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異界の月【幻想】【廃墟】【夕暮れ】
行こうか
目線の下にがれきは
山ほどあったが
目線の上には
空しかなかった
夕暮れが進む
少し藤色の混じる空
オレンジの陽射しが
斜めに
瞳の中に入ってくる
申し訳程度に浮かぶ雲は
淡くあわく
薄紅色に染まって
何かを恥じらっているよう
風が運んできた匂いは
わずかばかり焦げていた
もう
煙は残っていなかったが
熱く熱せられたコンクリートのそばで
黒くなった街路樹からか
いやに良い匂いがしていて
それだけ
受け入れがたかった
日が暮れるぞ
促されて
腰を上げる
安全を確保した
狭い寝床で寝転がって
今宵も異界の月は
我らを照らす




