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第73話「思わず声を」

投稿100話目

いっぱい読んでくれてありがとう!!

『ああああああステーション』内部にある工業エリア。

そこでは衛星や宇宙船、居住モジュールの製造・組立が行われている他、外部から持ち込まれた鉱物の精錬等も手広く行われている。

各種族の観光客も訪れる他のエリアと異なり、訪れるのはある程度の専門性を持った層に限られる為、装飾は最低限で華やかさは無い。

鉄と錆と機械が剥き出しに並んだ、無骨でシンプルな空間になっていた。


一歩足を踏み入れれば、大型製造機の低い動作音や、ロボットアームの甲高いモーター音が聞こえて来る。

漂って来るのは溶接や切断作業によって発生した金属の焦げた臭いと、プラズマや電気機器から生じているオゾンの、どこか漂白剤を思わせる鋭い匂い。


空調システムが働いているのでそこまで強く匂いはしないが、他のエリアと明らかに趣きを異にしているインダストリアルな空間を、ヤウーシュとシャルカーズの二人組――サトゥーとサメちゃんがテクテクと歩いていた。

先程までの『撮影会』とは打って変わり、何故か妙にテンションが低い。

別に喧嘩した、とかではなく――


≪あの……何かすいません……≫

「あ、いや、別に……」


――二人とも平常心(シラフ)に戻っただけだった。


端的に言えば、先程まで二人は頭がおかしくなっていた。

サトゥーに『かわいい』と褒められテンションがブチ上がってしまったサメちゃんと、そんなサメちゃんを見て『う~ん記念撮影せねば!』と使命感に駆られてしまったサトゥーによる『アンサンブルやらかし』だった。


≪あの……写真どれくらい撮ったんですか?≫

「えーと……10テラピクセル※で2万枚くらい……」(※解像度が地球製宇宙望遠鏡の100倍)

≪よ、容量の邪魔だったら消しちゃっていいですからね……写真……≫

「いや……別に……良く撮れてるのあったら、後で送るよ……」

≪ありがとうございます……?≫


そんな会話をしながら歩く事しばし――



「お、この辺りかな?」


――二人は目的の場所へと辿り着く。


そこは巨大な工場を思わせる建物が幾つも並んでいるエリアだった。

通りに面しているシャッターは開け放たれており、中を覗けば宇宙船の組立、あるいは修理が行われている。


それらを眺めながらサトゥーが切り出した。


「まぁ、取り敢えずこの『ああああああ・メカニック・ショップ』ってとこに入ってみようか」

≪はーい≫


そう言って、二人は目の前の『ああああああ・メカニック・ショップ』の中へと入っていく。


『二次バリア発生装置』を求めて幾星霜……。

これでようやく手に入るだろう。

一安心である。





――数分後。


二人が『ああああああ・メカニック・ショップ』から出て来た。

ただし何故か手ブラ。


サトゥーが口を開く。


「……こういう事もあるよ」

≪でも……何か釈然としません≫

「まぁ……とりあえず他に行ってみよう」

≪はい……≫


何やらバリア装置は手に入らなかったらしい。

中で一体何があったと言うのか……。


だがこのエリアには宇宙船修理のショップが乱立している。

バリア発生装置など幾らでも手に入るだろう。心配は無用である。

二人はそのまま『ああああああ・メカニック・ショップ』の隣にあった『うわめっちゃ安い・スペースドック』の中へと入っていった。



――そして数分後。


やはり手ぶらで出て来る二人。

怪訝な表情を浮かべながら、サメちゃんが言った。


≪……何かおかしくないですか?≫

「ま、稀によくある事だから……」


またしてもバリア装置が手に入らなかったらしい。


先程から何が起きていると言うのか……。

ちなみにサメちゃんの尻尾が『ぺし……ぺし……』と床を叩き始めている。弱スタンピング……初期ぷんすこ兆候だった。


「ま、まぁ……こういう日もあるよ。ほら、あそこなら有りそうじゃない?」

≪……行ってみましょう≫


サメちゃん、癪に障ってむしゃくしゃしたシャーク……。

眠れる巨大な不発弾。自爆、誘爆、御用心。

サトゥーの先導で二人は通路を挟んだ向かい側、『損はさせまへん・スクラップ・ヤード』へと向かった。





宇宙船の格納庫めいた『損はさせまへん・スクラップ・ヤード』の内部。

停泊している宇宙船――外観から恐らくはガショメズ製――には複数の作業者が取りついており、恐らくは溶接作業だろう火花を飛び散らせている中、その隅にあるカウンターでサトゥーとサメちゃんは受付のガショメズと対峙していた。


≪おーきに! それで何探しとるんや?≫


サメちゃんはチラリと、ガショメズの背後にある棚を確認する。

そこには複数の"樽状の装置"が収められており、紛れも無くシャルカーズ製の二次バリア発生装置だった。

しかも『これ超お得!』『めっちゃセール中!』と張り紙がしてある。


確かに在庫がある事を確認してから、サメちゃんは切り出した。


「すいません、二次バリア発生装置をください。そこのマークⅣがいいです」

≪あいよ! 嬢ちゃん運が良いでぇ、今これお買い得セールやっとったんや!≫


やっと買えた。

三軒目にしてようやく目的を達成した事に、サメちゃんが安堵を息を漏らす。


「……ふぅ」


――と、その時。


受付ガショメズが急に虚空を見上げると、モノアイをピカピカと光らせた。

サメちゃんはそれが『体内通信による外部とのやりとり』である事までは見抜いたが、暗号化されているので内容までは分からない。

するとガショメズが突然、手元のタブレットに視線を落として何かを確認し始める。

そして顔を上げると――


≪嬢ちゃん悪いな。品切れや≫

「……え?」

≪バリア発生装置は品切れになったんや。帰ってくれるか?≫


――急に発言を翻した。


「ちょっと待ってください……何で嘘吐くんですか。ありますよね在庫、そこに!」

≪……うるさい客やな!≫


受付ガショメズはおもむろに屈むと、カウンターの裏から何か取り出す。

それは『売約済み』と書かれた赤いシールで、次々と棚のバリア装置に貼りつけ始めた。


≪これも! これも! 全部予約が入ったんや!!≫

「なっ――」


そうして在庫を"ゼロ"にしてしまったガショメズが、サメちゃんに向き直ると続ける。


≪これで在庫ゼロや! 分かったら帰ったってくれ!≫

「な、何ですかそれ!? ちょっと待ってください!」

≪帰ったってくれーーーーー!≫


取りつく島も無いとはこの事か。

追い立てられる様に、サメちゃんとサトゥーは『損はさせまへん・スクラップ・ヤード』の外へと出される。

建屋から出た途端、背後で『ガラガラガッシャーん!』とシャッターが閉まってしまった。


唖然とするサメちゃん。

しかし次第に尻尾が揺れ始め、遂に強く床を打った。

スタンピング(強)である。まずい……プンスコ状態だ!


「な……何なんですかさっきから!?」


1軒目からこの調子だった。

1軒目も、2軒目も、そして一番酷い3軒目。

在庫を尋ねると『有る』と言うから頼めば、何故か途中から『やっぱり無い』に変わって売ってくれなくなってしまう。

そして理由は聞いても教えてくれない。何たる理不尽か。


「もーーーいいです! サトゥーさん他行きましょう!」


まだ慌てるような時間じゃない。

バリア発生装置を扱っている場所は他にもあるのだ。

売りたくないなら、それでも良いんじゃない? こっちは他に行くだけだからね!


次はどこにしようかと、通りに目を向けたサメちゃんだったが――


≪あ、こっち見とる!?≫

≪次こっち来る気やで!!≫

≪シャッター降ろせや! 閉店やーー!!≫


ガラガラガッシャーん!!

何やら遠巻きに様子を窺っていたガショメズ達が、逃げる様にそれぞれに店舗に飛び込むと、次々にそのシャッターを降ろし始めてしまう。


程なくして活気と喧噪に満ちていた筈の通りは、しんと静まり返った『シャッター街』へと変貌してしまった。


「……」


なーんか静かですねぇ。

通りには誰も居ないし、先ほどとはえらい違いだ! ガショメズ達は軒並み居留守しているのかもな。


びたーん!

その静寂を破ったのは、サメちゃんの尻尾が床を激しく叩く音。

スタンピング(最強)。

まずい、ストロングぷんすこ状態だ!


「むっきーー! 何なんですかこれ! さっきから!」≫

≪まぁまぁサメちゃん……とりあえず歩こうよ≫


サトゥーに促され、とりあえず歩き始めながらサメちゃんは愚痴る。


「そもそも在庫が無いなんて、何であんなすぐバレる嘘吐くんですかね!?

 もーーーーだから私、ガショメズって嫌いなんです!! すぐ嘘吐くし! 約束守らないし!! そう思いませんか!?」

≪うーん……まぁ正直『嘘』に関しては『文化の差』って部分も大きいから、仕方ないっちゃあ仕方ないんだけども……≫

「えっ」


まさかの裏切り。

サトゥーがガショメズをフォローした!!

追求! せずにはいられない!


「サトゥーさん!? 何でガショメズの肩持つんですか!!」

≪いや、肩は持ってないよ? 確かにガショメズは嘘つきクソったれファッキンクソ団子クソうんこ詐欺師クソクソうんこボケカスゴミカスのペテン塊だと思うよ?≫

「そこまで言います?」

≪でも他の種族と『約束』に対するスタンスが違うというか……例えばシャルカーズとアルタコ、後たぶんローディエルも『約束を守る』のを美徳としてるでしょ?≫

「それはまぁ……勿論」


いつの間にかマスクを装着していたサトゥーが、顔の前で指をくるくる動かしながら続ける。


≪だから約束を破る事は『悪徳』で、約束を破ると『約束を破るなんて酷い奴だ』って責められる。するとみんな約束を交わす事に慎重になって、その代わり『交わした約束』はキッチリ守ろうとする。これが『約束を守る』文化圏での行動≫

「……ガショメズは違うんですか?」

≪ガショメズの文化では『儲ける』事が美徳だから、利益が出るなら約束を破っても『悪徳』にならない。すると約束のハードルが低くなって、ぽんぽん安請け合いをしてぽんぽん破る。なので『約束を破るなんて酷い奴だ』って責めても、ガショメズにすれば『こんな損する約束を守らせようとするなんて、お前はなんて酷い奴だ』ってなってしまうのが『約束を守らない』文化圏の感覚だから……まぁ分かり合うのが難しいというか……」

「むむむ……」


どうやらガショメズにはガショメズの理があるらしい。


ちなみにサメちゃんは日頃、サトゥーと接しているせいで(?)であまり実感していないが、どちらかと言えばヤウーシュも『約束を守らない』文化圏に近い。

何せ『強さ』が美徳で、『弱さ』が悪徳。

つまり約束とは守るものではなく、()()()()もの。

仮に約束を破られても、それは『守らせる』事が出来なかった側の責任であり、破った事自体はそれほど責められない。

(一応、道徳的な義務はある。非常に軽いだけで)


え? 守らせる方法?

それは勿論『暴力』だね! 暴治主義バンザイ!

閑話休題。


「む~!

 で、でも! 嘘は良いとして、いや良くないですけど、バリア装置を売ってくれない事に関してはただの嫌がらせじゃないですか!≫

≪それで……その事なんだけど、多分これが原因かな?≫


サトゥーが顔の前で動かしていた指を、こちらに向けて『ぴっ』と動かす。

どうやらマスク越しに、空中投影された情報を閲覧していたらしい。今のは映像共有の為のフリック操作だろう。

サメちゃんは生体電装制御(BCC)でそれを確認する。


そして思わず声を出してしまった。


「な……何ですかコレ!?」



【追記】

長くなってしまったので一旦区切り

バリア装置ですが今度こそ買えます。もう長引かないので安心!

↓ヒロイン人気投票↓

https://x.com/nyupunyugu/status/1917162944720511093


皆さま投票いっぱいありがとうございます!

白熱の接戦です! 勝利は誰の手に! Xの結果と前回コメントとの総計を明日発表するので、お楽しみに!

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嘘つき云々以前に誰かの妨害っぽいような? >>ガショメズの文化 ……ミミズ、ガショメズのミミズって寿命どのくらいなんだろ淘汰性が高くてストレス社会っぽいしオアシス論法もあるし実質、半年…? >>ヤウ…
100話おめでとうございます! う~ん。ゼロバットがあの時の映像でも流して、手強い交渉相手だぞってやってんのかな?騙してでも利益追求信念のガショメズからしたら相手したくない客になるし。
まあ、ゼロバッドが報復としてやってるんでしょうが…
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