変更します(演出の都合により)
また「ルンブルクスルベルス商会」の名前を「ルンブルク商会」に変更します(書くのも読むのも長いので……)
過去投稿分は……時間があったらそのうち変更します……
交易種族であるガショメズの世界に『十人委員会』という組織がある。
名が示す通り10人の会員――それぞれがガショメズ屈指の大企業を率いている――によって構成されており、この委員会の意向が実質的に種族としての方向性を決定していると言っても良い。
『ああああああステーション』を運営しているルンブルク商会の会長もまたこの十人委員会のひとりであり、『業務提携』という形で多くの企業にその影響力を及ぼす立場にある。
『ジュズイ興行』もそういった、業務提携によってルンブルク商会と手を取り合い、共存共栄の関係にある中小企業のひとつだった。
――というのは建前で、その実態は顎先で使われる小間使いの様な『下請け』に過ぎない。
しかしながら社員数や資金力に圧倒的な開きがある為、表立って反抗する事も出来ず……。
現状に不満を感じつつも、ジュズイ興行の社員たちはそれでも辛抱強く、日々ルンブルク商会から下って来る無理難題を淡々とこなす日々を送っていた。
ただ、希望が無かった訳でもない。
ルンブルク商会が推し進めている一大プロジェクト『DIY計画』。
ヤウーシュという種族を丸ごとひとつ支配してしまい、無料の傭兵として便利に使い倒したり、無料の労働力として便利にコキ使ってしまおうというハッピーハッピーな大計画である。
更にはせっかく無料なのだから、適当なヤウーシュ戦士に爆弾のお土産を持たせ、十人委員会の他の企業首脳部へと送り込み、諸とも爆発させるテロ攻撃に消費したって良い。何たって無料なので。
この特攻作戦によって十人委員会を機能不全に追い込んでしまえば、果たしてルンブルク商会がガショメズという種族全体を支配してしまう事だって夢物語では無くなる。
そんな未来において、ルンブルク商会と業務提携をしているジュズイ興行の栄達は輝かしいものとなるだろう――という希望が、ジュズイ興行社員たちの心を慰めていた。
……筈だったのだが、突如舞い込んできた情報が事態を一変させてしまったのは半日前の事。
――何で続報が来ないんや? ちゃんと問い合わせたんか?――
――したで。でも回答無しや……これは無視されとるわ――
それはルンブルク商会からの急な、かつ一方的な通知だった。
何やらDIY計画の予定を『プランA』から『プランB』へ変更するらしい。
彼らは困惑した。
ルンブルク商会が『気まぐれ』で『無責任』な指示を出してくるのはいつもの事だったが、それにも増して今回は酷い。
何せジュズイ興行はプランBなる内容を、そもそも知らされていないのだから。
知らないプランをどうして実行出来ようか。
直ちに問い合わせたジュズイ興行だったが、ルンブルク商会からの回答は『指示を待て』という素っ気ない文面のみ。
――こりゃ……切られたわ――
――ワイらの事捨てる気か!? ナメとんちゃうぞ!!――
利益を最優先するガショメズ世界にあって、裏切りなんてものは日常に過ぎない。
だから、切られた。
自分たちは、『足切り』をされてしまった。
恐らくは――
DIY計画の存在が、例えばヤウーシュか銀河刑事警察機構あたりに露呈してしまい、主犯であるルンブルク商会は追及から逃れる為、ジュズイ興行を『真犯人』として差し出す事にした。
プランBの説明が無いのは、そもそも最初からそんな計画は存在しておらず、ジュズイ興行を差し出すまでの時間稼ぎに過ぎないから。
――あたりに違いないと、ジュズイ興行は受け取った。
それは半分当たっており、半分外れていた。
確かにDIY計画に問題は起きている。ヤウーシュ母星で情報収集にあたっていた宇宙船『イップーツー』が撃墜されてしまった上に、銀河刑事警察機構が不穏な動きを見せている。
しかしこの時点で、ルンブルク商会にジュズイ興行を足切りする意図は無かった。
プランBについての説明が無く、さらに返信が素っ気無かったのは、単純にルンブルク商会側が『忙しかった』から。
本来なら氏族間で対立している筈のヤウーシュが、氏族の垣根を超えて共同でイップーツーを攻撃してきた上、間の悪い事に銀河刑事警察機構の『銀河捜査官』が現地入りをしている始末。
DIY計画を前に、何かを掴まれているのか、或いは偶然なのか。
その調査をしなければならないのに、更に今は『ああああああステーション』にて防衛・安全保障に関しての『ああああああ総合展示会』を開催中。
しかも今回はローディエルから使節団が来ている上、その警護にアルタコまで参加している。
もう、しっちゃかメッチャカだった。
という状況で『まぁ下請けだし……』と侮っているジュズイ興行に対し、プランBについての詳細を説明してやる程の余裕を、ルンブルク商会は持っていなかった。
だけなのだが、そんな事情をジュズイ興行は知る由もない。
――このまま引き下がれんで!――
――もう一緒にやっとれんわ! 一発ブチかましたる!!――
結果として、ルンブルク商会の日頃の振る舞いがジュズイ興行を暴発させた。
商人の世界は『舐められ』たら終わり。
ヤラられる前にヤってしまえの精神で、ジュズイ興行はルンブルク商会との業務提携『解除』を決断。
すぐさま本拠地を置いている『ああああああステーション』からの資産引き上げと、新たな提携先を求めての引っ越し準備に取り掛かった。
だが、その前にやる事がある。
このままおめおめと逃げだしたとあっては、新たな提携先に弱者だと『舐められ』てしまう。
そうならない為には『成果』が必要だった。
ルンブルク商会に"切られた"のではなく、"切ってやった"のだと豪語出来るだけの成果が。
『単独行動をしているローディエルがいる』。
その情報が飛び込んできたのは、まさにそんな時だった。
――せや……そのローディエル、誘拐したれ!――
例えば、『ああああああステーション』滞在中に使節団から行方不明者が出たとしよう。
果たしてルンブルク商会の信用など粉々に吹き飛ぶだろう。
それでいて自分達は『希少な生体資源』を得られる……何たる一挙両得か。
――そりゃ名案やで!――
――よっしゃ! 動ける奴は準備せぇ!!――
絶対的に流通量が少ない為、必ず好事家に高く売れる。
あるいは丁寧に分解して、パーツ毎に多方面へ売り捌いても良い。
ジュズイ興行の利益となる上、ルンブルク商会に痛打を与えたとあれば他の『十人委員会』の大企業の覚えがめでたくなる事請け合い。
――早速、商品の入荷や! 張り切って行くでぇ!!――
――応ッ!――
手勢を集めると、"仕入れ"の為に彼らは夜の街へと繰り出した。
◇
ローディエルは"呪い"的なものを使うのだと、予備知識として知ってはいた。
だが一言で言えば、ジュズイ興行はローディエルの事を舐めていた。
効力のない、無意味で前時代的な、ただの宗教文化を崇めている無知な種族に過ぎないと。
「動くなや!!」
だから仕入れは簡単に終わると、そう思っていた。
ちょっと脅せば済むし、たとえ反抗されても簡単に制圧出来ると、社員の誰もがそう考えていた。
≪一応聞きますけど……私を誘拐か何かしようという事ですか?≫
「よう分かってるやん! 嬢ちゃんは商品として高ぉ売られるんやで!! 嬉しやろ!!」
≪ちょーっと待ったァァーー!!』
「誰や!!?」
商品の仕入れをしていた広場に、突如として声が響き渡った。
それは商品の声でも、ジュズイ興行社員の声でもない。
部外者の、第三者の、『目撃者』からの声。
目撃者はマズい。
ルンブルク商会に通報されたら確実に武力を伴う追手が来るし、アルタコの介入も招いてしまう。
そうなったらジュズイ興行の戦力程度では太刀打ち出来ない。
早急に消す必要があった。
「見られたで! 黙らせぇ! ドコや!?」
≪誰かの笑顔――≫
「今探してるわ! 音源は……今探しとる!」
≪暴力反対、話し合い――≫
「ビルのせいで反響しまくりやで!」
「これじゃあ特定出来へん! 全く分からんでぇ!」
≪ラ、ラブリーチャ――≫
「逃がすとマズいやろ!! はよぉ探せぇ!」
「あかーん分からーーん!」
「応援呼んだ方がええんちゃうか!? 呼んだ方がええか!?」
≪へ、平和、平和の――≫
「そんな時間あるかい!! 今何とかしろや!!」
「お前らの声が邪魔やろがい!! 静かにせぇや!!」
混迷の度合いを深める広場。
慌てる社員と、見つからない目撃者。
だがその時、ひと際大きな声が響く。
≪話聞けやブッコロすぞ!!!≫
「――居たでぇ!? あそこや!!」
その大声で、ようやく位置を特定。
広場を囲んでいるビル、そのひとつの屋上からだった。
ヤウーシュが2体、屋上の縁に足を掛け、こちらを見下ろしている。
「な、何やアイツらは!!?」
ジュズイ興行の面々は困惑した。
どうしてヤウーシュの戦士が2体、あんなところに居るのか。
だが疑問はすぐさま氷解する。
屋上に次々と新たなヤウーシュの戦士が現れて――
≪≪≪うおおおおギョカイン最強ぉぉぉぉぉ!!≫≫≫
――そう、叫んだから。
「何や……ヤウーシュの宣伝映像やんけ! 脅かすなや!!」
その後も何やら屋上から『チガウ』『コウコクジャナイ』とか聞こえてきた気がしたが、宣伝音声なので無視。
何より今は、商品の仕入れである。
用意しておいた拘束用の首輪を取り出し、『商標』として商品に取り付けようと歩み寄った刹那――
――轟音と、衝撃。
何かが……何かが空から降って来た!!
「な、何やーーー!?」
突如として降って来たそれは、先頭にいた社員の目の前に墜落。
床の鋼材に大穴を空けると、そのまま地下へと埋没していった。
一体何が起きたのか?
困惑するジュズイ興行の面々だったが、彼らに視力を提供している顔部の高感度カメラがその正体を映像に収めていた。
ヤウーシュだった。
ヤウーシュの戦士が、屋上から降ってきたのである。
お陰で彼らは、目の前で何が起きたのかを理解する事が出来た。
親方(?)、空からヤウーシュが! つまりこれは――
「――体感型宣伝映像って事やな!? はぇ~、最近はこんなのあるんやな~!」
そんな呑気な感想を抱いている余裕が、ジュズイ興行の社員たちにはあった。
何故なら、気負いがないから。
商品を追い詰めている以上この後の仕入れは簡単で、弱っちい相手に反抗されたとて問題にはならないから。
≪第五幕――≫
囁きが聞こえた。
商品の――ローディエルの声だった。
ジュズイ興行とローディエルの間には、体感型宣伝映像の開けた穴が広がっている。
さらにヤウーシュの映像が降って来た瞬間、ジュズイ興行は足を止めていた。
つまり両者の間には空間的、時間的空隙が出来ている。
だからその間に、ローディエルの"呪い"――『霊術』が行使されていた。
≪――『黄金の角』、"黒い安息日"≫
それはローディエル――ニューフェによる、霊術の『詠唱』だった。
唱えられた文言がその効力を発し、広場に満ちていた祝福――QOWIが『認知的錬成』を引き起こす。
果たしてジュズイ興行社員たちの目の前で顕現したのは――
「「「な、何やぁぁーーー!!?」」」
――種族としてのガショメズが、初めて目撃する事になる超常現象――『魔法』の姿だった。
そのときふしぎな事が起こった




