第78話「吐き出され」
ジュズイ興行、先制攻撃を決意す。
「総員戦闘配置!」
「一班は装備A! 二班は装備Bでハッチ前集合や、急げ」
「メインシステム、戦闘モード起動! いつでも行けるよう電源入れとけぇ!」
慌しくなる艦内。
社員ガショメズ達が忙しなく行き交う中、社長ガショメズは艦橋の中央からキャノピー越しに外の様子を窺う。
駐機場にいる臨検隊の姿を見て取る事が出来た。
間違いなく、こちらへと歩み寄って来ている。
準備は間に合うのか。
それとも踏み込まれるのが先か。
焦れるような時間が流れる中、しかし社長ガショメズは腕組をして、眼を瞑り、悠然と待つ。
やがて――
「社長、準備完了したやで!」
「いつでも行けまさァ!! 号令を!!」
社員ガショメズから報告が上がって来る。
――戦闘準備完了。
社長ガショメズは目を開いた。
駐機場、臨検隊やや遠し。
まだ猶予は残されている。
「……思へば相場は 常の堅調にあらず」
謳い上げる様に声を出しながら、社長ガショメズは足を開き、やや腰を落とす。
同時に、腰に挿してあった棒状のもの――植物由来の素材を骨組みに、これまた植物由来の被膜を組み合わせたガショメズ伝統の携帯型手動送風・温度調整補助具――『セ・スー』を引き抜き、そして勢いよく振るうとそれを広げた。
扇型に広がった『セ・スー』には、ガショメズ語で『大一大万大金』と書かれている。『一人は皆の為に、皆は一人の為に頑張れば、皆がお金持ちになれるゾ』という意味だった。嘘つけコイツら絶対裏切るゾ。
「……帳簿の上に浮く薄利。チャートに映る一番底よりなほあやし」
ゆっくりとしたステップを踏みながら、社長ガショメズが『セ・スー』で空中に文字を描くような動きをする。
同時に首や腕、腰などの関節という関節を一斉に回し始めた。関節を動かすサーボモーターを同じ方向に回し続けるという、体が機械であるガショメズだからこそ可能な独特の動き。
あらゆる関節が回り続けるその奇妙な動きは、複数のサーボモーターを制御して体操縦の巧みさを誇示するガショメズの伝統芸能『癖舞』であった。
「……市場に利幅を詠じ、営業は先立つて破産の風に誘はるる。
粉飾にて決算を弄ぶ輩も、市場オープンに先立つてインサイダー取引にかくれり」
(意味:この世の栄華や営業利益は儚く、無常の風や雲のようにすぐに消えてしまう)
「……」
「……」
「……」
臨検隊が迫る中、社員ガショメズは誰も社長ガショメズの癖舞を邪魔しない。
誰もがその意味と、意義を理解していた。
その癖舞、演目名を『株価熱盛』。
サーボモーターの回転数が上がり、社長ガショメズの癖舞はいよいよ終幕へと入っていく――
「……企業五十年!
銀河の市況を比ぶれば、バブル景気は幻の如くなり……。
一度上場を享け、滅びぬ銘柄のあるべきか……これを経営の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」
(意味:企業は短く夢のようなもの。経営がうまく行かず儲からないのは悔しいことである)
癖舞が終わる。
いつの間にか艦橋に集まって来ていた社員ガショメズ達が、一斉に賞賛の声を浴びせた。
「お見事!!」
「よっ! 熱盛!!」
「値幅制限! 株価ストップ高!」
歓声を浴びながら、社長ガショメズは手にしていた『セ・スー』を両手で握り込む。そしてそのまま圧し折った。
天然素材のそれは、一度折ると自動で修復はされない。『不退転』を意味するジェスチャーだった。
社長ガショメズが振り返る。
そして己を取り囲んでいる社員ガショメズ達に檄を飛ばした。
「敵は……管制室にあり!!
これを制圧して宇宙港ゲートを開放し、『ああああああステーション』から脱出する!!」
「「「応ッッ!!」」」
◇
――カツカツカツカツ。
『ああああああステーション』の中央指令室に、奇妙な音が響く。
音源は指令室最上段、"会長専用席"に座っているゼロバッドだった。
先程からゼロバッドは腕を組み、指先で自分の上腕をカツカツと叩き続けている。
「…………」
「「「…………」」」
沈黙。
誰も何も言わない。
原因は分かり切っていた。暴君の『不機嫌』である。
以前からゼロバッドは不機嫌になると、全ての予定を中断して何処かへと行ってしまう事があった。
恐ろしくて誰も後をつけていないので、どこで何をしているかは不明。ただし戻って来ると機嫌が直っているので、何かしらの息抜きをしているのだろう事は公然の秘密となっていた。
だから今回もそうなる、と思っていたらこの有様である。
むしろ出発前より不機嫌そうで、戻るなり席にドッカリと腰を下ろすとひたすら指をカツカツし続けている。
ルンブルク商会において、この暴君に意見できる者などいない。うっかり勘気でも被ろうものなら、即座に懲罰大隊へと"栄転"の後、明日の朝日は激戦地の塹壕の中で浴びる事になるだろう。
「…………」
「「「…………」」」
無言。
地獄の空気。
――カツカツカツカツ。
ただゼロバッドの、上腕を指で打つ硬質な音だけが響き続ける。
と、その時だった。
突然ゼロバッドが立ち上がり、前方を指さしながら叫ぶ。
「おい、それや!! カメラ戻せぇ!!」
「「「!?」」」
中央指令室の正面には巨大なモニターが設置されており、様々な情報が随時表示されている。その中のひとつが監視カメラの映像であり、たまたま表示されたひとつがゼロバッドの注意を引いていた。
「宇宙港の映像や! 6番の……いや7番のカメラ映像に戻せぇ!」
「ひゃ、ひゃい! ただいまァ!!」
具体的な指示を受けたオペレーターのガショメズが、慌てて手元のコンソールを操作する。そして再び中央モニターに表示された7番カメラの映像。
それは宇宙港の駐機場を見下ろしている映像であり、その中心に写っているのは『ひとりのヤウーシュ』と、その隣にいる『青い服のシャルカーズ』だった。
「……アイツらやないか!!」
忘れよう筈もない。
『吹き溜まり』で『悪くない商店』によるストレス解消を邪魔してくれた、あのコンビである。
最後に目撃されたのは連結通路で、その時は何故かヤウーシュがシャルカーズの写真撮影(?)をしていた。その時に押さえた天井の監視カメラの映像を使い、報復としてゼロバッドは既に二人の事を『凶悪な詐欺師コンビ』として取引禁止の『御触れ』を出してある。
目的のブツが購入出来ず、果たして足を踏み鳴らした事だろう。
それを思えば、少しは溜飲も下がろうというもの。
「ケ~ケッケッケ!
ザマー見ろやで!! ……んでコイツら、駐機場で何してるんや?」
ゼロバッドは映像を注視する。
二人は宇宙船――彼らのだろうか?――の近くで、何やら作業をしていた。
シャルカーズが指差しをしながらあれこれと指示を出し、ヤウーシュがそれに従って装置を宇宙船へと取り付けている。
「……ありゃ二次バリア発生装置か?
アイツらの船、バリア装置が故障か何かしたんか? そんで、それを買いにウチに来た? ……ちょっと待て、何で買えてるんや?」
取引が出来ない筈のステーション内で、ブツを調達している。
ゼロバッドは少し考え、すぐにその理由を導き出した。
「……『吹き溜まり』で買うたんか!!」
『ああああああステーション』内に、ゼロバッドが意図的に残してある『吹き溜まり』。しかしその存在が逆にゼロバッドの報復を邪魔してしまったのなら、何と言う皮肉であろうか。
だが、それならそれで次の『手』もある。
「……閉鎖!!
宇宙港閉鎖や!! それと緊急臨検実施!! 警備班に連絡せぇや!!」
「お、お待ちください!」
傍らにいた秘書ガショメズが、恐怖心を押し殺しながら慌ててゼロバッドへ意見する。
「あの二人の為に宇宙港を閉鎖するのですか!? それでは物流網の停止による経済な被害が――」
「どうでもええわ!!! 閉鎖や言うてるやろがいさっさと閉鎖せんかいッッ!!!」
「――か、畏まりィィ!!」
強権を振りかざすゼロバッド。
映像に視線を戻せば、装置の取り付けたを終えた二人組が宇宙船の中へと入っていくところだった。
時を置かずして出港するのだろう。
だがその前に宇宙港を閉鎖して足止めし、緊急臨検を実施してしまう。
何か禁制のものでも見つかれば万々歳だし、仮に何も無くとも、『吹き溜まり』で入手したバリア装置ならば非正規の商品である事は間違いない。
それを口実に没収してしまっても良い。
何にせよ、相当の『報復』が出来る事だろう。
確かに宇宙港を閉鎖すれば『損』をする。だが最早、金の問題では無い。誇りの問題だった。
――非常事態が発生しました。事態解決まで宇宙港の閉鎖を実施します――
――また緊急臨検が実施されます。全ての宇宙船は現在地で停止してください――
映像の中で、赤色灯が明滅する。
宇宙港のメインゲートが閉鎖され、常駐している警備隊が即席の臨検隊となり、二人組の宇宙船に乗り込むべく駐機場へと向かい始める。
映像を見ながらほくそ笑むゼロバッド。
「ケ~ケッケッケ!!
ワイの邪魔するから悪いんや……あんボケども!! 思い知らせて――ん?」
だがその時、画角の中で異変が起きる。
二人組の宇宙船の近く、停泊している別の宇宙船――ツギハギだらけの機能美に満ちた外見からして、恐らく同族のものだろう――の外装がめくれ上がった。
そしてその内部から露出したのは、砲塔。
「なん――」
砲塔がニュルニュルと有機的な動きを見せ、狙いを合わせたのか静止。
次の瞬間、ビームが吐き出された。
【敦盛】
語りを伴う曲舞の一種『幸若舞』の演目。作者や制作年代は不明。
源平合戦を舞台とした、平敦盛と源氏方・熊谷直実を中心としたハートフルストーリー。(首が)ポロリもあるよ。
バトル・オブ・オケハザマの前夜、戦国メジャーデビューを控えた織田のノッブが舞った事で有名。




