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逃避行
今
彼らは
生まれ故郷である
この世で最も高くに位置する
山脈の頂から
はるか遠くを望んで
山を下る決心をしたところ
わずかな手荷物が
逆にその意志の固さを物語るよう
彼らの顔はみな一様に笑んでいた
「この山は下るのは簡単だが
登るのは非常に難しい
覚悟しなさい
其方らは恐らくもう二度と
この景色を眺めることは
叶わぬであろう」
彼らを見送る形の長老は
引き止めるでも
喜ぶでもなく
ただ淡々と未来を語った
それを聞いた彼らは
ふるさとの
朝を見て
昼を過ごして
夜の星に包まれて
澄み切った明け方に
旅立った
数日後
空気が薄まりすぎた山頂には
生き物は
誰も
残らなかったというよ




