第77話「やったんぞ」
「それで……俺の船に何か用か?」
自分の船の周りをうろつく複数の影。
その不審な後ろ姿にサトゥーは声を掛ける。
その声に反応したガショメズは、何故か嬉しそう(?)に走り寄って来た。
≪旦那~!
旦那がこの船のオーナーで?≫
「そうだが……」
≪いけませんぜ~! 旦那の船、二次バリアの発生装置が付いてませんでさァ! 勿論! 旦那らの腕っぷしが滅法強いのは知ってまさぁ! でも宇宙に出たら話が別ってもんですぜぇ! 宇宙海賊に宇宙怪獣! 二次バリア無しでの宇宙旅なんて危険がいっぱいでさぁ!≫
サトゥーの宇宙船は今、二次バリア発生装置が付いていない。
どうやらその事に対しての"営業"らしかった。サトゥーは適当に相槌を打つ。
「はぁン」
≪そこで旦那、ひとつどうでしょう! ウチらにバリア装置の手配から取り付けまで、一任してくれませんかァ!? いや~旦那は幸運ですぜ!! ちょうど今、ウチらはこの宇宙ステーションから事務所を引き払う最中で! 在庫処分の特別セール中なんでさァ! そりゃあもう勉強させてもらいまさァ!≫
「いや、要らないかな。自分で買ってきたし」
そう答えながら、サトゥーは担いでいるバリア装置をポンポンと叩く。
しかしガショメズが喰らいついて来る。
≪あ~いけませんぜ旦那ァ!
ここ! この『ああああああステーション』は扱ってる"モノ"が悪いって評判なんでさぁ! 取り付けたが最後! 肝心な時に『ドカーン!』でさぁ!≫
「え、そうなのォ!?」
口元に手を当て、驚くサトゥー。
畳みかける様にガショメズが続けた。
≪そうでさぁ!
そこでどうでしょう、旦那! そのバリア装置、ウチらが下取りしまさァ! そしたらそのお金で!!≫
サトゥーの元へ、数人のガショメズが樽状の装置を運んで来る。
どうやらバリア発生装置らしく、事前に準備してあった様だ。それをサトゥーの目の前に置き、バンバンと叩きながら続けた。
≪こっちのバリア発生装置を旦那に譲りますぜ!
しかも!! 今なら!! このバリア装置、取り付け料の方は全額"勉強"させてもらいますァ!!≫
「な、何てお得なんだァ~!!」
無料に驚くサトゥー。
しかし不意に、訝しんだ表情を浮かべた。
「でも……品質の方は大丈夫なのォ?」
≪勿論でさァ! この『ジュズイ興行』、"品質第一"でやらせてもらってまさァ!!≫
ジュズイ興行。
どこかで聞いた名である。
例えば昨晩、どこかの金髪エルフの誘拐を試みて失敗していそうな。
「あ、そっかァ……。
ところでこれ、改めさせてもらっても? 何せホラ、自分の船に付ける装置だからね。自分達で確かめないと」
≪それは構いませんが……旦那、装置に詳しいんでェ?≫
若干、侮る様なガショメズの反応。
『見ても分からないだろ?』という心の声が透けて見える。
サトゥーは返した。
「いや、見るのは俺じゃないよ」
≪え……。あ、自分"達"……? 同行者が――≫
「紹介しましょう……ウチの船、"専属"のメカニック。シャルカーズ大先生です!!」
サトゥーが『ババーン!』と背後を指し示す。
ガショメズ達の視線が集まった先に居たのは、こちらに歩いて来るサメちゃん――両手にバケツ(?)を持ちながら此方へニコニコと笑顔で歩いて来る――だった。
その存在に気付いたガショメズが声を荒げる。
≪ゲェ!? シャルカーズ!!?≫
「お、どうしました?」
どうして慌てているのか、心底分からない。
そんな口調でサトゥーが続ける。
「まるで……実はバリア発生装置に爆弾が仕掛けてあって、知識のないヤウーシュだとそれを発見出来ないけど、シャルカーズに検査されるとバレてしまう事に慌てたような声で……。もしかしてバリア発生装置に爆弾が仕掛けてあって、知識のないヤウーシュだとそれを発見出来ないけど、シャルカーズに検査されるとバレてしまう事に慌てているのではあるまいな……?」
≪そそそそそ、そんな事は!!≫
どう見ても慌てているガショメズ。
"譲る"と言って置いたバリア装置を担ぎ上げると――
≪実はバリア発生装置に爆弾が仕掛けてあって、知識のないヤウーシュだとそれを発見出来ないけど、シャルカーズに検査されるとバレてしまうから慌てているなんて事は、絶対に有りませんでさァ!! そ、それとは全く関係ないけど、急用を思い出したのでこれで失礼しまさァ! 閉店ガラガラほなサヨナラァ!!≫
――そう叫びながら、ジュズイ興行の面々が大急ぎで逃げ去っていく。
そこへ入れ替わる様にサメちゃんが戻って来た。
≪サトゥーさん買ってきました~。 ……何ですか? あのガショメズ達≫
「さてね……。多分、流星詐欺じゃないかな?」
≪流星詐欺……? あぁ……≫
納得した様に、サメちゃんが頷いた。
【流星詐欺】
宇宙港などで見られる犯罪行為のひとつ。
まず宇宙船のオーナーに対し、保守整備などのサービスを安価で持ち掛ける。実際は爆弾などを仕掛ける『破壊工作』であり、宇宙船が出発すると後を付け、帰還不能な位置に来てから船体を破壊して難破させる。その後、偶然を装って宇宙船に駆けつけると今度は『断れない』事を盾に、法外な『救助費用』を請求する手口が一般的。酷い場合は有り金を根こそぎ奪った後、救助する事なく被害者を"流れ星"にして、口封じしてしまう事例もあると言う。
(ミンメーン出版『気を付けよう。美味い話にガショメズの影あり』より抜粋)
≪あ、飲み物です、サトゥーさん!≫
「あ、ありがとう……」
サメちゃんがバケツを差し出してきた。
バケツ。バケツ……?
「ず、随分いっぱいだね……?」
蓋とストローのついた、バケツめいたコップ。
受け取ったサトゥーの手に、シュワシュワという刺激が中の液体が炭酸である事を伝えて来る。
左右に振ってみる。タプンタプンと重量感一杯のそれは、体感的に10kgを優に超えているだろう。
サメちゃんが嬉しそうに説明する。
≪はい!
ラフィド味のギャラクシーサイズです! 私これ好きなんですよっ≫
「あ、そっかぁ、ギャラクシーかぁ……」
ギャラクシーサイズはギャラクシーなので、容量は14㍑である。
ギャラクシーなので。
「――あ、それで幾らだった?」
≪いいですいいです! 今度こそ私のおごりです!≫
「あ、ありがとね……そ、それじゃあ頂こうかな……」
サトゥーはストローに口を付け、少し飲んでみた。
……ファ〇タ・オレンジの味だった。
でも14㍑。
(の、飲めるかな……?)
◇
じゅぞぞ~。
サトゥーの宇宙船、その操縦席にストローで飲み物を啜る音が響く。操縦席にサトゥーが座り、副操縦席にサメちゃん。
既にバリア発生装置の取り付け作業――サメちゃんが指示を出し、サトゥーが人型重機の代わりをする――は完了している。後は宇宙港から発進するだけだった。
「それじゃあ出発しま~す」
≪は~い≫
サトゥーが宇宙港の管制室へ発進要請を出そうとした、その時。
突然、駐機場にサイレンが響き渡った。
天井の赤色灯が回り出すと、外部へ出る為のメインゲートが閉まり始める。同時に、通信機から管制室の声が流れた。
≪――非常事態が発生しました。
繰り返します。非常事態が発生しました。事態解決まで宇宙港の閉鎖を実施します。全ての船は出港を制限されます。繰り返し、お伝えします――≫
「え~、何々~? じゅぞぞ~」
≪何でしょうね……じゅぞぞ~≫
何か問題が起きたらしい。
だが特に自分達は関係ないだろうと、気楽なサトゥーとサメちゃん。
通信が続ける。
≪――また緊急臨検が実施されます。
全ての宇宙船は現在地で停止してください。繰り返します。緊急臨検が実施されます――≫
「臨検だって。じゅぞぞ~」
≪何調べるんですかね。じゅぞぞ~≫
「どうせガショメズの――ん?」
サトゥーはある事に気付く。
駐機場の外――キャノピーから見える位置――から、何やらガショメズの一団がズラズラと歩いて来るではないか。しかもその一団の進行方向が、心なしか『こちら』である様に見える。
もしかして――
(――もしかして……"緊急臨検"をする船って……)
◇
もしかして緊急臨検をする船って、自分の船ではないのか……?
ひとりのヤウーシュがそんな事を考えていたのと、同時刻。
たまたまそのヤウーシュの宇宙船の近くに、『ジュズイ興行』に所属する船が三隻停泊していた。
「あ……アカン!!」
「こらアカンでぇ!!」
ジュズイ興行は焦っていた。
ジュズイ興行は昨日、ルンブルク商会との決別を決意している。しかし決意したのはいいが、縁切りの為に行った『ローディエル誘拐作戦』に失敗してしまった。恐らく今頃、怒り心頭のルンブルク商会がジュズイ興行の行方を捜している頃だろう。
早急にこの『ああああああステーション』から脱出しなくてはならない。
しかし同時に、移籍先となる他の『十人委員会』向けの手土産も用意しなくてはならない。大分グレードは下がってしまうが、ルンブルク商会麾下の宇宙ステーションで『流星詐欺』をブチかましてやったという実績なら最低限、自分達の面目も立つだろう。
――そう考えて実行しようとした『流星詐欺』。
丁度、バリア装置もつけずに旅をしていた間抜けなヤウーシュもいた事だし、しめしめと声を掛けたのに! 専属のシャルカーズが同行していたから失敗した等と、誰が想像出来るものか!
「ルンブルク商会が乗り込んで来るでぇ!」
「うああああもう終わりやぁぁーーー!」
手土産を諦めて逃げるのか。
それとも見つかるリスクを冒して、もう少し宇宙港で粘るのか。
引っ越しの準備だけは済ませてある三隻の船の中で、ジュズイ興行は頭を悩ませていた。その矢先に起きた宇宙港の閉鎖と、緊急臨検。恐らく、あのヤウーシュから通報があったのだろう。自分達を捕まえる為に、宇宙港が行った措置である事は明白だった。
だって……だってルンブルク商会! こっち来るし!!
「や……やったんぞ……」
「社長!?」
ジュズイ興行の長、社長ガショメズが徐に呟く。
このまま臨検されたら、踏み込まれたら負けるだろう。多勢に無勢。元より、圧倒的な兵力差がある。守ったら……負ける!
「やったんぞ……やったんぞ! やったんぞォ!!」
「お……応!!」
ヤラれる前にヤる。
先手必勝である。
「やったんぞ!」
「「「応!!」」」
「やったんぞ!」
「「「応!!」」」
「やったんぞォェェ!!」
社員達は不安よな。ジュズイ興行、動きます。
【14㍑のファ〇タ・オレンジ】
人類は飲んではいけない(戒め)。
無理して飲んだ場合――急性循環不全、意識障害、多臓器不全により即死する危険あり。
良い子の皆は程々の量を飲もうね!




