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その画家はたったひとりを【小説風】【贅沢な悩み】
描きたかったのは
たったひとり
この筆に込めた真心を
捧げたい人は
たったひとりだった
昔から
今も
モデル志願の子なら
後を絶たなかった
まだ
手がけている絵が
完成しないうちから
次はわたしを
いやあたしよ
モデル志願の子なら
掃いて捨てるほどいた
こんなことを言ったら
バチが当たるだろうけれど
まさに玉石混淆
絶世の美女から
モブ顔の一般市民まで
引く手あまただったよ
何度も
何度でも
頼んだ
あの人は
頷くことはしなかった
それでも
諦めきれなかったぼくは
目で見て覚えたあの人を
何枚も
何枚も 描いた
そうだ
描きたかったのは
たったひとり




