第41話「二人はひとつ」
分割を考えたのですが
あまりに話が進まないので一括にしました
少し長いです
※最後の方、お食事中の方はご注意ください
一体何の人だかりだろうか。
サトゥーが近づいていくと――
≪……あっ!≫
――それに気づいたひとりが走り寄って来る。
赤目で小柄な、さっきまで応接間でお菓子ムシャムシャの、警備部長だった。
部長はサトゥーの目の前まで来ると、『んっ』っと両手を差し出しながら言った。
≪鳥さんやって~≫
「えっ」
狼狽えるサトゥー。
まさか本気にしていたとは。
「え、あ、いや……あのね、あれは社交辞令と言ってね……?」
≪……やってくれないの?≫
「できらぁ!」
しょんぼりと項垂れた部長を前に、思わず宣言するサトゥー。
「鳥さんやったらぁ!」
≪わっ!?≫
サトゥーは部長の脇の下に手を差し入れ、持ち上げて『たかいたかい』の態勢へ。
が、そこで気が付く。
(……重い!?)
部長の身長は150cmあるかないかであり、前世の小学生に例えれば六年生程度しかない。
その場合の平均体重は40kg程度。
にも関わらず、持ち上げた感覚で言うと――
(逃走中に他の子を持ち上げた時は、必死だったから気が付かなかったけど……この子たち重いぞ!?
これは……成人男性並み!?)
――日本人男性の平均体重は70kg前後。
シャルカーズには『サメのような尾』が生えている為、その分だけ地球人よりも重い。
しかしそれを差し引いても、外見と実際の重さが一致していなかった。
見た目で言えば部長は太っておらず、むしろアスリートのそれに近い。
全身にしなやかな筋肉を備えながら、それでいて女性的な、しっとりとした丸みのあるシルエット。
つまり――
(これは密度か!?
この子……全身に高密度の筋肉を搭載している!?)
堅牢な骨格に、高性能な筋肉をみっちりと搭載。
強靭な尾を使って水中を自在に動き回り、その鋭い歯と高い咬合力で獲物に喰らいつく。
母星の海洋惑星、その生態系の頂点に君臨する捕食者――
(――これがシャルカーズか! 改めてみると……恐ろしいぞ)
≪ねぇはやく~≫
「あ、ハイ、いきますよ~」
持ち上げられたまま、足をブラブラさせながら部長が催促する。
それに応えながら、サトゥーは内心嘯く。
(だがウチとて、高重力環境の惑星に棲息する戦闘種族……我ヤウーシュぞ!!)
サトゥーはその場にしゃがみ込んでから、全力で『万歳』。
全身の関節で加速させながら、部長を真上に向けて放り投げた。
ヤウーシュ式垂直カタパルト・スローだ!!
「だっしゃあああああ!!」
≪ヤッフゥゥゥーーー!!≫
歓声をあげながら、“鳥さん”めいて頭上に飛び上がっていく部長。
その最高到達点は10mを優に超えていた。
程なくして自由落下を開始。
≪ウィィィーーーー!!≫
黄色い歓声を上げながら落ちてきた部長を、サトゥーはまかり間違っても落とさないよう慎重に、かつ全身を使って衝撃を殺しながら柔らかくキャッチ。
そしてぽすんと無事に着地させる。
≪す――≫
「……す?」
自分の足で床に降り立った部長がくるりと振り返り、頬を上気させながら興奮気味に叫んだ。
≪――っごぉぉーーい!! 凄い凄い凄い!! ねぇもう1回やって!!≫
「ダメ! 1回だけ!」
≪えー!!≫
≪つぎ私! つぎ私!!≫
「あいあい…………だっしゃあああああ!!」
≪イィィヤッフゥゥゥーーー!!≫
サトゥーは次に、同じく約束していた班長を『たかいたかい』する。
そして無事にやり終えた。
「ふー、約束は果たしたからこれでOK!! ……で、皆さんは何の行列で?」
≪≪≪えっ!?≫≫≫
振り返ったサトゥーの前で伸びていたのは、長蛇の列だった。
並んでいるのは全員、サトゥーの宇宙船近くに集まっていたスターゲイト警備部の皆さん。
≪≪≪……鳥さんしてくれないの?≫≫≫
「で、できらぁ!」
≪≪≪わーい!!≫≫≫
並んでいた少女たちの見せた、悲しそうな表情。
それを見たサトゥーは――
「け……警備部のみんな鳥さん出来るって言ったんだよ! だっしゃあああああ!!」
≪ヤッフィィィーーー!!≫
――断る事が出来なかった。
◇
「ハァ……ハァ……ハァ……やっと終わったぞ……」
スターゲイト警備部、その最後のひとりを『たかいたかい』し終えたサトゥー。
だが不思議な事に、サトゥーの目の前には再び長蛇の列が出来ていた。
今度は警備員の制服ではなく、ツナギを着用している格納庫『整備班』の少女たちだった。
「そ、それで……みんなは何で並んでるのかな?」
≪≪≪……私たちはダメなの?≫≫≫
「できらぁ!」
≪≪≪わーい!!≫≫≫
「ぜぇ、はぁ……せ、整備班のみんなも鳥さん出来るって言ったんだよ! だっしゃあああああ!!」
≪イエッフィィィーーー!!≫
◇
「だっしゃあああああ!!
……はい、キャッチ!! ハァ、ハァ、それで次は……ん?」
必死で整備班の少女たちを『たかいたかい』していたサトゥーだったが、順番待ちの行列も半分になった頃。
列の先頭として現れたのは、警備員の制服を着た少女だった。
「あれ……君は警備部の子? ダメダメ、さっきやったでしょ? ひとり1回だよ」
≪え~、私まだやってもらってないよ~?≫
「ん? え、あ、そうなの? なら仕方ないか……」
確かに顔に見覚えがない。途中で参加した子だろうか?
そんな事を思いながら、サトゥーはその子も『たかいたかい』した。
やがて順番待ちの列の中に、チラホラと『警備員の制服』の子が増え始める。
流石にサトゥーも『あれ? 途中参加の子こんなに居たか?』と怪訝に思い始めた頃――
「だっしゃあああああ⤴!!
……はい、キャッチ!! ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
≪はーい次! 次わたし!≫
「はい、じゃあ次……おん?」
サトゥーは列の先頭、ツナギを来た整備班の少女に既視感を感じた。
と言うよりも、顔に見覚えがあった。
「何か君……最近会わなかった?」
≪え……あ、会ってないよ~?≫
「……ホントォ?」
≪…………ぷひゅ、ぷしゅしゅ~≫
サトゥーから露骨に目を逸らし、吹けもしない口笛を吹きだすツナギの少女。
程なくしてサトゥーはその子を正体を思い出した。
「あっ!?
俺が高い高いしてから洗濯物みたいに吊り下げちゃった子!
俺が高い高いしてから洗濯物みたいに吊り下げちゃった子じゃないか!」
≪バレた!!≫
「バレた、じゃない!!
ひとり1回言うてるやろがい!!
制服着替えるとか手の込んだ事しやがってからに! ダメです!!」
≪ずるーい!! あの子たち2回やってもらってたもん!!≫
「あっ!!??」
サトゥーの脳裏に、先ほどまでの『警備員の制服を着た少女』達が蘇った。
つまり警備部と整備班で制服を交換する事により、サトゥーの注意をすり抜けて2回目の『たかいたかい』を受けていたのだ。
2回鳥さんをやった子と、既に1回鳥さんをやっている子と、まだ鳥さんをやっていない子の混在。
『あの子ズルい!』『私まだやってない……』という意見が飛び交い、あっと言う間に収拾不能に。
最終的にサトゥーは――
「ぜ……全員2回できらぁ!!」
≪≪≪わーい!!≫≫≫
――全員の二巡目が決定ィィ!!
再び長く伸びていく鳥さん待ちの行列。
そして『たかいたかい』の合間に、よくよく周囲を観察してみれば――
≪≪……≫≫
「はいソコぉ!! そこの二人、制服交換罪で現行犯逮捕ォォォ!!」
≪≪キャ~!!≫≫
「キャ~、じゃない!!
……あ!? おい止めろ!! お前ら、俺の目を盗んで物陰に二人して入っていくムーブを止めろ!!
だるまさんが転んだじゃないぞ!!」
≪≪≪ダルマサン! ダルマサン!≫≫≫
「違う!! そういう遊びじゃないッッ!!」
≪あ、あの子3回やってもらってる!!≫
「だ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
◇
(まずいわ!! 何とかしないと……!!)
ゲート長マサコは焦っていた。
“ペチペチのマサコ”、痛恨のミス。
事態の収拾に失敗した上、あろう事か『大氏族のトップの隠し子』に喧嘩をしかける様な真似をしてしまった。
下手をするとスターゲイト019にシフード氏族が乗り込んできて、物理的に“炎上”する危険すらある。
「停止! 停止! ……停止ィ!!」
謝罪の場がお開きになった後、マサコは大急ぎで自分の執務室へと戻って来た。
そして自席の端末からスターゲイトの管理システムにログイン。
『ゲート長権限』を振り回し、スターゲイト019各部門の予算を強制的に停止させると、残余資産を無理やり一か所へ統合させていく。
事ここに至っては解決手段はただひとつ。
カネで殴る。
圧倒的なカネのチカラでKOするしか無い。
名誉に拘るヤウーシュにどの程度通用するかは不明だが、最早マサコに他の手段は思いつかなかった。
「資金を手持ちの端末に集ゥゥーー!!」
そして集めた金額、計100万コム。
シャルカーズ社会なら生涯働かずとも暮らせる程度はあり、慰謝料としては破格だろう。つーか、これが限界。
予算を停止された各部門から直ちに問題が噴出するのが目に見えているが、物理的に燃えるよりはマシ。
電子マネーを注入した情報記憶端末を握りしめ、マサコは大急ぎで執務室を飛び出す。
向かう先は格納庫。
もう一度サトゥーに交渉を挑まなければならない。
廊下を全力疾走しながらマサコは叫ぶ。決意表明だぜ!
「私がスターゲイト勤め始めの頃……清掃、営業だった時は部署で一番の成績だった! 私生活では積極的にボランティア活動をし……職場では皆から慕われ、尊敬されたからこそゲート長になれた! リゾート星に百アクレの別荘も持っている! 雑誌の表紙を飾るモデルの男の子だって婿にもらった! 税金だって他人の50倍は払ってる! どんな敵だろうと私は謝り倒してきた!! いずれレーン長にだってなれる!
私は……わたくしはスターゲイト019ゲート長“ぺちぺち”のマサコだわぞぉぉーーー!!」
スターゲイトを統括する『ゲート長』。
そして複数のゲート長を統率する『区間長』。
全ての区間長の上に立つのが、シャルカーズ線のトップ『レーン長』だった。
マサコは現場からのたたき上げでスターゲイト019の頂点にまで上り詰めた。
最近では区間長も夢物語ではなくなってきたし、そうすれば何れレーン長にだって手が届く。
しかしスターゲイト019が焼け落ちれば、同時にマサコの野望も消えてなくなる。
失敗する訳にはいかない!
「サトゥー様はいずこォォォ!!」
――格納庫に到着したマサコ。
サトゥーのであろう宇宙船の近くに、何やらひとだかりがあった。
そしてそこには――
≪だっしゃぁぁぁぁ! ……キャッチ! はぁ⤵、ひぃ⤵、ふぅ⤵≫
――ふらふらになりながら、並んでいる少女たちを順番に『たかいたかい』しているサトゥーの姿があった。
マサコは知る由もないが、監視を呆気なく突破された結果サトゥーは今『3巡目』の鳥さんをしている最中。
全力で少女を『たかいたかい』し、慎重にキャッチして、かつ順番待ちの不正防止――4巡目開始を防ぐ為――で周囲を監視する。
≪やる事が……やる事が多い! コポォ!≫
サトゥーは限界に近づきつつあった。
筋肉の疲労以上に、問題は体温の上昇だった。
終わりなき垂直カタパルト・スローで上がったそれは、前世ならば発汗で下げられる。
しかし今世では『全方位ぶしゃー』が必要で、周囲を少女に囲まれている状況ではそうもいかない。
「サトゥー様~! 今ちょっとよろしいでしょうか~??」
≪デュフフコポォ……ファ!? あ、ゲート長ぉ?≫
結果、頭の回転が鈍っているサトゥーへとマサコは交渉の為に近づいていく。
≪ゲート長も鳥さんれすか~? まだまだ若いれすね~、ドプフォ……良い事ですよ~≫
「鳥さん……? あぁいええ~、先ほどのお話の続きなので――」
「並んで!」
マネーパワーで殴ろうとした矢先。
列の先頭だった少女から『待った』が掛かる。
「みんな並んでるの! 横入りはダメ!!」
「よ、横入り!? 何を言っているの、これは遊びではなくて――」
「ダメ! 並ぶの!!」
「だからこれは遊びじゃ――」
「な、ら、ぶ、の!!」
並々ならぬ気迫に思わず気圧されるマサコ。
そこへ更に、頭の回っていないサトゥーから横槍まで入った。
≪そうれすよ~ゲート長、順番れすよ~フォカヌポゥ……≫
「「「な、ら、ん、で!!」」」
「……はぁん」
サトゥーにまで言われては下がらざるを得ない。
マサコは大人しく鳥さん待ちの行列に並んだ。
そしてようやくマサコの順番がやって来る。
≪ハァハァハァ……!
あ、次は……いよいよゲート長れすねぇ!?≫
「サ、サトゥー様! 先ほどは大変失礼いた――」
≪じゃあコポォ、行きますよ~≫
「――しまして……え?」
交渉再開の為にサトゥーへと歩み寄ったマサコ。
不意にその両脇にサトゥーが両手を差し込んできて、『たかいたかい』の態勢へ。
そして――
≪だっしゃあああああ!!≫
「だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」
――マサコ・イン・ザ・スカイ!!
【 Masako in the sky 】
作詞:マサコ 作曲:マサコ
Masako cries.
(マサコが叫んでいる)
She will come.
(彼女は来るだろう)
She take flight,
(彼女は飛び立つのだ)
beautifully....
(美しく……)
Over valley, and the mountains.
(あらゆる障害を乗り越え)
Rusted pride, on the outsides.
(めっちゃへこたれないし)
She can fly !
(彼女は飛べる!)
She fly high !
(高みへと飛ぶのだ!)
Watch the sunrise, into dawn.
(昇進って夜明けみたいなもんやし)
Watch the rain, lost in wind.
(邪魔されちゃったら泣いちゃうよ)
Watch the sunrise, into dawn.
(でもやっぱり昇進したいよね!)
She can fly !
(彼女は昇進するぞ!)
She fly high !
(そりゃあもうレーン長よ!)
Masako in the sky Ⓜ Masako Record Co.,Ltd
「――ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ~い!?」
お空飛んだマサコが自由落下を開始。
サトゥーはそれを過たず受け止めた。
≪……はいキャッチ!!
ふぅ……ゲート長の鳥さんは終わり。お疲れさまでした≫
「うぅ……あ、ありがとうございました……じゃなくて!! そうではなくて! お、お話の続きを――」
「連続はダ、メ!!」
「「「な、ら、ぶ、の!!」」」
マサコの後ろに並び、今か今かと順番を待っている少女たちからの猛烈な抗議。
サトゥーとの会話をインターセプトされ、しかも――
≪そうだゾ~、ファーブルスコ……ゲート長だからってモルスァ、連続はダメだゾ~! じゃあ次いくぞ~……だっしゃああああ!≫
「イェッフィィィィ!」
「あああああ違ぁぁぁ――」
――頭止まってるサトゥーがマサコの要望に気づかず『たかいたかい』作業に戻ってしまった事で、マサコの交渉再開は敢え無く挫折した。
マサコは再度、鳥さん待ち行列の最後尾へ回る事に。
もう1回並べるドン!
◇
「終わらねェェェェ!」
≪≪≪ねぇ早く~≫≫≫
「ほげェェェェェェ!!」
サトゥーは今『4巡目』の鳥さんをしている。
サトゥーは必死で回数をごまかす不正の防止を試みた。
しかし少女たちの人数が多すぎて顔は覚えきれず、制服交換の攪乱戦術に翻弄され、放熱出来ないので体温は上がり続け――
「監視しました……したんですよ、必死に!」
≪あ、あの子鳥さん5回やってもらってる!!≫
≪ずるーい! わたしもーー!!≫
「その結果がこれなんですよ!!
『たかいたかい』して! 『だるまさんが転んだ』までして! 今はこうして熱暴走までしてる!
これ以上何をどうしろって言うんです! コポォ! どう取り締まれって言うんですか! 助けてサメちゃーん!! ……はっ!?」
≪…………≫
救いを求める様に、サメちゃんの方を見たサトゥー。
そこで目にしたのは宇宙船のタラップに腰をかけ、両手で頬杖をつき、ジト目でサトゥーの方を眺めているサメちゃんの姿だった。
(ま、待たせ過ぎて怒っていらっしゃる……!?)
サトゥーは慌てて『たかいたかい』を中断しようとする。
しかし順番待ちの少女たちの中に――
≪……≫
――悲しそうに肩を落とす子が居た。
実際に『遅れて合流した』『途中で抜けていた』等の理由により、他よりも回数の少ない子が少数ながら混じっている。
(……不憫!)
流石に可哀そうなので、サトゥーは救済措置として『回数の少ない子』限定で『たかいたかい』を続行。
≪……!≫
そういった子が嬉しそうに駆け寄って来て、サトゥーはそれを『たかいたかい』する。
≪ありがとう!≫
「ええんやで」
お礼を言われて、サトゥーもニッコリと返す。
優しい世界。
しかしそうすると同時に現れる。
実際は鳥さんを5回やっているにも関わらず、『わたし少ない……』という悲しそうな顔で列に紛れ込んでくる“ズルい子”が。
頭オーバーヒートのサトゥーはそれに気付かず『たかいたかい』してしまい、程なくして事が露呈すると『ズルい!』『わたしも!』のコンボが発生。
「アイエェェェェーー!?」
“優し過ぎる”サトゥー、『たかいたかい』を続行するハメに。
終わらない無限ループ。
そしてその只中に――
≪サトゥーさまァァ! お話をぉぉ~!!≫
――マサコも居た。
マサコも居て――
「だっしゃあああああ!!」
≪だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――≫
――マサコ・イン・ザ・スカイ!!
≪ち、ちが! 鳥さんじゃなくておはな――≫
「モルスァァァァァ!!」
≪――は゛な゛じ゛を゛ぎ゛げ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛≫
――マサコ・イン・ザ・スカイ!!
≪ちょ……ちょっと話を聞きなさいよ、ボケェ!!≫
「ファーブ……お前今俺の事をバカって言ったか? …………あ!?」
≪あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――≫
――サトゥーがマサコに対し、通算4回目の鳥さんをした時の事だった。
流石のサトゥーも無限カタパルト・スローの疲労と熱暴走により意識が朦朧としており、マサコの『たかいたかい』に失敗してしまう。
高さこそ普段通り10mを超えていたが、サトゥーの右手の爪がマサコの制服に少しだけ引っかかり、放り投げる瞬間に『引き』が発生。
引っかかり自体は次の瞬間に取れたものの、このせいでマサコの体には『回転』が掛かってしまっていた。
「ゲ、ゲート長ぉぉぉ!?」
≪い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ろ≫
「……ろ?」
独楽めいて超電磁スピン回転するマサコの体。
既に受けていた3回の鳥さんによる肉体的疲労。
己の将来の為に交渉を成功させねばという心理的重圧。
そして現在進行形で内臓に掛かり続けている強烈な遠心力。
老境にあるマサコの肉体は、それらの負荷に耐える事が出来なかった。
胃から食道へと内容物が逆流していき――
≪ろっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!≫
「だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛?゛」
≪≪≪に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?≫≫≫
――マサコはリバースした。
説明しよう。
マサコ・リバースとは『虹』である。
≪ぽろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!≫
10mの高さで、超電磁スピンにより『虹』が放射状に広がっていく。
≪≪≪に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!≫≫≫
その場に居合わせた全ての少女たちは、持ち前の反射神経と身体能力とで『虹』の射程外へと素早く退避していった。
しかし取り残されている者がひとり。
「地獄の虹ィィィィィィィ!!」
サトゥーだった。
『たかいたかい』をした張本人は、その場に踏みとどまりゲート長をキャッチしなくてはならない。
たとえ何が降り注ごうとも。
≪ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!≫
「だ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
マサコが『虹』と共に自由落下を開始。
サトゥーはキャッチの為に両腕を広げ――
≪ぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!!≫
「おんぎゃぁぁぁーーー!!」
――そして二人はひとつとなった。
Double KO.
スターゲイト編、次でようやく終わりです




